第33話   魔法学園に来校、姫川花緒の魔力テスト!

 あーしは国王の紹介状を手に、魔法学園へとやってきた。


 すごい、ハ〇ー・ポッ〇ーの世界みたい!


 目の前に広がる景色は、まるで本当にハ〇ー・ポッ〇ーの世界そのものだった。


 塔のような建物が立ち並び、とんがり帽子と黒いローブを身にまとった生徒たちが行き交う。


 その光景に心躍らせながら、あーしは受付口の案内役の人に連れられて学園長室へと向かった。


「失礼します」


 あーしが扉をノックすると、中から「入りな!」と声が返ってきた。


 学園長室に入ると、そこには学園長の他に主だったクラスの先生たちが集まっていた。


 学園長は白髪の片眼鏡をかけたお婆ちゃんだった。


 でも、目つきは鋭い。

 

 すでにあーしが来ることは王宮から連絡があったのだろう。


 緊張感が漂う中、あーしは学園長に国王の紹介状を差し出した。


「話は通っていると思うんですけど、あーしは〈エアワン〉について教えてほしいんです」


 学園長は紹介状を受け取り、じっくりと目を通す。


 そして、あーしを見て「笑止!」と叫んだ。


「馬鹿も休み休み言いな! 〈エアワン〉は世界魔法連盟のトップシークレットの一つ。あんたみたいな小娘にそう簡単に教えていいものじゃないんだ!」


「でも、あーしはガストラル大草原で魔物を――」


「ああ、それは知っているよ。大層な働きをしたそうじゃないか。だが、それはそれ。これはこれ。どうしても〈エアワン〉について知りたいなら、あんたの魔法使いとしての才能――魔力がどれぐらいあるか調べさせてもらうよ」


 あーしは頭上に「?」を浮かべた。


「何で〈エアワン〉の情報を知るのに魔力があるかどうかを調べるんですか?」


 あーしがたずねると、他の先生から野次が飛んできた。


「そんなことも知らないのか!」


 うん、知らない。


「まったく、最近の小娘は!」


 小娘は関係なくない?


「〈エアワン〉が魔力で動くことぐらい魔法使いなら常識だろ!」


 あーしは配信者で空手家だから知らないよ。


「それに何だそのハレンチな服装は! どうせ小遣い欲しさにパパ活とかしてるんだろ!」


 インナーの上から半袖の空手着を着ているだけで、別にハレンチな格好じゃない気がするけど……っていうか、この世界にもパパ活って言葉があるんだ。


 そんなことを考えていると、学園長が「ともかく」と咳払いする。


「お前さんの魔力量を測らせてもらうよ。その結果によっては〈エアワン〉について教えてやってもいい」


「テスト?  まぁ、いいけど」


 あーしは軽い気持ちで答えたが、学園長の目は真剣そのものだった。


「よし、じゃあ早速ここに魔水晶を持ってきな!」


 学園長が叫ぶと、先生の1人が半透明な球体を持ってきた。


 あれだ。


 占い師のセットの水晶球(?)とやらに似ている。


 その水晶球をテーブルの上に置く。


「さあ、小娘! その魔水晶に触れてみな! 魔水晶は触れた人間の魔力の量で光度が変わるから、あんたがそれなりの魔力を持っているなら光り輝くはずだ!」


 どうして学園長はそんなに叫びながら説明するのだろう。


 まあ、いいや。


 とにかくテストというなら触れてみよう。


 あーしは魔水晶に触れてみた。


 しかし、魔水晶は何の反応も示さない。


 光り輝くどころか、変わらずに半透明なままだ。


「何てことだ!」


「ほら見たことか、こいつは魔力が少ないどころかゼロだ」


「この能無しめ!」


 と、先生たちから口さがない野次が飛んでくる。


 あーしはちらりとドローンの配信画面を見た。


『あ~、さすがの花ちゃんも魔法使いの才能はなかったか』


『こればかりはしゃあない。だって花ちゃんは日本人だからね』


『魔法が使えないぐらいで花ちゃんの価値は下がらないよ』


『むしろ魔法使える異世界の人間が異常』


 などの温かいコメントが流れてくる。


 ありがとう、みんな。


 大好きだよ❤


 ふう、と学園長の大きなため息が漏れた。


「まさか魔力がゼロの無能だったとは……こんな無能に〈エアワン〉の情報を教えるなどとんでもない。〈エアワン〉は地水火風無の五大属性のさらに上――光属性の魔法を使える人間でしか操れない稀少アイテム中の稀少アイテム。国王にはこちらからあんたが能無しだと伝えておくよ」


「光属性? その光属性を持つ魔法使いしか〈エアワン〉には乗れないの?」


「当り前さね。だから〈エアワン〉は稀少アイテムなんだよ。それに光魔法は100年に1人現れるかどうかの超天才のみが使える究極の魔法。使えば全身が黄金色に輝き、呪文を詠唱せずとも身体能力や光の魔力自体を攻撃手段として使える……まあ、あんたのような能無しにこんな説明をしたところで無駄だろうけど」


 なぜか漫画の悪役キャラのように「ククク」と学園長は笑う。


 あーしは小首をかしげた。


「ねえ、その光魔法ってまさかこれのこと?」


 あーしは〈光気功〉を発動させ、全身に黄金色の〈気〉をまとわせた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!


 すると魔水晶が「バンッ!」と弾け飛んだ。


「「「「「「えええええええええええええええええええ」」」」」」


 学園長を始め、先生たちは目玉を飛び出させるほど驚いた。


「あ、やっぱり光魔法って〈光気功〉のことだったんだ。じゃあ、あーしは立派な光魔法の使い手だよ」


 あーしはそう言うと、顔の前まで掲げた右拳に〈気〉を集中させた。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!


「「「「「「ひえええええええええええええええええええ」」」」」」


 学園長たちはあーしの〈気〉の威力を見ると、その場に土下座した。


「先ほどは無礼な物言いをして大変申しわけありませんでした!」


 学園長が床に額をこすりつけるほど頭を下げる。


 それは他の先生たちも同様だった。


 普通の人ならその手のひら返しに怒っただろう。


 だけど、あーしはそんな器の狭い人間じゃない。


 登録者300万人を超えた配信者で空手家なのだ。


 だから許してあげよう❤


「どうか命ばかりはご容赦を!」


 と全身を震わせている学園長に、あーしは「いいよ」と微笑んだ。


「その代わり、〈エアワン〉について教えて――」


 欲しい、と続けようとしたときだ。


「お待ちになってください!」


 バンッ、と出入り口の扉が盛大に開いた。


「学園長、ぜひとも私たちにもその人をテストさせてください!」


 いきなり室内に入ってきたのは、4人組の女子生徒たちだった。


 ……え? 誰?




〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


 最大同接数 400万0000人


 チャンネル登録者数 319万7000人




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