第188話 不信感③
あの後ミャーの宿屋を突き止めた俺は、今日の報告と明日の依頼を踏まえてギルドマスター室に訪れていた、
「それで明日は予定通り北の森に行けばいいんですよね?」
「あぁ、そうだ。レオンはあの三人が死なぬよう立ち回ってくれ」
「はぁ……ミャーはもちろんそうしますけど、あの二人もねぇ……」
あまりというか、全く気乗りしない。
あの現状を見せられて守るべき者とは思えないからだ。
「まぁ、そう言わずに頼む。君が居なければあのパーティーは間違いなく全滅するだろう」
「そうですけど……死で償うのもいいとは思いますよ」
「私がそれを許すと?」
「許しませんね」
きっと二人の処罰はそう重くはない。
最低でもギルドからの追放。
最高の場合でも数か月牢獄にぶち込まれるだけだ。
なら、いっそのこと俺が……
「いかんぞ」
「……」
俺の心を読んでいるかのようにマスターはそうはっきり言葉にする。
まぁ、仕方ないか。
「分かりました。あの二人の処遇はマスターにお任せしますよ」
「うむ」
「ん? そういえば、今日はカレン居ないんですね」
「あぁ、最近働き詰めだったからな。今日はゆっくり羽を伸ばしてもらっている」
「なるほど」
思えば、俺が<月の庭>に訪れる際、必ずあの子は働いていた。
アリサさんよりも顔を合わせた頻度が高いくらいだ。
「じゃあ、俺はもう行きますね」
「うむ。期待して待っているぞ」
マスターに頭を下げ、部屋から退出する。
周辺の森を出て、北東に進むところ二十分ほど。
なので、今日のような朝から依頼に行くわけでもなく集まるのは昼過ぎだ。
それまで寝ていようかな。
そんな事を思いながら、俺はゆっくりとした足取りで拠点を目指すのであった。
「あれって……」
<月の庭>を出て、数十分ほど。
街頭に照らされている街の中、先程後を付けていたミャーが一人壁に凭れ掛かるようにして座っていた。
「どうしたの? こんな所で」
俺はそんなミャーに近寄り、声を掛ける。
「あっ、レイン……えっと……」
この子はどうやら会話に行き詰った際、口ごもるのが癖のようだ。
「夜風を浴びに来ただけにゃ」
「何かあったんでしょ?」
「……っ」
無理やり作った笑顔でそう言われても、ちゃんと隠している事を聞くまで引き下がれない。
そう思った俺は、ミャーと目線が同じになるようにしゃがんだ。
「……宿屋を追い出されたのにゃ」
「えっ? どうしてそうなったの? 何かトラブルに巻き込まれたとか?」
ミャーは俺の言葉に首を振る。
きっと金銭関係での理由だとは思うが、知らない振りを決め込まなくてはならない。
「違うにゃ。ただ……お金が無くて」
「? さっき銀貨二枚貰っていたよね? それに昨日も依頼に行ってたじゃないか」
「……全部ウランたちに渡したにゃ。あっ、でも、勘違いしないでほしいのにゃ。あくまで強引にとかじゃにゃくて、仲間だから……」
ふむ。
こうなるまで我慢しなければならない仲間ね。
俺はふぅと一度心を落ち着かせて口を開く。
「じゃあさ、素直に言おうよ」
「にゃ……?」
「仲間って助け合うものだよね。泊る所もなくちゃ、明日の依頼にも支障が出る。だから、今日だけは二人に頼ろう。俺も付いていってあげるからさ」
安心させるように優しく言葉にした俺に、ミャーは少し泣きそうな顔をする。
「……にゃ。レインはとってもいい奴なのにゃ」
「そんなことないって。そうと決まれば早く行くか」
「にゃー!」
一旦元気を取り戻したミャーと共に、あいつらの宿屋へと足を進める。
正直、罪悪感が胸に残る。
何故なら、きっと俺がついていけば……いや、まだ答えを決めるのは早い。
あいつらがどれだけ心が荒んでいるとしても、状況が状況だ。
ミャーを助けてくれると思おう。
そうしたら、俺も少しは彼らを許すことができるのかもしれない。
一番大変な思いをしている本人は、もう笑顔で俺に話しかけている。
その笑顔に答えるよう俺もできるだけ明るく会話を返すのであった。
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