第30話   歴史に名が残る激戦、チャンネル登録300万人突破!

 あーしが戦いの渦中で気を練り上げ、残りの魔物たちに立ち向かっている最中、空に異様な音が響いた。


 重低音のうなりとともに、大気が震えるような感じがした。


 その音の方向を見上げると、そこには巨大なドラゴンが翼を広げて飛んでいた。


 しかもその背には、黒い鎧に身を包んだ騎士が乗っている。


「わお、本物のドラゴンだ」


 あーしの瞳は鋭く輝き、口元には笑みが浮かんでいた。


 初めて見る本物のドラゴンにあーしの心は激しく鼓動していたが、その興奮を抑えつつ、戦闘への準備を整えていた。


 同時に確信する。


 あのドラゴンは今までで最強の強敵だ。


「面白い……あーしの力を試すにふさわしい相手が来たってわけね!」


 ドラゴンは凄まじいスピードで降下し、地面に激突する直前に優雅に旋回して着地した。


 地面は衝撃で揺れ、周囲の砂や石が舞い上がる。


 あーしが身構えると、ドラゴンの背から騎士が降り立った。


 その手に握られた漆黒の剣が握られている。


 剣はまるで闇そのもののように光を吸い込み、不気味に輝いていた。


「人間の小娘にはやるな。だが、ここで終わりだ」


 その声は低く、冷たく響いた。


 まるで氷の刃が耳を切り裂くような感覚に、あーしの背筋がゾクゾクした。


 ゾクッとしたじゃないのよ。


 期待が高まるゾクゾクのほうね。


 あーしは〈光気功〉で身体をさらに強化させる。


「終わるのはあんたのほうだよ!」


 あーしは全身に〈気〉を巡らせ、間合いを詰めようとした。


 直後、騎士――ドラゴン騎士は再び跳躍。


 ドラゴンの背中に着地する。


「こしゃくな人間の小娘よ! この魔王さま直属の四天王の1人――シグマさまが葬ってくれる!」


 シグマがそう言うと、ドラゴンがあーしに向かって前足を薙ぎ払ってきた。


 あいつ、見た目どおりのドラゴン使いね!


 あーしの拳とドラゴンの爪が激突し、周囲に衝撃波が広がった。


 その一撃は双方にとって試練の瞬間だったが、どちらも一歩も引かない。


 あーしは後方に飛んで間合いを作る。


「やるじゃない……だけど、これで終わりじゃないよ!」


 あーしは再び〈千歩神拳〉を放つ準備を始めた。


 しかし、シグマもただの強者ではなかった。


 シグマはドラゴンに指示を送った。


「行け、ポチ! 火炎を放て!」


 プッ、あのドラゴンってポチって名前なの?


 あーしは吹き出しそうなのを何とか堪え、両手に〈気〉を集中させた。


 ドラゴンは口を大きく開け、燃え盛る火炎をあーしに向けて吐き出した。


 その炎はすさまじい熱量を持ち、地面を焼き尽くす勢いだった。


 炎の熱気があーしの肌に感じられ、その圧倒的な力に一瞬の畏怖を覚えたが、あーしの決意は揺るがなかった。


 あーしはその炎を恐れず、〈光気功〉と空手のミックス技を使って防御する。


「――〈光壁・回し受け〉!」


 あーしの前に黄金色の防御壁が現れ、火炎を完全に霧散させた。


「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 シグマが驚くと同時に、操っているドラゴンの動きも止まる。


 なるほど、操手が動揺するとポチも動揺するのね。


 だったら――。


 あーしはこのチャンスを逃さなかった。


 素早く両足を広げ、腰だめに右拳を構える。


「――〈千歩神拳〉!」


 あーしはその場での正拳突きを放つ。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 黄金色の光弾が再び放たれ、ドラゴンに直撃した。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 周囲に響き渡るシグマの絶叫。


 そして凄まじい爆発音とともに大地が揺れ、もうもうとした煙が立ち上がった。


 十数秒後。


 辺りを包んでいた煙が晴れていく。


「へえ……やるじゃん」


 煙が晴れると、そこにはシグマの姿があった。


 シグマの鎧はボロボロで、血が流れていたが、その眼光は未だ鋭かった。


 未だ闘志が宿っており、それなりの殺気を放っている。


「くくく……まだ終わりではないぞ! こうなったら俺の最終形態を見せてやる」


「あ、そういうのはいいから」


「へ?」


 頓狂な声を発したシグマに対して、あーしはすかさず〈千歩神拳〉を放った。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 気弾はシグマを直撃し、爆発音とともにシグマは地面に倒れ込んだ。


 その後はもう二度と立ち上がることはなかった。


「ある程度のダメージを受けたら形態を変えるのはマンガの中だけにして。現実でやられるとウザいだけだから」


 あーしは息を整え、勝利の実感を感じた。


 すると戦いの終わりを見届けた冒険者たちと王宮騎士団が集まってきた。


「すげえぜ、あんた!」


「これだけの魔物を1人で倒すなんて!」


「闘神だ! あんたは伝説の闘神の生まれ変わりだ!」


「ぜひとも王宮に来てください。あなたはこの国を救った英雄です!」


 喝采を浴びていると、戦闘前に遠ざけていたドローンが戻ってきた。


 見るとリスナーたちからの絶賛のコメントが流れている。


『花ちゃん、最高!』


『伝説のヒーローっぽかった!』


『まさか本物のドラゴンを倒すなんて!』


『こっちの世界で花ちゃんの名前はめっちゃ拡散されているよ。花ちゃんが異世界から帰ってきたら、国を挙げて出迎えるって総理大臣が記者会見してた』


『SNSでも姫川花緒がトレンドを独占してるよ』


『早く帰って来てくれ』


 などのコメントを見て、あーしは満面の笑顔を作る。


「みんな、ありがとう! あーしも魔王を倒したら元の世界に帰るよ!」


 帰り方はよく知らないけど、まあ何とかなるっしょ。


 人生なんて『ナンクルナイサ(何とかなるさ)』の精神が肝心よ!


 こうして、あーしは異世界で伝説を作ったのだった。


 そしていつの間にか登録者が300万人を超えていたのは、もう少し時間が経ってからわかったのだった。




〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


 最大同接数 354万3000人


 チャンネル登録者数 300万1000人


 

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