第4話 獅子蛇討伐
王都の南門から出た俺たちは、
「
正直指導だの
俺の独り言を聞いていたシャルが、はぁとため息をつく。
「貴方……<魔の刻>のリーダーでしょ? ちょっとはやる気出しなさいよ」
ふむ……さっきまでみんなの殺気を当てられてたはずのに、随分と肝が据わっているようだ。
「レンくんは昔からこういう依頼好きじゃないもんね」
「レオンちゃんにやる気出せって……無理な話だけど」
「確かにな。まぁ、もう慣れたが」
みんなが口を揃えて語る。
そうその通り。
みんなよく俺のことを分かってるじゃないか。
<魔の刻>のメンバーが言ってることは間違ってはいない。
決して間違っていないのだが……
「……俺も半年に一回くらいはやる気を出すけど」
いくらなんでも全員から言われると、少し心にくる。
「も、もちろん知ってるよ? レ、レンくんは偉いなぁ~」
「そ、そうね」
「だ、だな」
なんかみんなフォロー下手じゃない?
俺たちの会話を聞いていたのか、シャルのジトっとした視線を感じる。
うん、とりあえず無視して進もう。
俺たちが進んでいるこの森は危険性が少ない。
魔物というより動物の方が多いと聞いていた。
たくさんの動植物が生息しており、木々も緑だけではない。
空色や菫色の珍しい樹木があることから、観光する人も少なくないとか。
こんな場所に、強力な魔物の
道中は今は封鎖されてる為か、人っ子一人見当たらなかった。
「この先に
「ふ~ん、まぁ無くもない話か」
そんな話から数分後、鮮やかな森の中を歩いていくと木々の間から小さな洞窟が視界に映った。
あれがそうか……でも、あれって……
俺たちは歩みを進めて密接している木立から出る。
「えっ……何これ」
シャルの声にならない声が耳に届き、俺は辺りを見まわす。
その洞窟はまるで別世界に隔離されているように所在していた。
洞窟の周りには木々が無く、有るのは様々な動物の骨と生き血が散乱しているだけ。
明らかに
「シャル。ちなみに聞くけど、その
「そ、そーよ。でも二日前に来た時とは明らかに動物の死骸が多いわ……どういうことかしら」
ふむ、と顎を触りながら思考する。
洞窟の中は思ったより浅いようで、俺はその中を見る為に目を凝らす。
そして見えたのが、闇の中、二匹の
正直
俺たちの依頼はそもそも指導だ。
ただ、二匹の
<魔の刻>のメンバーも
「三人とも……誰が行く?」
「ちなみにレンくんは?」
「俺はもちろん不参加だよ。だって見て分かると思うけど、武器持ってきてないし」
「レオンちゃん……そのあからさまな嘘が通用すると思ってる?」
「もちろん!」
俺はさも当たり前かのように即答する。
すると、俺たちの会話を聞いていたシャルが、きょとんと首を傾げながら口を開いた。
「つ、つまり、どういうことかしら?」
「あ? お前見えねぇのか? あの中に二匹
「そういうこと」
「に、二匹!? あ、貴方たちここから洞窟の中まで見えるって言うの……?」
「ん。まぁね」
シャルは呆気を取られたのか口をぽか~んと開けている。
「レティナ?」
「……」
「マリー?」
「……」
人間よりも大きい
レティナもマリーも同じ意見なのか、俺から目を背ける。
すると、そんな状況でカルロスだけが口を開いた。
「レオン。俺が行ってもいいぜ? 久々に"あれ"を使いたかったんだ」
戦闘狂のカルロスが含みのある発言する。
「秘術はなしだよ?」
「はぁぁ!? なんでだよ!」
「だって、カルロスが秘技を使えば洞窟崩れちゃうでしょ……?」
カルロスが試そうとした秘術とは限られた者にしか使えない技だ。
武術なら武術を極めた者の闘気を。魔術なら魔術を極めた者の魔力を。
それを開放して放たれるその技は、何千回何万回と想像しなければならない。
もちろん想像できたとしても、闘気や魔力がある一定の域まで練成できていなければ使えない唯一無二の技である。
そんな秘術はこの世界でも何十人としか使えないだろう。
ただ、使えれば最強ということでもない。
魔術なら魔力をごっそり抜かれ、武術なら酷い脱力感に襲われる。
まさに<最後の切り札>と言っていいほどの技だ。
その秘術をカルロスは狭い洞窟内で繰り出そうとしていた。
今回の目的はあくまで指導。
狭い洞窟の中で<金の翼>がどれだけやれるのか見極めたい。
その意図が伝わったのか、カルロスはぐぬぬという表情をし、そのまま洞窟の方へ歩いていった。
汚れ役を買ってくれるのは本当に助かるな。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! いくらSランク冒険者だからって、あの狭い洞窟の中で二匹を相手にするなんて無茶よ!」
シャルが慌ててカルロスを引き留めようとする。
言うことには棘があるが、なんだかんだ根は優しいな。
そう感心する俺は、シャルの頭をポンポンと手で褒める。
「なっ、あ、貴方も心配じゃないの?」
「いや? カルロスなら大丈夫だよ。安心して」
レティナとマリーの視線が少し痛いのは気のせい。
そう、気のせいだと……思おう。
暗闇の中へ消えたカルロスは数分後、何事もなかったかのような表情で戻ってくる。
ただ、身に着けている防具は、視界にも入れたくないほどの返り血を浴びていた。
「”弱い”方を一匹やった。もう一匹は怒り狂っていたが、無傷で放置しておいたぞ」
「そっか。ありがと」
「でも、殺さないって制限があるのも楽しいな! 怒り狂ってるせいか、動きは雑で避けやすかったが」
カルロスは自分の格好に似合わない満足気な顔をしている。
「嘘でしょ……」
シャルの小さく呟いた言葉は、驚きとは別にどこか切な気であった。
「じゃあ、中に入るんだろ? さっさと行くぞ?」
洞窟の方へと親指を指したカルロスは踵を返す。
「んじゃ、行こうか。<金の翼>は戦闘の準備しといてね。これから君たちの実力を見せてもらうから」
「わ、分かったわ」
明らかに緊張しているシャルは真剣な表情で一度頷いた。
洞窟に入ってすぐに、レティナは<金の翼>が集中できるよう
暗闇だった洞窟が、今は周囲一体照らされている。
洞窟内は岩層で囲まれており、二人横並びで歩くのがやっとの状態だ。
「そ、それにしてもレティナさんの
シャルはまだ緊張しているのか少しだけ声が震えている。
それもそのはず、先程から地響きと獣の雄叫びが絶え間なくこの洞窟内に響いていた。
カルロスが殺したのは、今まさに怒り狂っている
森から視認した時に、片方の
おそらく懐妊していたのだと思う。
上位個体は番いがいなければ繁殖ができない。
一般的なAランクでも最奥に行くのは極めて困難な場所であり、行くのは戦闘狂か命知らずの馬鹿冒険者くらいだ。
そんな<魔の巣窟>から番いを守るために、この安全な場所に降り立ったというのは、少しだけ納得できるものがあった。
冒険者と魔物は似ている。
毎日が死と隣り合わせだからだ。
そんな魔物に対して懐妊してるから…… と手を抜くようなことをすれば自分が殺られる。
冒険者はそんな弱肉強食の世界で生きているのだ。
カルロスも彼なりにシャルたちのことを考えて、懐妊していた方を殺したのだろう。
戦闘中に手を緩めないようにと。
数分歩くと俺たちは洞窟の最奥へと辿り着いた。
最奥と言ってもずっと一本道であった為、歩いてすぐであった。
俺たちの気配に気づいた
その傍らにはもう一匹の亡骸があった。
「レティナ……抑えて」
「うん、分かった。
すると、透明な輪っかによって
それでも尚、雄たけびを上げ続けている
「レンくん! 抑えれて一分くらいかな。それ以上は少し厳しいかも……」
「ありがとう、十分過ぎるよ」
俺はレティナの頭をよしよしと撫でる。
嬉しそうな笑顔を浮かべるレティナは、俺から視線を外すと
「じゃあ、今からシャルたちの出番だよ。準備はいいね?」
「え、ええ」
「まぁ、アドバイスとしては弱点が炎魔法だから、そこを突くことだね。今回、俺たちは君たちの実力を見ようと思う。だから、手出しはしないからよろしく。あっ、それと後ろの蛇には気をつけて」
「わ、分かったわ……絶対に倒してみせるんだから」
<魔の刻>のメンバーは俺含め、雄叫びを上げている
正直大盾役の彼が 「狭かった」 と言い訳をしていたが、そこは戦うには割と広い空間があった。
人を優に超える
狭い訳がない。
シャルが大盾と剣士の少年に指示を出す。
白魔法使いは補助魔法を前衛の二人に掛けて後方で待機。
レティナはその後ろで、
きっと今のシャルたちにとってこの一分間は、とても長い時間に感じているのだろう。
戦ってもいないのにも関わらず、緊張からか額にじわりと汗をかいていた。
「レオンちゃん。彼女たちじゃきっと……」
マリーがぼそりと呟く。
マリーの言いたいことは良く分かる。
シャルたちの勝率は正直……三割。
いや、それよりも低いかもしれない。
<金の翼>が全員シャル並みの力を有していれば楽勝なのだが、現状のメンバーでは楽に倒せるような魔物ではない。
「厳しくなったら、マリーに頼んでいい?」
「んー、いいわよ」
マリーは渋々ながら頷いた。
ちゃんとした頼み事は、<魔の刻>全員が意見を汲み取って応じてくれる。
とてもいいメンバーに恵まれたなと俺はいつも感謝している。
「レオン! 俺はどうする? 俺も参加していいか?」
「カルロスはさっきやったでしょ? 今回はダメ」
シャルたちに血の雨を見せるわけにはいかないしね。
「もう一分切れるよ〜」
レティナの言葉に<金の翼>の緊張の色が増す。
すると、次の瞬間
さて。<金の翼>の実力……見せてもらおうかな。
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