第42話   雷山エリアでのちょい苦戦、花緒VSサンダーグリフォン!

 湖畔エリアを抜けたあと、あーしは雷山エリアにやってきた。


 日本のダンジョンには存在していないエリアだろう。


 曇天の雲からは、常に稲光と稲妻が迸っている。


 大変、おへそを隠さないと……何てね❤


 あーしは〈魔法耐性〉スキルを会得しているから、たとえ100万ボルトの雷撃を食らっても平気なのだ。


 パパ曰く、雷山エリアの雷は魔法判定なんだってさ。


 まあ、それはともかく。


 ここには強力な雷を操り、敵を電撃で攻撃する力を持つサンダーグリフォンが生息しているという。


 グリフォンっていうのはワシの頭に獅子の身体、そして鳥の翼を持った強力な魔物のことね。


 そんな普通のグリフォンは全身緑色なんだけど、この雷山エリアに生息しているサンダーグリフォンは全身が金色なんだってさ。


 あれだね、〈光気功〉を発動させたあーしみたい。


 なんてことを考えながら、あーしは雷山エリアを突き進んでいく。


 ゴロゴロゴロゴロゴロ……ビッカー……ドンドンドンドンドン


 擬音にするとこんな感じで、辺り一帯は常に雷鳴が轟き、稲妻が空を裂いて光を放っている。


 空はずっとどんよりとした雲に覆われ、時折閃光が雲間から垣間見える。


 え? こんなエリアだとドローンは大丈夫かって?


 だから全然平気だって!


 あーしがドローン自体にスキルと〈気〉をまとわせているから、たとえ1000万ボルトの雷撃を食らってもドローンは無傷❤


「だけど、あーしって昔から雷は苦手なんだよね」


 あーしが歩きながら愚痴をこぼすと、リスナーたちのコメントもあーしに共感してくれるコメントが流れてくる。


『俺も雷は苦手なんだよね』


『蛇の威嚇音と同じで、雷の音も本能的に恐怖を感じるように人間はできてるかもね』


『音もうるさいし、さっさとこんなエリアは抜けようぜ』


『雷山エリアってすごいな。こっちのダンジョンにはないエリアっぽいから、今回の配信の同接はえぐい数字になりそう』


『花ちゃん、気をつけてね!』


『どこだろうと応援してるよ!』


「ありがと、みんな。でも、あーしは平気だよ」


 と、余裕の表情を浮かべたときだった。


 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


 耳をつんざく鳴き声と放電音とともに、サンダーグリフォンが姿を現した。


 全身ピッカピカだった。


 しかも全長は15メートルくらいある。


 翼を広げるとその影が大地に映り、まるで天空の支配者のごとく威圧感を放っている。


 そして、その体は雷光を纏い、羽ばたくたびに電光が走っていた。


 うっわー、何かカッコイイ。


「来なさい、あーしが相手だ!」


 サンダーグリフォンは一声高らかに鳴き、空高く舞い上がった。


 その姿はまるで雷鳥そのもののようだった。


 直後、サンダーグリフォンは強力な雷を放ち、あーしに向かって攻撃を仕掛けてきた。


 バリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!


「お生憎さま、あーしに雷撃は効かないよ! もちろん、ゴムの身体だからじゃないからね!」


 あーしは〈光気功〉を発動させ、手をかざして雷を受け止めた。


 その瞬間、あーしの体に若干の痺れが走るが、その程度は何のその!


 あーしは最初っから80倍〈光気功〉のコンボ技を繰り出す。


「――〈千撃神拳〉!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 80倍〈光気功〉による気弾のマシンガンが、サンダーグリフォンを木っ端微塵にしていく……はずだった。


「……マジか」


 あーしは思わず唸った。


 サンダーグリフォンは生きていた。


 ある程度のダメージは負っているが、苦しげに羽ばたきを止めているだけで、その目にはまだ闘志が宿っていた。


『強ええええええええええええええ』


『やっぱり魔王城に近づくにつれて魔物のレベルが高くなってんな』


『まさか、ここで花緒が負けるのか?』


『花ちゃん、頑張れ!』


『俺たちがついてるぞ!』


『負けないでくれ、ワイの推し』


 あーしは配信画面を見ながらニコリと笑った。


 当然、余裕のVサインをするのも忘れない。


「みんな、心配しなくていいよ。あーしは絶対に負けないからね!」


 そう、リスナーたちの温かいコメントがあーしに勇気をくれる。


 こんなところで負けるなと奮い立たせてくれる。


 その応援があーしに力を与えてくれる!


「――90倍〈光気功〉!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!


 あーしはサンダーグリフォンよりも光り輝いた。


 これぞ、MAXの一歩手前——90倍〈光気功〉の力だ!


 キョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 そんなあーしの力を見て、サンダーグリフォンは甲高い叫声を上げた。


 あーしは身構えた。


 てっきりそのまま襲ってくるかと思ったが、さすがはサンダーグリフォンだ。


 あーしの力を正確に把握したのだろう。


 今の自分では勝てない。


 こうなったら仲間を集めて、あいつをフルボッコにしてやろうと。


 なのでサンダーグリフォンは向かってくるどころか、あーしに背を向けてどこかへ飛び立とうとした。


「あのね」


 あーしは90倍〈光気功〉の力を右拳に全集中した。


「今のあーしが逃がすわけないでしょ!」


 あーしは言い放つと、〈千歩神拳〉の強化版を繰り出した。


「――〈万撃神拳〉!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 無数の雷よりも強力な、気弾の嵐。


 いや、それはもはや人智を超えた弾道ミサイルの速射だった。


 ギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 雷山エリア全体に鳴り響くほどの悲鳴。


 そして――。


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!


 空中で巨大な爆発が起こり、今度こそサンダーグリフォンはミンチになった。


 バラバラになった肉片が、無数の雷とともに大地に降り注ぐ。


「どんなもんだい!」


 あーしが配信画面に胸を張ると、歓声コメントが信じられない速度で流れていく。


『すっげえええええええええええええええええええ』


『やばすぎいいいいいいいいいいいいいいいいい』


『さすがは俺の推し!』


『すごいよ、花ちゃん!』


『これから一生推します!』


『いよいよ魔王城まであと一歩だね!』


『花ちゃんVS異世界の魔王……くう~、楽しみすぎる!』


『フレー、フレー、頑張れ花ちゃん!』


「ありがと、みんな! この調子で進んでいくよ!」


 こうして、あーしは雷山エリアを抜けたのだった。




〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


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