第46話   屋上での最終決着、登録者数1000万人突破!

 あーしの腹部に火薬が爆発したような衝撃が走る。


 直後、あーしの身体は吹き飛んだ。


「ぐっ!」


 それでもあーしは空中で回転して地面に着地した。


 ヤバッ、鬼ヤバッ!


 マジでこれまでの魔物と強さがレベちじゃん!


「ほう……俺の攻撃を受けても死なない人間がいるのか?」


 魔王は心底驚いているようだった。


「まさか、お前は勇者の血を引く者か?」


「違う」


 あーしはペッと地面に血が混じった唾を吐き捨てる。


「さっきも言ったじゃん。あーしは姫川花緒、ダンジョン配信者で空手家だって」


「カラテカ? カラテカとは何だ?」


「空手家は空手家に決まってんじゃん! 空手を生業とする武闘家のことだよ!」


 ふむ、と魔王はあごをさすった。


「ブトウカ……そういえば親父を殺した勇者PTの中に、ダイブトウカと名乗っていた奴がいたな。確かヒメカワ何とかという奴だった」


「――え?」


 あーしは目を丸くした。


「それって、あーしのパパのことじゃない。あーしは若い頃に異世界に転移して、勇者PTと魔王を倒したって言ってたし……え? つまり、あんたは先代魔王の息子?」


 いかにも、と魔王はうなずいた。


「俺は現在の魔王だ。そして、お前の親父が殺したのは俺の親父だな」


 ザ・衝撃の事実!


 パパが倒した魔王の息子が現在の魔王だったなんて。


 だとしたら、数メートル前方にいる魔王(二世)の目的もわかる。


「あんた、復讐のためにこの日本に来たのね?」


 そうに違いない。


 なぜなら、この日本にはあーしのパパがいるのだ。


 魔王(二世)はあーしのパパに復讐しに来たんだ。


「いや違うぞ」


 だけど、魔王(二世)は顔色一つ変えずに答えた。


「俺がこの異世界の日本に来たのは純粋に夏休みを満喫するためだ。それ以上でもそれ以下でもない。ましてや親父殿の復讐なんて論外だ」


 魔王(二世)は淡々と続ける。


「正直なところ、親父殿は俺からしてみれば毒親だったからな。やれガキの頃から「お前は立派な魔王になるんだぞ」としごかれ、俺はずっとストレスが溜まっていたんだ。そんな親父殿が勇者PTに殺されたときは心の底から喜んだもんだ。ああ、これで俺は自由に生きれるってな」


 あーしは特大の「?」を頭上に浮かべた。


「でも、あんた魔王なんでしょう? それなのに魔王になるのが嫌だったっておかしくない?」


 率直な感想だった。


「俺は親父に管理されながらする魔王は嫌だったさ。だが、その管理していた親父が死んだことで俺は自由になった。ただ、その自由をさらに満喫するには魔王になる必要があったのさ」


「…………」


「だってそうだろう? 魔王になれば他の魔物たちが俺のことを「魔王さま、魔王さま」と崇めてくれるんだ。おかげで俺は毎日をのんびりと過ごすことができるようになった。これは天国——おっと魔王が天国なんて言葉を使ったらダメだな。そう、俺にとって今は素晴らしき地獄なんだよ」


「…………」


「そして、この異世界旅行もそんな地獄の一環だ。こうして異世界を旅することで俺の日々のストレスは癒されていく。魔王でも最低限の事務作業はしないといけないからな」


「…………」


「そういうわけで、お前らは俺のストレス発散のために根こそぎ死んでくれ。別にいいだろ? どうせ人間の平均寿命なんて数十年なんだから」


 この言葉にあーしは完全にぶち切れた!


「――――ふざけんな、ボケ!」


 あーしは全身に〈気〉を滾らせた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!


「あんたはあーしがぶっ倒す!」

 

 あーしがそう宣言したときだった。


「やれるもんならやってみろ!」


 魔王(二世)天高く跳躍した。


 魔法の一種だろうか。


 十数メートル以上の空中で停止した魔王(二世)は、あーしに開いた状態の両手を突き出した。


 その両手に膨大な〈魔力〉を凝縮させていく。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!


 あーしの脳裏に先ほどの青白い光線が浮かんだ。


〈魔砲〉。


 極限まで高めた〈魔力〉を砲弾として、あーしに撃ち込むつもりだ。


 あれほどの威力の〈魔砲〉ならば、あーしもそうだがこのダンジョン協会の本部ビルも間違いなく灰塵となる。


 だとしたら、やはりあーしがここで倒さなくてはならない。


 このクソ甘バカ魔王(二世)め、ここで決着をつけてやる!


 あーしは魔王(二世)を睨みつけながら、両足を開いて腰を深く落とした。


 そして右拳を脇にまで引き、空いていた左手で右拳を包むような形を取る。


 直後、あーし全身の〈気〉をさらに倍増させる特別な呼吸法を行った。


 それだけではない。


 その〈聖気〉を右拳に一気に集中させるイメージを高める。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!


 あーしが〈気〉を練り上げていくごとに、悲鳴を上げるように本館の建物が大きく揺れていく。


 やがて、あーしの右拳が朝日のように眩く光り輝き出す。


 一方、魔王(二世)の両手から放たれている光は暗黒の象徴。


 この世を漆黒の闇に閉ざす負の光だ。


「こしゃくな小娘が! 俺の異世界旅行の邪魔をする者は、誰であろうと俺の〈魔砲〉で粉々になれ!」


 魔王(二世)は怒声を上げ、強大な〈魔砲〉を撃ち放った。


 あーしはその〈魔砲〉に対抗すべく、数馬に向かってその場での90倍〈光気功〉の〈千歩神拳〉を打ち放った。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!


 あーしの右拳からは黄金色の巨大な奔流が噴き上がり、上空にいた魔王(二世)へと向かって飛んでいく。


 バギイイイイイイイイイイイイインッ!


 あーしの〈千歩神拳〉と魔王(二世)の〈魔砲〉が空中で激突し、そのまま霧散せずに互いの攻撃を跳ね返そうと極限まで押し合う。


 あーしと魔王(二世)の攻撃は拮抗していた。


 空中で凄まじいエネルギー同士がぶつかっていることにより、半径数十メートルの大気がビリビリと鳴動して本館の建物がさらに揺れる。


 このとき、あーしは〈千歩神拳〉を放ちながら感じていた。


 魔王(二世)の〈魔砲〉のほうが若干だが、あーしより上だということに。


 つまり、このままでは最終的に競り負けて俺は本館の建物ごと消滅するだろう。


 いや、それだけではすまない。


 本館どころかダンジョン協会の敷地全部が完全消滅する。


 そうなれば相当な死者が出るだろう。


 ダメだ、そんなことは絶対にさせない!


 あーしは一層の覚悟を決めた。


 同時にMAXの100まで〈光気功〉の威力を高める。


 そしてあーしは右拳で〈千歩神拳〉を放ちつつ、左拳を脇に引いてさらに〈気〉を一点集中させた。


 あーしは極限まで〈気〉を練り上げると、今度は左拳を魔王(二世)に向かって撃ち込んだ。


 同時にあらんかぎりの感情を込めて言い放つ。


「――〈双竜・千歩神拳〉!」


 右拳で〈千歩神拳〉の気弾を放ちつつ、左手でも〈千歩神拳〉の気弾を放つ〈光気功〉の奥義中の奥義。


 パパから魔王と闘うまで使うなと言われていた、究極の奥義!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――ッ!


 その場の空間すらも歪めるほどの黄金色の二重の光が放出され、魔王(二世)をこの世から消滅させようと天空に向かって飛んでいく。


 そして――。


「ば、馬鹿なああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 あーしの100倍まで高められた〈光気功〉による、〈双竜・千歩神拳〉。


 その〈双竜・千歩神拳〉は魔王(二世)の〈魔砲〉を打ち消し、本体の魔王(二世)自体も飲み込んでいく。


 それどころか黄金色の光の奔流は、空に向かってどこまでも伸びていった。


 このときダンジョン街にいた人間たちは、一斉に空を見上げていたということを、あーしはあとで知った。


 のちにこの出来事は、世界中の人々の間で長く語り継がれることになる。


 異世界の魔王(二世)消し飛ばした、あーしの〈双竜・千歩神拳〉


 それはダンジョン内の空を駆け上る、黄金色の巨龍のようであったと――。




〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


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