そして賢治は女神に導かれテンプレ転生した

パタパタ

すべてはもう遅い

 俺は佐藤賢治さとうけんじ

 トラックにはねられて気づいたら目の前に女神がいた。

 これはウワサのテンプレ転生というやつだ。

 俺は色々と思考停止しながらワクワクとそんなことを思った。

 女神は俺に言った。


「かかったなぁ〜、これがいつからテンプレと誤認していたぁ〜?」

「な、なんだと!?」

 女神だったはずの醜悪なナニカが俺にそう告げた。

 それでも美女なのがくやちぃ。


 女神はその神々しいまでのおかんばせを哀しく歪めながら両手を広げる。


「もはや女神わたしテンプレらにとって、無駄な字数を費やすだけの存在に成り果ててしまったのよ」


 そっと手を差し伸べる。

世界テンプレさえも同じではいられない。そのことを知るいいきっかけじゃないか。パターンを変えて転生テンプレを使い回しても、それはどこまでいっても地獄テンプレでしかない。俺たちは明日へ向かうべきだ」

「賢治……」

 俺は女神に手を伸ばし、女神はその手を取る。

 もはやWeb小説テンプレから弾かれた女神はもうその世界テンプレに戻ることはない。

 時は流れるのだ。


 こうして俺は転生した。

 色々と雑なんだが、まあいい。

 細かいことは気にしない、それが大切だ。


 俺は転生特典の貴族に産まれる。

 テンプレ通り最強の力を持っていたが、正妻が妾の子である俺と敵対。

 正妻の子である兄が不遇な弟を気にかけるいい奴だったので許してやった。

 しかし正妻が嫌味な美女なので、父が留守の間に部屋に閉じ込めて性格矯正を行った。

 人として正妻美女を矯正できたところで帰って来た父に家を追い出されることとなった。

 色々やりすぎたが、『まだ』性的に手は出していなかった。


「なぜだ、父上!

 歳上のお姉様とイチャコラしたいのは全青少年の切なる願いではないですか!

 ちゃんと調教……もとい父上に配慮して決して夜にはベッドに連れ込んだりしておりません。

 あと一歩!

 あと一歩なのです!

 明日にはめくるめく義母様との熱いテンプレ物語に突入できようというとき、なにとぞご再考を!!」

 父は頭を抱えながら俺に訴える。

「なんでそれが許されると思ってるのだ!?

 ママハハ寝取ろうとしてどうする!」


「はっはっは、誤解ですぞ父上。

 寝取りなど皆が不幸になる定番テンプレ

 そのような愚策を行う気など毛頭ございません。

 ただわたしめは毒を贈り合うような親子関係が哀しくて、どうせならベッドの中でまで仲良くしようとしたまでのこと。

 全て家族のためにございます」


「父親の奥さんに手を出そうとするでないわァァアアアアア!

 出てけェェエエエエ!!!」


「えええええ!?

 父上も他の女と浮気を楽しむ余裕ができて、義母上も欲求不満で変な男に引っかかることなく楽しめて、家族仲も良くなるという良いことづくめではないですか!

 これぞWin-Winというやつですよ!!」


 俺と父のやりとりを見ていた意外といい奴である兄は遠い目でポツリと呟く。

「……弟に母と関係を持たれるのはやだなぁ」


「兄上まで……。

 くっ……、しかし兄上がそうおっしゃられるならば仕方ありません。

 転生において兄は弟を追い出すもの。

 私はさらに大きくなって帰ってきますぞ!」


「ああ、うん、時々、ケンジがなにを言っているのか僕にはわからないことがあるよ。

 とりあえずいつ帰ってきてもいいけど、母上には手を出さないでね?」

 兄上は幼き頃よりこの家で一番の常識人であった。

 その兄上が言うならば、と俺は頷いた。


「では、テンプレ通りにこれにて。

 なにかあっても助けてやらないからな!

 兄上と義母上以外」


「ああ、うん、それでいいよ……」

「義母上、ベッドが寂しければいつでも呼んでください。

 義母上のためなら魔王を引きづってでも帰ってきますから」


「我が息子よ、すっかり正妻と仲良くなったんだな……。

 あと魔王とか引きづってこないで」


 残念ながらまだ手を出してないけどね。


 こうして俺は旅立った。

 だが俺はこの旅の果てで真実を知ることになる。


 ……そう、すべてはもう遅かったのだ。

 いまのテンプレはゲーム転生だったのだ。


 完

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そして賢治は女神に導かれテンプレ転生した パタパタ @patapatasan

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