第87話 紹介
「それで? レオンちゃん。この方たちは?」
「え、えっと……」
「レンくん……誰この人たち。いつからそんな仲良くなったの?」
「ごしゅじん。罪深い」
「ルナが隣居たかったのにー」
「はぁ……レオンよぉ。海だからってはめ外しすぎじゃねぇか?」
「……レオンさん。見損ないました」
みんなが訝しげな表情を浮かべて、俺を見つめている。
今の状況はこうだ。
俺の左にはフェル、右にはポーラが俺の腕を組みながら隣の席に座っている。
最初にその二人に気づいたのは、マリーであった。
並んでいる列から外れたマリーは俺へと近づき、 「誰あんたたち?」 と今にも殺す勢いで尋ねたのだ。
あまりに殺気が溢れていた為、俺がフェルとポーラを擁護したのがまずかったのかもしれない。
それから注文をし終えたみんなが、各々席に座り、今は執拗に俺へと殺気を放っている。
まぁ、みんなと言ってもレティナとマリーだけだが。
「うぅ。怖いのじゃ」
「そうだね〜流石は<魔の刻>って感じだね〜」
「と、とりあえず、落ち着こうみんな」
「あのさ? その無駄な脂肪、レオンちゃんに当てないでくれる?」
「うんうん。身長の代わりにそっちに栄養がいっちゃったのかな?」
「レ、レオン様〜」
ぎゅうぎゅうと巨乳を押し付けてくるフェルに、俺は笑顔を取り繕う。
なんだこの柔らかいモノは。
拠点のベッドよりこっちの方が寝心地がいいんじゃないか?
そんな下心が伝わったのか、伝わってないのか知らないが……いや、伝わっているから殺気がより一層強くなったのだろう。
こ、このままじゃよくない……
「え、えーと、とりあえず二人とも離れようか。自己紹介しなきゃ始まらないからね」
「そ、そうじゃな。分かったのじゃ。うちはフェル・レルミッドと言うのじゃ。レオン様の隣にいるのはポーラ・レルミッド。うちの姉なのじゃ」
「お会いできて〜光栄です〜」
腕の拘束を解いてくれた二人は律儀に頭を下げる。
そうして、やっとレティナとマリーは殺気を抑えてくれた。
「ふ~ん。ちゃんと挨拶はできるようね……それで? レオンちゃんとはどういう関係?」
「関係か。ん~、秘密を共有した関係じゃな」
「……レンくん」
「ちょ、ちょっとフェル。誤解するような言い方しないでよ」
「ご、ごめんなのじゃ。レオン様とは城で会ったんじゃよ」
「お城ー?」
「そうです〜私たちは城に住んでいるんですよ〜」
「へぇ。それでまたなんでレオンに会いに来たんだ?」
カルロスの言葉にフェルとポーラは困った表情を浮かべた。
横目でチラチラと俺を見て、言うべきか言わないべきか迷っているように感じる。
正直なところどんな内容かは察しているので、俺から話を切り出した。
「あ~、ごめん。二人がさ、<魔の刻>のメンバーに会いたかったらしくて。いつか会いに来るとは話してたんだけど……俺が伝えるのが遅かったね」
「レ、レオン様それもあるんじゃが……」
「ん? それ以外に何かあったの?」
「この目は〜レオンさんほんとに忘れていますね〜」
俺が忘れている?
フェルとポーラと約束したのは、みんなに会わせてあげることだ。
それは可変魔法を教えてくれたお礼であり、二人は俺たちのファンのようだったから。
ただ、それ以外のことは何も約束していないはず。
二人の言葉に首を傾げている俺に対して、フェルは耳元でぼそっと呟いた。
「エルフの奴隷解放は明日なのじゃ」
「……あっ」
……
…………
………………完全に忘れていた。
俺が馬鹿のように口を開けていると、カルロスが頭を抱えてため息をつく。
カルロスの耳は地獄耳だ。
例えフェルが俺の耳元で囁いたとしても彼の耳には丸聞こえだろう。
こんな重要なことを忘れていた原因は初日にある。
野次馬に囲まれ逃げ出し、合流したレティナの様子がおかしくて、<海男>に絡まれる。
そんな<海男>をルナとゼオが蹴散らし、最後にはマリーの下着姿を見るというなんとも濃い一日。
これじゃ忘れてしまうのも仕方ないよね?
俺はポーカーフェイスを装い、一つ咳払いをした。
「周りに聞いてる人はいないようだし……みんな重要な話がある」
「なに? レンくん」
「エルフの奴隷解放が、明日に発表されるんだ」
「「「えっ?」」」
レティナ、マリー、ミリカは同じような反応を見せる。
まぁ、そりゃ驚くよね。
「レオン……」
「そ、それって……」
「そう。つまり、明日からルナとゼオは、フードで顔を隠さなくてもいいってことだよ」
俺の言葉にルナとゼオは、表情を明るくさせる。
が、他のみんなは違っていた。
「レンくん……なんで今になって?」
「もしかして……忘れていたとかじゃないわよね?」
「ごしゅじん。情報共有。大事」
「い、いや、言っていいか迷っていたんだ。フェルとポーラが来たということは、発表することが明確化されたということだからね」
「レ、レオン様が来た頃には……もう決まってっ!? 「は……ははっ。フェルは何を言おうとしたんだろう〜」
フェルの口を無理矢理手で覆い、喋らなせないように誤魔化す。
ポーラはそんなフェルを見て、くすくすと笑っていた。
疑いの目を向けるみんなだったが、それ以上俺を追求することはなく、ルナとゼオ以外がいつも通りに肩を落とした。
「はぁ……レンくん……」
「まぁ、今更ぐちぐち言っても仕方ねぇ。んで? それを伝える為に、二人は来たっつーことか?」
「そうですね〜。リリーナ様から〜明日は城まで来るようにと〜伝言を頼まれまして〜」
「んあんあんあ」
口をもごもごとさせるフェルは何か喋りたそうにしているので、俺は一旦塞いでいた口を離してやる。
「ぷあっ。そ、そういうことじゃ。ちなみに、うちたちは<魔の刻>の大ファンなのじゃ。会う為に来たってことも一つの理由なのじゃ」
フェルは目をキラキラとさせて、一人一人を見つめる。
ポーラも濁った目でみんなを見つめていた。
それから長い時間、俺たちは他愛のない話をした。
フェルとポーラがいい子たちということをみんな分かってくれたのか、それ以降は穏便に会話ができた。
一度心の距離が縮まれば、すぐに二人はみんなと仲良くなり、時間が過ぎるのは一瞬であった。
「ねぇ、そういえば、二人は魔術師なんだよね? どうしてお城なんかにいるの?」
「あ~、えっと……」
「ん〜」
レティナの言葉にフェルとポーラは口籠もり、俺をチラリと見る。
みんなは俺の仲間だ。
口は硬いし、外部に情報を漏らすということはしないだろう。
俺は首を縦に振って、大丈夫、という意思を伝えた。
「えっと……そうじゃな。レティナ様たちなら大丈夫だと思うのじゃ」
「そうだね〜。私たちは〜可変魔法を扱えるんですよ〜」
「えっ?」
「はっ? それほんと?」
「なんだそれ?」
「ミリカ。そんな魔法。聞いたことない」
「ルナもー。なにその魔法ー?」
「んー、それはどういう魔法なんでしょう?」
まぁそういう反応になるよね。
俺ですら知らなかったんだから。
「えっと、説明するのは難しいのじゃ。レオン様に伝えるのでも、時間が掛かったのじゃが……まぁ、とても珍しい魔法ということじゃな」
「多分〜他の国でも〜いないんじゃないんですかね〜」
「へぇ。そんなすげぇ魔法が使えるってことは……お前ら強ぇのか?」
カルロスがニヤッと口角を上げる。
戦闘狂はこういう事しか考えないから戦闘狂と呼ばれているのだ。
そんなカルロスに向けて、レティナの口が開かれる。
「えっと、カルロスさん。多分そこまで強くないと思うよ? 古代の歴史書を調べた時期があったんだけどね……可変魔法は物を作り変えることができるだけで、沢山修練を積んだ私たちを相手にできるような魔法は無かった気がする」
「ちぇっ。なんだ」
「流石はレティナ様じゃ。博識じゃな〜」
「そうですね〜。だから、国に守ってもらってるんですよ〜」
「……国に守ってもらうなんて凄いわね。ちなみに、その魔法を見せてもらうことはできないの?」
マリーの質問に、ん〜と唸ったフェルは周りを見渡した後、左手に魔法を行使した。
「
みるみるうちにフェルの左腕は剣に変わり、その腕の剣を見せつけるようにテーブルの上へと置く。
みんなは何が起きたのか理解できていないようにそれを見つめていたが、そんな中、ゼオが興奮した様子で立ち上がった。
「す、すごい! かっこいいです!」
「そ、そう言われると嬉しいのじゃ」
「綺麗な剣ですね……僕も覚えたいなー」
「それは難しいと思います〜。ほとんどの人は〜この術式が分からないですから〜」
ポーラが話している内にもう一度左腕を触って元の腕へと戻すフェル。
何度見ても慣れないこの魔法に、ルナが感嘆の声を出した。
「おぉ〜。すごいすごーい!」
「ほんとに……すごいね。多分私でも扱えないと思うな」
「……レティナが言うならそうなんでしょうね。レオンちゃんにも無理そうなんでしょ?」
「古代文書を読んでないから分からないけど、多分無理だろうね」
「可変魔法。ミリカ初めて見た。覚えとく」
「そんなに褒められると照れるのじゃ」
「ちなみに〜私も〜この魔法が使えるんですよ〜」
「へぇ〜。ポーラさんも凄い人なんですね」
可変魔法を褒められて、フェルは照れているのか頬を紅潮させていた。
いつも取り繕ってるような笑みをするポーラでさえ、目に見えて分かる嬉しそうな笑顔を浮かべている。
そんな二人は数十分話した後、
「あっ、長居しすぎたのじゃ。レオン様、明日の朝十時には城まで来るようにとリリーナ様が仰っていたのじゃ」
「あぁ、分かった」
「では、この辺で失礼するのじゃ」
「お会いできて良かったです~」
と告げて、そそくさと城へと戻っていった。
エルフの件もあるし、俺たちと海を満喫するほどの余裕はなかったのだろう。
二人と別れてから俺たちは再び海を満喫した後、焼きそばが美味しかったおじさんの店で夕食を食べ、宿屋へと帰ったのであった。
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