第184話 困惑してしまう
「ふむ、なるほどな」
<月の庭>に戻った俺は、マスターとカレンに先程あった出来事を伝えた。
「やっぱり、勘違いじゃなかったんだ……」
「うん、カレンは凄いと思うよ。俺は一度しか見たことがなかったけど、あの二人に裏があるなんて思わなかったからさ」
「おお~、レオンさんが褒めてくれました! マスター、これ凄くないですか?」
「いんや? レオンはすぐ人をダメにする男だぞ?」
「……最低ですね」
「えっ、本気で信じるの止めて? マスターも冗談で言ってるんだから」
「……」
おいおい、勘弁してくれ。
「と、とりあえず、これからどうするか話し合おう」
「う~ん、ミャーちゃんの目を覚ますのと、あの二人に痛い目を遭わす方法ですよね……」
「そうそう」
俺とカレンはう~んと首を捻る。
正直俺がSランク冒険者として、<虚>のメンバーを呼び出した方が話は早い。
そこで二人が猫人族に洗いざらい白状をすれば、解決すると思う……いや、そう上手くはいかないか。
性根が腐っていれば、表面だけの謝りで済まされそうだ。
もっと……もっとあいつらが追い込まれる状況を作りたいが、やはり思い浮かばない。
カレンも俺と同じなのか、難しい顔をして唸っているだけ。
すると、
「……ふむ。まぁカレンの憶測でもなかったようだから、私が一枚噛んでもいいぞ」
「えっ?」
「ここにいる冒険者は皆家族だ。その家族が悪しき者に誑かされていると知っては、見て見ぬ振りも出来んだろう」
「えっと、何か作戦とかあるんですか?」
「無論。ただ、レオン。君にも手伝ってもらうがな」
にやりと口角を上げたマスターに、思わず渋い顔をしてしまう。
これ……絶対めんどくさいやつだ。
「よし、では明日の朝九時に集まるように。いいな?」
「はい……」
「寝坊をするなよ?」
「はい……」
「あとカレン、君はもう仕事を終える時間だ。レオンに送ってもらいたまえ」
「はい! 最初からそのつもりでした!」
元気無く返事をする俺と対照的に、元気な返事をするカレン。
送ってもらう前提だったのは気になるところだが、そこは些細な事だと思おう。
気にしていたらきりがないのだから。
ただ……
「レオンさん、そんな死んだ顔しないでくださいよ。隣に美少女が居るんですよ? ほらっ」
<月の庭>を出てすぐ、カレンはほっぺたに指を添えてあざとく笑う。
俺はそんなカレンを見て、ふっと鼻で笑った。
「ちょ、ちょっと何も言ってくれなきゃ、私が痛い子みたいじゃないですかー!」
ぷんぷんと怒っているカレンを横目に、俺ははぁとため息をつく。
その理由は何故か。もちろんマスターの作戦にだ。
その作戦をとても簡潔に言うのならば、俺があのパーティーと同じEランク冒険者として<虚>と共に依頼をこなす。
それも二日間もだ。
たかが二日と思うかもしれないが、俺にとっては地獄と言っても過言じゃない。
猫人族だけならまだ許せる。
が、あの二人と同じ時間を過ごすなんて反吐が出る。
マスター、俺を信頼してくれるのはいいんですが……最悪殺しちゃいますよ。
黒い感情を抑制するためには、すぐにネックレスを握る必要がある。
ただその効果もおそらく絶対ではない。
「……レオンさん、やっぱり依頼を受けなきゃ良かったって思ってますか……? それなら、申し訳ないです」
何も悪くない、むしろ良い行いをしたカレンが浮かない顔をしているのを見て、俺はぱっと笑顔を取り繕った。
「ふ〜ん。俺が何も反応しないとカレンはそんな顔するのか。参考になるな。今度うるさい時にでも使ってみるか」
「なっ!? もしかして演技してたんですか!? それにうるさいって何ですかー!」
ぽかぽかと叩くカレンに俺は内心ほっとする。
カレンはこんな性格をしているが、いつも周りに気を配っている。
猫人族の異変に気付いたのも、それが理由だろう。
悲しそうな顔は出来るだけさせたくないし、カレンの前ではいつも通りに振舞うか。
そう思っていると、
「あれ? 師匠?」
偶然にも手を繋いでいるロイとセリアと立ち会った。
「おっ、奇遇だね二人とも」
「こんばんは、レオンさん。カレンちゃん」
「こんばんは、セリアさん、ロイさん。朝ぶりですね。もしかしてというかもしかしなくても、デートでしょうか?」
「う、うん……」
ふ、ふむ。
照れている顔のセリアは仕方がないから許そう。
幸せなのはいい事だし。
でも、ロイ。お前はダメだ。
その、でへへって顔がイラついてくる。
「ん? 師匠とカレンちゃんの外套一緒っすか?」
「そうなんですよ~。似合ってます~?」
「いや、似合ってないだろ。明らかに」
「レオンさんには聞いてませ~ん」
身体に合わないぶかぶかの外套をひらりと見せつけているカレン。
これは半年前に俺が上げた外套だ。
カレンならもっと他にセンスのある外套を羽織ればいいのにと思うものの、本人が気に入ってしまったならしょうがない。
「……なんか仲いいですね。二人とも」
セリアはそう言うと、少し複雑そうな表情を浮かべる。
「たまたま帰りが重なったからね。カレン一人で帰らせるのも何だし、送ってあげてるだけだよ」
「へ~、そういうことなら別にいいですけど……」
そっぽを向くセリアの表情はやはりいつもとは違う。
何か思ってることがあるなら口にしてほしいのだが……
そんな微妙な空気の中、ロイが不安そうな顔をして口を開いた。
「セリア、お前まさか……師匠に嫉妬とかしてないよな!?」
「えっ?」
「し、師匠! セリアはダメっすよ! 俺の彼女なんすから!」
「う、うん」
「……はぁ、ロイの馬鹿。そんなんじゃない。ただ……」
再度俺に視線を移すセリア。
そして、少し怒ってるような口調で言葉を発する。
「レオンさんのことちょっと分からなくなってきました」
「えっと、それってどういう意味?」
「知りません。自分で考えてください。ロイ、もう行こ」
「お、おう。し、師匠なんかすみません。失礼します」
すたすたと歩いていくセリアの後を追うロイ。
二人はそのまま人混みの中へと消えて行った。
「一体何だったんだろう……」
「レオンさんが何かしたんじゃないですか?」
「いや、特にそんな事した覚えはないけど」
カレンと仲がいい様子を見て、嫉妬をしたなんてことはまずないだろう。
そんな雰囲気は今まで一切感じなかったし、今はロイがいる。
ただ、彼女とは友達とまではいかないが、それなりに接したきた仲だ。
理不尽なことで怒るような人間ではない。
う~ん、知らないうちにセリアが怒ってしまうようなことをしたんだろうか?
それなら素直に謝りたいが。
そんな事を思っている俺に、カレンは口を開く。
「まぁ今度素直に聞いてみればいいんじゃないですか? セリア様、僕は何かご機嫌を損なうようなことをしてしまいましたか? 女心の分からない僕にご教授お願い致しますって」
「女心って関係あるのそれ……あと、俺はそんなへりくだって頼んだ事今までないから」
「頼み方はふざけましたけど、女心は関係ありますよ? 女の子が何を欲してるか理解することこそが大切なんです。そうすれば自ずと見えてくるかもしれませんね。セリアさんの気持ちが」
もっともらしいことを述べて、ふんっと鼻を高くしているカレン。
その鼻をつまんでみたいが、確かに一理あるかもと納得した俺は、はぁとため息をつく。
まぁこの件はカレンの依頼が終わった時にまた考えよう。
デートの邪魔をするわけにもいかないし。
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