第44話   平原での大激闘、強大なる魔王を追った先は!?

 廃墟エリアを抜けると、あーしの目に魔王城が見えてきた。


 と言っても、まだ目の前にはないよ。


 大体、数百メートル先ぐらいかな。


 でも、魔王城自体がメチャクチャ大きくて立派な城だから、遠目からでもはっきりばっちりクッキリ見えるってわけ❤


 ちなみに魔王城は、あーしが想像していたとおりのお城だった。


 RPGで登場する西洋のお城のまんま。


「よーし、いよいよ最後だ! 頑張るぞ!」


 あーしが意気込むと、ドローンの配信画面から応援コメントが続々と流れてくる。


『頑張ってね、花ちゃん!』


『ラストステージだからって気を抜くなよ!』


『俺たちが応援してるぞ!』


『負けるな、花ちゃん!』


『みなぎってきたあああああああああああああああああああ』


『絶対に油断すんなよ! マジで何があるかわからねえぞ!』


「ありがと、みんな! 最後まであーしは頑張るよ!」


 あーしはリスナーたちの声援コメントに応えると、黒帯を引き締めて魔王城へと向かっていく。


 やがて、あーしは魔王城手前の平原に辿り着いた。


 同時にあーしの視界に異様な光景が飛び込んでくる。


 今まで倒してきた魔物たちが、魔王城を守る形で平原に集まっていたのだ。


 ゴブリン。


 トロール。


 オーク。


 オーガ。


 これらの魔物の最上位種から始まり、ついさっきまで闘っていたスケルトンキングまで、異世界で闘った強力な魔物たちが勢揃いしている。


 マジのマ?って感じ。


 でも、ここで引き返すわけにはいかない。


 あの魔物たちも自分たちの主人を守るために必死なのだろう。


 だけど、あーしのほうが必死だよ。


 何てったって異世界から転移してきるからね!


 だから逃げない。


 とはいえ、さすがにあんな数の魔物を1匹ずつ闘うのは骨が折れる。


 だって明らかに5000ぐらいはいるんだもん。


「となると、あーしがやるべきことは――」


 あーしはすかさず90倍〈光気功〉を発動。


 全身に業火のような黄金色の〈気〉が噴出する。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――ッ!


 これに大半の魔物たちは激しく動揺した。


 動揺しなかったのは一部の魔物たちだけだ。


 それでも構わない。


 あーしは大きく息を吸い込んだ。


 そして――。


「あーしの邪魔をするとぶっ倒すよ!」


 平原中に響き渡るほどの大声を上げた。


 あーしは声に〈気〉を込めていたので、それこそ高性能な拡声器に匹敵するほどの声量が出ていた。


 その声量で思いっきり凄んだので、あーしの90倍〈光気功〉にビビッた魔物たちは逃げ出すことができずに泡を吹いて絶命していく。


 直後、あーしは地面を蹴って数十メートルの高さまでジャンプ!


 生き残った魔物たちの頭上から技を繰り出した。


「――〈万撃神拳〉!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 あーしの〈万撃神拳〉が流星のように平原に降り注ぐ。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!


 何百発もの弾道ミサイルが降り注いだようになった平原。


 その中でさらに生き残っている魔物はわずかだった。


 とはいえ、その魔物たちは絶命寸前。


 全身をピクピクと痙攣させて虫の息になっている。


 まあ、これぐらいなら無視でもいいか。


 あーしは地面に降り立つなりつぶやくと、クレーターのように凸凹になった平原の中を魔王城へ目指して闊歩していく。


 もちろん、そんなあーしの勇姿に歓声コメントを送らないリスナーはいなかった。


『ぎょええええええええええええええええええええええええ』


『すげええええええええええええええええええええええええ』


『やっばああああああああああああああああああああああああ』


『強いなんてレベルじゃねえええええwwwwwwwwww』


『もはや国家レベルを超えて神レベルwwwwwwwwwwwww』


『これは異世界の魔王でも秒殺だろwwwwwwwwwww』


『花ちゃん、どれだけ速く魔王を倒せるかRTAしようぜ』


『かっこいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい』


『中学生ですが惚れました』


『高校生の自分でも推しています』


『ニートですが推しています』


『社畜のワイ、ギャル空手家に骨抜きにされている件について』


『ラノベのタイトルのようなコメントをするなwwwwwwwww』


 などのコメントに答えながら、あーしは魔王城へと1歩ずつ近づいていく。


 やがて、あーしは魔王城に到着した。


「さあ、いよいよラストバトルよ!」


 あーしは全身を奮い立たせ、魔王城の正門へと歩を進めた。


「……あれ?」


 魔王城の正門に到着したとき、あーしは頓狂な声を発した。


 正門の前に巨大な木製の看板が立っていたのだ。


 その看板には本来は異世界語で文字が書かれていたのだろうが、あーしは〈言語理解〉のスキルによって、看板の文字が日本語で書かれているように見えていた。


 さて、そんな看板には何と書いてあるのか?


 答えは以下のとおりだった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 いつも俺のために働いてくれている部下のみんなへ


 俺は夏休みのため、8月中は長期旅行に行っています


 行き先は、異世界の日本という場所です


 なので俺に用事がある奴は、玉座の間の木版に伝言を書いておいてください


 9月には帰るから、お土産を期待しておいてね


 by みんなの魔王より(^O^)/


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


「ええええええええええええええええええええええええ」


 あーしは口から心臓が飛び出るほど驚いた。


 魔王が夏休みってどういうこと?


 しかも行き先が日本ってマ?


 それがマジなら、完全に行き違いになってるじゃん!


 これにはリスナーたちも驚きを隠せなかったようだ。


『どえええええええええええええええええええええ』


『マジでえええええええええええええええええええええええ』


『おいおい、こっちの世界に魔王が来てるのかよ!』


『しかも日本ってヤバすぎ!』


『え? 何のニュースにもなっていないんだけど?』


『まさか、普通の人間に混じって観光旅行してんのか? 異世界の魔王が?』


『都市伝説の宇宙人かよwwwwwwwwwwww』


『普通の人間に混じって、宇宙人が地球で暮らしている説と似ている件についてwwwwwwwwwwwwwwwww』


『花ちゃん、早く帰ってきて!』


『こんなん日本にいつでも押せる核ミサイルがあるようなもんじゃん!』


 確かに、とあーしはうなずいた。


 でも、同時に「マジかな?」とも思った。


 本当に魔王はあーしと入れ違いで日本に転移したのだろうか?


「確かめないとね!」


 あーしは目の前の看板を正拳突きで破壊すると、正門も突き壊して魔王城へと足を踏み入れた。


 魔王城の中は外観から想像したとおりの造りだった。


 正門を抜けると巨大なエントランスホールがあーしを出迎えた。


「魔物がいない?」


 五感を最大限に働かせても、エントランスホールどころか城内にほとんど魔物の気配がない。


 どうやら、あーしを迎え撃つために城内にいた魔物たちも平原に駆り出されたのだろう。


 だとしたらチャンスだ。


 余計な戦闘をせずに魔王が不在かどうか調べられる。


 あーしはエントランスホールの奥にあった大階段を駆け上り、玉座の間へ脇目も振らずに突き進んだ。


 え? どうして玉座の間の場所がわかるのかって?


 RPGをしたことがある人なら大抵わかると思うよ。


 まあ、そんなことはさておき。


 あーしが玉座の間に辿り着くと、魔王どころかネズミ1匹いなかった。


 代わりにあったのは、玉座の奥にあった〈扉〉である。


 間違いない。


 この異世界に来るときに通った〈扉〉と同じだ。


 つまり、あの〈扉〉の先は日本なのだろう。


「よし、魔王を追って日本に帰るよ!」


 あーしはリスナーたちに告げると、〈扉〉を通って日本へと帰還した。


 待ってなさい、魔王!


 あーしが必ずぶちのめしてやる!




〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


 最大同接数 999万5000人


 チャンネル登録者数 997万9000人

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