第29話   今さら気づいても遅い、姫川花緒の超最強バトル!

 あーしは魔物たちに向かって気弾を放った。


「――〈千歩神拳〉!」


 ゴオオオオオオオオオオ――――ッ!


 巨大な黄金色の気の光弾が魔物の群れに直撃する。


 あーしの〈千歩神拳〉をモロに食らった一部の魔物たちは、耳をつんざく悲鳴とともに肉体を爆裂四散させて地獄へと落ちていく。


 これが人間ならば一発で戦意を喪失しただろう。


 だけど、残っているのはAランクの上級魔物たちばかり。


 同じ種族だろうと他種族だろうと、狂気と殺意を高めていた状況で弱腰になることなどない。


「そうよね……お互い、もうキレてるもんね」


 あーしはニヤリと笑って残りの魔物たちを見回した。


 3分の1の魔物を一瞬で倒したあーしの〈千歩神拳〉を見ても、残りの魔物たちはまったく怯むことなく向かってくる。


 やっぱいAランクの上級魔物は馬鹿じゃないみたい。


 2発目の〈千歩神拳〉を最大限に警戒したのだろう。


 一塊にならないよう、各種族ともバラバラになりながら距離を縮めてきた。


 そして様々な種族の殺意の牙が容赦なく襲いかかってくる。


 それでもあーしの心は乱れない。


 あーしは地面を力強く蹴ると、3メートル以上はある前方のオーク・エンペラーに飛びかかった。


 オーク・エンペラーの筋肉と脂肪が詰まった太鼓腹に必殺の前蹴り――〈飛竜蹴り〉を叩き込む。


 内臓を中から破壊されたオーク・エンペラーが血反吐を吐いて絶命したのを確認するまでもなく、あーしは瞬時に隣にいたオーガ・カイザーに向かって駆け出した。


 巨大な棍棒を振り回してくるオーガ・カイザー。


 でも、今のあーしはオーガ・カイザーの攻撃など目を瞑っても避けられる。


 あーしはオーガ・カイザーの棍棒を身を屈めることで躱すと、すぐさま6つに分かれた腹筋に体重と気を乗せた正拳突きをお見舞いする。


 それだけでは終わらない。


 あーしは間髪を入れず、飛び跳ねながらオーガ・カイザーの顎に真下から揚げ突きを放った。


 ゴキンッ!


 あーしの揚げ突きでオーガ・カイザーの首の骨はへし折れ、そのまま3メートル以上はあったオーガ・カイザーは背中から倒れて絶命する。


「まだまだ!」


 気が乗ってきたあーしは本能のままに肉体を動かした。


 あーしの制空圏の中にいたジャイアント・トロール、ダーク・フェンリル、メタル・ゴーレムたちに次々と繰り出していく。


 まずはもっとも倒しやすいジャイアント・トロールに狙いを定めた。


 あーしは全身毛むくじゃらの巨人であるジャイアント・トロールのパンチを避けると、ジャイアント・トロールの左膝に渾身の蹴りを叩き込む。


 あまりの蹴りの衝撃に膝をつくジャイアント・トロール。


 あーしは助走なしに数メートルの高さをジャンプすると、無防備だったジャイアント・トロールの頭頂部に――〈神雷肘落とし〉を繰り出して脳天を砕く。


「次はあんた!」


 あーしは地面に颯爽と降り立ち、右方から襲いかかってくる敵に顔を向けた。


 身体と凶暴さが巨大化した魔狼の最上位種――ダーク・フェンリルだ。


 ダーク・フェンリルは上顎と下顎を大きく開けて猛進してくる。


 その口であーしを捉えて一気に噛み砕こうとしたのだろう。


 しかし、あーしからしてみれば悪手も悪手だった。


 あーしは神速の踏み込みから軸足を返し、力と勢いと気を最大限に乗せた〈旋風回し蹴り〉をダーク・フェンリルの顔面に放った。


 バアンッ!


 あーしの〈旋風回し蹴り〉の直撃を浴びたダーク・フェンリルの顔面は、爆弾を食らったように破裂した。


 そしてダーク・フェンリルは大量の血と脳漿を飛び散らせて絶命する。


 続いての敵はそれなりに厄介なメタル・ゴーレムだった。


 一般種のゴーレムは単一的な動きしかしない土人形だが、最上位種であるメタル・ゴーレムは複雑な動きをこなす金属人形だ。


 通常の打撃や斬撃はもちろんのこと、攻撃魔法でも火力が低ければダメージは与えられない。


 金属の肉体が生半可な攻撃などすべて弾き返すからだ。


 けれどもメタル・ゴーレムの恐ろしさはそれだけではない。


 メタル・ゴーレムは丸まった口から魔法とは異なる、光線と呼ばれている異様な力の塊を連続で発射してくる。


 コンクリートの壁を貫通するほどの威力の光線。


 あーしはそんな光線の軌道を完全に読みながら間合いを詰める。


 そしてメタル・ゴーレムの胴体に、衝撃波が内部へ深く浸透する〈波状掌底打ち〉を叩き込んだ。


〈光気功・波状掌底打ち〉を食らったメタル・ゴーレムは、全身をビクビクと痙攣させた末に頭部から大量の煙を出して地面に倒れる。


 といった具合にあーしはそれぞれの種族に合わせた、もっともダメージを与えられる攻撃で魔物たちを戦闘不能にさせていく。


 もちろん一打一蹴ごとに〈気〉を込めているため、あーしの攻撃の衝撃波は内部に伝わって体内を破壊している。


 あーしはジャイアント・トロール、ダーク・フェンリル、メタルゴーレムを倒すと、後の先(カウンター)を捨てて、とにかく先手を取るために動いた。


 あーしのそんな思いを感じ取ったのではないだろうが、幸いなことに魔物たちはあーしのはるか後方にいる冒険者の一団よりも、あーし一人のほうが脅威の存在だと察してくれたのだろう。


 1体たりとも冒険者の一団へは向かわず、今のところあーしだけをターゲットにしてくれている。


 その点だけは本当にありがたかった。


 誰かを守りながら闘うのは非常に神経と労力を使うからだ。


 次の瞬間、残っていた魔物たちが目を血走らせつつ突進してきた。


 憎悪と狂気が入り乱れた、何十もの眼光があーしの全身に槍衾のように突き刺さってくる。


 魔物どもはようやく気づいたのだろう。


 目の前の捕食される側だと思っていた人間が、実は自分たちを捕食する側の圧倒的な強者だということに。


 だからこそ、誰が先に殺されようが一斉に襲いかかってあーしを仕留める決意を強めたのかもしれない。


 そんな魔物たちにあーしは言い放った。


「今さら気づいても、もう遅いよ!」


 


〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


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