第201話 情報共有
「さて、みんな集まったところで会議をしよう」
拠点のメンバーが席に座ったのを見た俺は話を切り出した。
「今日の昼、突然ルナとゼオが襲われた」
「はっ?」
俺の言葉に依頼帰りのカルロスが即座に反応する。
「幸い相手は大したことなくて、ゼオが取り押さえてくれたんだけど、次もこういった事があるかもしれないから、一度二人で外に出歩くのを禁止にしようと思う」
「……どこのどいつだ。そんな事しやがったのは」
「それは今から話そうと思うんだけど……ルナ、ゼオ、それで納得してくれる?」
「……うん」
「……分かりました」
明らかに気落ちしている二人。
それはそうだろう。
やっと人の目を気にせず、外で遊べるようになったのだ。
また以前と同じなんて窮屈で仕方がない、と思っていることだろう。
「二人とも安心して。この件が済んだら、また自由にしていいから」
「それでレオンちゃん。襲った奴ってどうしたの?」
「もちろん処理したよ」
「誰が?」
「レティナが」
そう言ってレティナに視線を向けると、彼女は微妙な反応をして苦笑する。
……あんまりこの会話は掘り下げない方がいいな。
「そっ……か」
「うん、まぁ情報はちゃんと吐かせたから。まず襲った奴らはこの国の者じゃないんだ」
「というと?」
「アーラ王国の貴族の命令を受けて、この国にやってきたらしい」
「アーラ王国?」
カルロスが怪訝な顔をして、口を開く。
「そう。あっ、そういえば、カルロスはアーラ王国に行ったよね?」
「あぁ、一年位前にな」
「シュバーデンって貴族は知らない?」
「知らねぇなぁ。俺は闘技会に参加して帰ってきただけだかんな」
「なるほど……そいつがエルフを攫うように命令してたんだけど……」
「ちっ、こうなるならゼオを依頼に連れてった方がマシだったぜ」
そう舌打ちしたカルロスは、苛立ち気味に拳を握った。
今日彼がこなした依頼はAランクの依頼だったらしい。
自分に絶対的な自信を持っているカルロスだが、ゼオの事になると慎重になり、高ランクの依頼にはできるだけ連れて行かないようにしている.。
それが正しい判断だと思う俺は、素直な自分の言葉を口にする。
「いや、俺がカルロスの立場でも連れて行かないし、あまり気にしないでっていうのは無理だろうけど、カルロスが悪いわけじゃないよ。今回はタイミングが悪かっただけだ」
「……はぁ」
仲間想いのカルロスだ。
こんな言葉だけの慰めで切り替えられないのは当然だろう。
「ごしゅじん、ミリカ知ってる」
「えっ?」
「シュバーデン・レブナルド、アーラ王国の三大貴族」
今まで黙っていたミリカはそう言って、言葉を続けた。
「レブナルド家、ルガヴィフ家、グロドルー家。数百年前からアーラ王国、統治していた」
「ほう」
「十一年前、女王になったイザベラ・プロセウス・メアリーの独裁に反旗を翻した。ただ失敗。それ以降、飼い犬。その飼い犬の一人が、シュバーデン・レブナルド」
「へぇ~。ミリカは本当に何でも知ってるね」
「嬉しい」
今出た名前を全部覚えるなんて俺には不可能だ。
もはや覚えてる名前など女王のイザベラくらい。
いや、シュバーデン・レブナルドも覚えたな。
「……処理?」
「……できそう?」
「ごしゅじんの為なら」
できると即答しない辺り、ミリカでも難しいのだろう。
さて、どうするか。
「全員で乗り込めばいいんじゃねぇか? てか、そうしねぇなら俺が行くが?」
「カルロス、あんた単純すぎ。アーラ王国に潜入、情報収集、シュバーデンの暗殺、これ全て身分を伏せた状態でやらなくちゃいけないのよ? あんたが一番苦手な事でしょ」
「あぁ? 別にばれたっていいじゃねぇか。こっちはルナとゼオが襲われてんだぞ?」
「それは分かるけど、一旦冷静になりなさい。私が言うのも説得力ないけど、感情だけが先走って、迷惑を掛けるのは自分だけじゃないの。レオンちゃんもそうだし、最悪この国には居られなくなるかもしれない……分かるでしょ? この拠点から出なくちゃいけなくなるって意味」
「……確かにそうか」
……やけに物分かりがいいな。
俺はカルロスの反応に少し驚いていた。
普段ならマリーの言葉さえ聞かずに、ルナとゼオの為に今からでも動き出すような奴だ。
だが、ここで踏みとどまる理由はなんだ?
「この拠点から出なくちゃいけない」 というマリーの言葉にカルロスは納得した様に見えたけど。
「じゃあ、マリーはカルロスの意見に反対なんだね?」
「もちろんよ? レオンちゃんも面倒事になるのは嫌でしょ?」
「そうだけど……それだけが反対の理由ではないよね?」
「……」
「この拠点から出なくちゃいけなくなる事に反対ってことで合ってる?」
「……っ」
マリーは俺の言葉に何も言えず俯く。
やはりそうか。でも、どうしてだろう?
マリーも俺たちが国から追われるかもしれない事件を起こした。そうなればこの拠点から出ると同義になる。頭のいいマリーがそれを理解しないまま犯行したなんてことはまずないだろう。
今回の件とスカーレッドの件の違いってなんだ……?
思考を巡らす俺に対して、隣に居たレティナはぽんぽんと優しく肩を叩いた。
「レンくん、あんまり考えないで?」
不安そうな声色に表情。
こういう時は大概四年前に関することだと、今までの経験が言っている。
……そういえばマリーは
確か過去を改変できる魔法だと勘違いして。ということは、過去を改変出来たらこの拠点に固執する意味はなかったっていうことじゃないか?
逆に言えば、現状はこの拠点を出るわけにはいかないと。
ならもしかして、この拠点には四年前の出来事を思い出すカギになるものが……ある?
「レンくん……」
寂し気なレティナの声を聞いて、はっとする。
いけないいけない。
それが分かったところで俺はもう何も思い出さないって決めたんだ。
「ごめん、もう考えないから大丈夫だよ」
そう言って、レティナの頭を優しく撫でる。
すると、
「なぁ、レオン。乗り込むのがだめっつーなら、どうする?」
カルロスが空気を変えるように口を開いた。
「う~ん、正直そのシュバーデンって奴に何かしら罰は与えたいんだけど……」
「身元がばれずに潜入するのは相当きついぞ? あの国は不気味なくらい監視されてっから」
「監視……?」
よく分からないことを言うカルロスは言葉を続ける。
「街中に変な目玉みたいなもんがあんだ。ずっと見られてるような錯覚になって、気持ち悪ぃ気分になる」
「……ミリカ、何か知ってる?」
「知らない」
「ふむ」
俺は顎を触って思考に耽る。
正直カルロスの言うその目玉に関しては、直接見て見ないと分からない。
魔道具なのか、俺たちの知らない魔法なのか……
どちらにしても、その監視の目をすり抜けなければいけないようだ。
外套を着たら何とかなると思ってるのだが、ちょっと甘すぎるか?
俺たち全員が顔を隠していたら、そりゃ疑いの目を向けられるだろうけど、数人……いや、俺一人なら。
「ねぇ、レンくん。こういう事ってルーネさんの方が詳しいんじゃない?」
「うん、だから明日聞きに行こうと持ってる。それにリリーナにも
「……ちょっとめんどくさい事になってきたわね」
各々が額に皺を寄せて考え込んでいる。
皆が皆、エルフの事を……ルナとゼオの事を守りたいと思っている。
リリーナは何か行動を起こしているのだろうか。
早く返事が欲しいところだ。
「とりあえず、今は様子見だな」
「そうなるね……」
「うしっ、じゃあ解散で。ゼオ、もう寝ようぜ」
「……はい」
元気なさ気な返事をしたゼオは、席を立ちあがる。
そんな様子を見たカルロスはふっと笑い、口を開いた。
「寝る前に絵本読んでやるよ」
「えっ……?」
「前に読んでやったやつ好きだろ?」
「……ふふっ。カルロスさんが読んだら、興奮して眠れなくなっちゃいそうです」
「まぁそうなったら、俺だけ寝るわ」
「えぇ~! 酷いですよ~!」
ゼオはダイニングから出ていくカルロスに付いていく。
ふむ。
ゼオの事はサスロスに任せれば、大丈夫だな。
俺は……
「ルナ、今日は一緒に寝ようか」
「え? いいの?」
ルナは俺の言葉を聞き、マリーに視線を向ける。
「……今日は目を瞑ってあげるわ」
「やたー!」
「じゃあ、ルナちゃん。着替えたら一緒にレンくんのお部屋行こうか」
「……レティナ?」
「マリーちゃん、一人も二人も同じだよ?」
「はぁ……まぁいいわ。でも、今日だけよ?」
「うん!」
「ねぇねぇ、レオン。ルナも絵本読んでほしい!」
「ん、いいよ」
マリー公認で初めから一緒に寝れることが嬉しいのだろう。ゼオと同じようにルナの表情は明るくなった。
出来るだけ早めにこの問題を解決しないとな。
俺はルナの笑顔を見ながら、そう決意するのであった。
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