第32話   国の裏にいた巨悪、〇〇学園への紹介状!

 王宮の玉座の間に足を踏み入れると、その豪華さに圧倒されそうになった。


 金色の装飾が施された柱や、豪華な絨毯、そして威厳に満ちた玉座。


 国王と王妃がそこに座り、その周囲には宰相や大臣、騎士たちが整列している。


 あーしは一瞬緊張したが、すぐに深呼吸をして気を取り直し、堂々とした足取り部屋の中央に進んだ。


『すげえ、マジでゲームみたいな世界観!』


『国王も王妃もゲームで登場するような格好だなwwwww』


『しかもド〇ゴ〇クエストみたいな世界観なwww』


『花ちゃん、失礼のないようね』


『いや、花緒なら何か無礼を働いても余裕で逃げられるだろ?』


 などのコメントが配信画面に流れている。

 

 あっ、ちなみにドローンにはまだ〈隠蔽〉スキルを使ってるから、他の人たちには見えていないよ❤


 あーしが心中で誰かに向かって説明していると、国王――RPGで出てきそうな王冠をかぶった髭のお爺ちゃん――があーしを見て満面の笑みを浮かべる。


「ガストラル大平原の攻防戦でのそなたの活躍、実に素晴らしかった」


 国王の声には感謝の意が込められていた。


「そなたの勇気と力に、私もそうだが国民全員が感謝している」


「ありがとうございます」


 と、あーしは一礼した。


 そのときである。


 あーしの目眉がピクッと動いた。


 そっと国王から目線を外し、高級そうな服を着ている太っちょのチョビヒゲの人――宰相に視線を移す。


 ……もしかして


 あーしは再び視線を国王に戻し、おそるおそるたずねる。


「国王さま。1つおたずねしたいのですが、今回のような魔物の大群はよく襲ってくるんですか?」


 あーしが質問すると、国王は「うむ」と表情を曇らせる。


「近年になって国全体で魔物絡みの不可思議な事件が多発している。これが一体何故なのか、誰にも分からないのだ」


 あーしは宰相を指さした。


「原因はそこにいる宰相に化けている魔物だと思いますよ」


 玉座の間が一瞬にして静まり返った。


 宰相は驚いた表情を浮かべたが、次の瞬間、その姿が歪み始めた。


 人間だった宰相は魔物に変身した。


 いや、そもそも魔物が宰相に化けていたのだ。


「ふははははは、よくぞ我が変身魔法を見破った!」


 本性を現したのは人語を話す魔物だった。


 全身ムキムキでパツパツの黒服を着ている魔物。


 以前に闘ったヴァンパイアと似ている。


 親戚なのだろうか?


 とりあえず名前がわからないから、ヴァンパイア2号と名付けよう。


 あーしがそんなことを考えていると、ヴァンパイア2号は高らかに笑った。


「宰相に化けてもっとこの国を混乱の坩堝に落とす予定だったが、貴様のせいで我が計画はオジャンになってしまった。どう責任を取ってくれるのだ」


 そんなことを言われても大変に困る。


 というか、それなら簡単に変身を解かずにいればよかったのに。


「ふん、まあいい。こうなったらジワジワとこの国を亡ぼすのはやめだ! この場にいる人間すべてを殺し、今日限りでこの国を――」


「ハアアアアアアアアアアアアアア」


 あーしは気合一閃。


 瞬時に〈気〉を練り上げ、〈光気功〉のエネルギーを右拳に込めた。


 そして地面を蹴ると、ヴァンパイア2号に肉薄。


 至近距離からヴァンパイア2号の顔面に右拳を叩き込んだ。


 ゴシャッ!


 と、ヴァンパイア2号の顔面は陥没。


 その衝撃でヴァンパイア2号の身体は吹き飛び、十数メートル後方の壁に激突した。


 直後、あーしはヴァンパイア2号に疾駆した。


 ヴァンパイア2号が死んでないことはわかっていたからだ。


 なので、あーしはヴァンパイア2号にとどめを刺すために攻撃を繰り出す。


「――〈千撃拳〉!」


 あーしはヴァンパイア2号に拳の連打を叩き込んでいく。


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!


「ほぎゃああああああああああああああああああああ」


 ヴァンパイア2号の身体は壁を突き抜け、そのまま地面へと落下していった。


 この玉座の間は地上から数十メートルの高さにある。


 さすがの魔物もこの高さから落ちたら死亡だろう。


 う~ん、でも相手は魔物だしね。


 あーしは穴が空いた壁から身を乗り出すと、地上に墜落したヴァンパイア2号にさらにとどめの一撃を放った。


「ほい、〈千歩神拳〉」


 あーしの右拳から放たれた気弾が、ヴァンパイア2号に直撃する。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!


 爆風と地鳴りが起こり、ヴァンパイア2号は遠目からでもわかるほど粉々になった。


 うん、これでOK❤


 あーしは一仕事終わったとばかりに額を拭うポーズを取る。


 全然疲れてないし汗も搔いていないけど、こういうポーズをすると何かやりきった気がするのよね。


 などと思っていると、玉座の間が喜びと歓声に包まれた。


 その中で国王の喜びっぷりは大きかった。


「まさか、宰相が魔物だったことを一目で見抜いたばかりか、こうもあっさりと倒してしまうとは! そなたの実力は本物中の本物だ。姫川花緒、そなたを是非とも我が王宮に迎え入れたい」


 あーしは一瞬考え込んだが、すぐに頭を振った。


「そこまで評価していただいてありがとうございます。でも、あーしには戦魔大陸に行って魔王を倒す必要があるんです。申し訳ありませんが、お受けすることはできません」


 国王は少し考え込んだあと、渋々とうなずいた。


「そうか、魔王を倒しに行くとはよほどの事情があるのだろう。しかし戦魔大陸への道を開くためには、魔法学園の学園長に会う必要がある。彼が戦魔大陸に行ける唯一の飛行手段――〈エアワン〉について知っている」


「国王さまは〈エアワン〉についてご存じないのですか?」


「あれは世界魔法連盟の所有物の1つだ。そして魔法学園の運営こそ各国々がしていおるが、魔法に関するアイテムなどの管理は世界魔法連盟が行っておる。なので国王の私でも不可侵なのだ」


 しかし、と国王さまは側近の人にペンと紙を持ってこさせた。


 国王は紹介状を書き始めた。


 しばらくして、王宮の紋章が入った紙を手渡してくれた。


「これを持って、魔法学園の学園長に会いに行くといい。きっとそなたの願いを叶えてくれるだろう」


 あーしは紹介状を受け取り、深く礼をした。


「ありがとうございます。あーしは必ず魔王を倒してみせます!」


 こうして、あーしは王都の郊外にある魔法学園へと向かったのだった。




〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


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