第28話   姫川花緒VS魔物大暴走、30倍〈光気功〉の威力!

 あーしは冒険者たちの一団から1キロほど先で両足を止めた。


 遠くからは一つの生命体のように魔物どもが押し寄せて来ている。


 その数、およそ1000体。


 常人ならば一瞬で気を失ってしまう絶望的な光景だろう。


 でも、あーしの心はさざ波ほども乱れない。


 あまりの恐怖と緊張で心が麻痺してしまっているのか?


 答えはノーだよ。


 今のあーしは1年間の修行の成果を確かめられるとウキウキしていた。


 ヤッバ、これじゃあただの戦闘狂じゃないの。


 だけど、それぐらいの気構えがなければ1000体以上の魔物とは闘えない。


 なのであーしは本格的な戦闘準備に入った。


 あーしは迫り来る魔物どもを睨みつけながら気息を整えると、両足が「ハ」の字になるような独特な立ち方を取った。


 背筋はまっすぐに保ちつつ、拳を握った状態の両手の肘を曲げて中段内受けの形――三戦サンチンの構えだ。


 コオオオオオオオオオオオオ――――…………


 そしてあーしは息吹きの呼吸法とともに、下丹田を中心に全身が光り輝くイメージで〈気〉を練り上げていく。


 直後、あーしの下丹田の位置に目をくらませるほどの黄金色の光球が出現した。


 それだけじゃない。


 目に見えた光球からは火の粉を思わせる黄金色の燐光が噴出し、あっという間に黄金色の燐光は光の渦となってあーしの全身を覆い尽くしていく。


 30倍〈光気功〉による身体能力の向上である。


 あーしが俺が普段の30倍に〈気〉を高めると、魔物の群れはあーしのいる場所から500メートル圏内に突入してきた。


 おっと、そろそろ本格的に動かないとね。


 俺は再び気を引き締め、魔物どもをキッと睨みつける。


 そして心中で激しく強く「殺しちゃうよ!」と念じる。


 次の瞬間、あーしの〈気〉が込められた念は物理的な威力をともなう衝撃波となって魔物たちに放射されていく。


 すると魔物どもは泡を吹きながら次々とその場に倒れた。


 その数は10体や20体ではない。


 900体ほどの魔物があーしの念を受けて戦闘不能の状態になったのだ。


 しかし1000体のうち900体ほどしか無力化できなかったということは、残っている魔物は高ランクの魔物であることを明確に示していた。


 さて、本番はこれからね。


 ざっと見たところ、


 ゴブリンの最上位種――ゴブリン・キング×18。


 オークの最上位種――オーク・エンペラー×12。


 トロールの最上位種――ジャイアント・トロール×16。


 魔狼の最上位種――――ダーク・フェンリル×14。


 ゴーレムの最上位種――メタル・ゴーレム×17。


 オーガの最上位種――オーガ・カイザー×13。


 キメラの最上位種――エンシェント・キメラ×7。


 などの未知なる魔物たちが軒並み残っている。


 しかもあいつらはあーしの威圧にまったく臆していない。


 あーしの威圧はこの異世界のAランクの魔物でもある程度は怯むはずなので、それを考えればあいつらの強さはSランクに近いAランクなのだろう。


 あーしがそう判断したのも束の間、魔物たちの後方に特別な魔物たちが潜んでいることに気づいた。


 おそらく、そいつらがこの魔物たちのボスだ。


 などと考えていたとき――。


「シャアアアアアアアアアアアッ――――ッ!」


 1匹のゴブリン・キングが、あーしに向かって疾走してくる。


 ゴブリン・キングの体格は3メートル強。


 それでありながら鈍重な印象は微塵もない。


 あーしは間合いを詰めてくるゴブリン・キングに対して自流の構えを取った。


 左手は顔面の高さで相手を牽制するかのように前にかざし、右手は人体の急所の一つであるみぞおちを守る位置で固定させる。


 もちろん両手とも拳はしっかりと握り込まず、どんな対応もできるように緩く開いておく。


 肩の力は抜いて姿勢はまっすぐ。


 バランスを崩さないように腰を落として安定させ、左足を二歩分だけ前に出して後ろ足に七、前足に三の割合で重心を乗せた。

 

 攻撃と防御の二面に優れた、パパから習った構えだ。


 一方のゴブリン・キングは間合いを詰めるなり、あーしの頭上目掛けて両刃の大剣を一気に振り下ろしてくる。


 あーしはゴブリン・キングの攻撃を完全に見切ると、構えを崩さずに真横に移動して斬撃を紙一重でかわした。


 同時に大剣を持っていたゴブリン・キングの右手に必殺の横蹴りを放つ。


 ドゴンッ!


「グギャアアアアアッ!」


 ゴブリン・キングの悲痛な叫びが周囲に響き渡る。


 無理もない。


 あーしの横蹴りで右手の骨を粉々にされたからだ。


 けれども骨折程度で済ませるほど今のあーしは優しくはない。


 あーしは神速の踏み込みからゴブリン・キングの無防備だった右脇腹へ渾身の突きを放つ。


 ズドンッ!


 全体重と〈気〉の力が合わさった右正拳突きが、ゴブリン・キングの右脇腹へ深々と突き刺さる。


 その衝撃は筋肉の奥へと浸透し――内臓をグチャグチャに搔き乱して――やがて反対側の左脇腹へと突き抜ける。


 数秒後、ゴブリン・キングは大量の吐血とともに地面に倒れた。


「さあ、次はどいつ?」


 あーしは絶命したゴブリン・キングから残りの魔物どもへ視線を移す。


「お山の大将が来るまであーしが遊んであげる❤」



〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


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