第27話 ガストラル大草原の攻防戦!
あーしは冒険者たちと一緒に目的地へとやってきた。
ガストラル大草原。
余計な障害物などあまりなく、風に揺られて草の葉がどこまでも平坦に広がっている場所だ。
だからこそ、そこで何が行われているかは遠くからでもよく見えてしまう。
戦況は最悪ね。
あーしは数キロメートル先の光景に歯噛みした。
〈光気功〉で視力を強化しているため、すでに王国騎士団と魔物の殺し合いは佳境に入っているのが見て取れた。
「ダメだ……あんなところに俺たちが入っても死ぬだけだ」
冒険者たちは顔面を蒼白にさせながら呆然と立ち尽くしている。
無理もない、とあーしは思った。
あーしの強化した視力には及ばないが、冒険者たちも数キロメートル先の惨状が何となく見えているようだ。
正直なところ、王国騎士団は壊滅寸前だった。
ざっと視認したところでも王国騎士団の9割は全滅している。
魔物はゴブリンやオークが大半で、その他にはヒグマ並みの体格の魔狼やキメラなどの姿も確認できた。
え? 何で異世界の魔物のことがわかるのかって?
あーしのドローンには異世界の情報が詰まっているからに決まってんでしょ。
こういうときも見越して、パパがあーしのドローンのAIに異世界の情報を覚え込ませてくれたの。
その情報の中に魔物の情報もあるってわけ。
まあ、それはさておき。
そんな魔物どもは生き残っている王国騎士団たちと闘っている人もいるが、他の大半の魔物どもは殺した王国騎士団たちの死骸をむさぼり食っている。
まさに狂乱の宴とも呼ぶべき凄惨な光景だ。
それこそ、耐性のない人間など一発で理性が吹き飛んでしまうに違いない。
現にあーし以外の冒険者たちはあっさりと戦意を失ってしまった。
「くそ、どうやったって俺たちはここで死ぬしかないじゃねえか」
「何なんだよ、あの魔物どもの数は……確実に1000はいるぞ」
「くそったれ、王国騎士団が勝てない魔物に俺たちが勝てるかよ」
などと冒険者は口々につぶやくと、自分たちの死を明確に悟ったのその場にがくりと膝を折っていく。
そのとき、一人の若い男が長剣をすらりと抜いて天高く掲げた。
「みんな、諦めるな! たとえ勝ち目が薄い戦いになろうとも、俺たちには街の命運が託されている! さあ、立って一匹でも多くの魔物を打ち倒そう!」
若い男の名前は、ガストンというらしい。
若干20歳でありながら、Sクラスに近いAクラスの冒険者だという。
弱気になった冒険者たちとは対照的に、ガストンだけが必死に恐怖を抑えて戦意を露わにしたのだ。
けれども、誰一人としてガストンに賛同する冒険者はいなかった。
「どうしたと言うのです、諸先輩方! 魔物どもが本格的に攻め込んでくる前に、こちらから打って出ましょう!」
「あんたは本当の馬鹿ね。この状況を見て、そんな気休めの言葉に乗る奴なんているわけないじゃない」
あーしは遠くの魔物どもを見据えつつ、ガストンに言い放った。
「な、何だと!」
ガストンはあーしに剣先を向けて憤慨する。
「貴様、ノーランクの分際でAランクの俺を馬鹿呼ばわりするのか!」
「ランクなんて関係ないよ。それに馬鹿に馬鹿と言って何が悪いの。あれだけの数の魔物相手に何の作戦もなしに突撃なんてするのは、切り立った崖の上から飛び降りるようなのよ。あんたも陣頭指揮を任されたリーダーなら、まずは自分たちが置かれた状況からいかに味方の損害を出さずに切り抜けられるかを考えるべきじゃない?」
「き、貴様に言われなくともそれぐらいは考えている」
「そう? じゃあ、突撃という方法以外でどういう戦略を立ててるの?」
ガストンは難しい表情で遠くの魔物どもを眺めた。
「そ、そうだな……見たところ魔物の大半はゴブリンやオークどもだ。奴らは森の中では強敵だが、こうした見晴らしの良い場所での戦闘には慣れていない。それならばきちんと隊列を組んで挑めば勝てる見込みはある」
あーしは一応うなずいた。
「うん、そうね。ゴブリンやオーク程度ならこちらも隊列を整えて対処すれば苦戦する相手じゃない。あんたの言う通り、ここは見晴らしのいい開けた場所。不意の襲撃を受けやすい森の中とは違って、罠を仕掛けられたりする心配がない」
でもね、とあーしは両腕を組んで言葉を続けた。
「さすがに機動力に長けた魔狼や、キメラ相手だとさすがに分が悪すぎない? 隊列を整えるほどあいつらにとって恰好の的になるし。だから今回は
あーしはパパから格闘術の他に戦略や戦術についても学んでいた。
「馬鹿な! 密集陣形など取れば、それこそ魔物どもの恰好の的になるぞ」
「落ち着いて。確かに魔物が約1000に対してこちらは約200。普通に考えれば密集陣形を取るのは得策じゃない……でも、騎士だけで構成されていた王国騎士団と違って、ここには弓や魔法に長けた冒険者もそれなりに揃っている。それが吉と出るかもしれないよ」
あーしはガストンに自分なりの作戦を提案した。
「いい? まずは200人を4部隊に分けて、後方に回復魔法や応急処置に長けた援護部隊を置くの。そんで中間には弓や魔法を撃てる狙撃部隊、前線には槍や薙刀みたいな武器を持った隊を配置して魔物に対処する」
あーしは矢継ぎ早に内容を口にしていく。
「残りの部隊には剣術や接近戦に長けた人間たちを集め、前線で仕留め損なった魔物たちを倒していくよう指示して。そうすれば少なくともバラバラに冒険者たちが各個撃破されることはなくなって、死傷者――特に援護しかできない女冒険者たちの被害数はかなり抑えられるはず」
もちろん、それはあーしが一番槍を務めたあとの陣形だとも付け加える。
そこまで言ったとき、あーしはがガストンが変な顔をしていることに気がついた。
口を半開きにさせて、大きく目を見張っていたのだ。
「どうしたの? あーしの顔に何かついてる?」
「い、いや……お前、本当にノーランクなのか?」
そんなことよりも、とあーしは強引に話を終わらせる。
「風向きが変わった……そろそろ来るよ」
あーしの言葉にガストンはハッとなり、遠くの魔物どもに顔を向けた。
やがて冒険者たちの間に緊張が走る。
「来たあああああ――――ッ! 魔物どもがこっちにやって来るぞ!」
時刻は昼過ぎ。
冒険者たちの悲痛な叫び声が大草原に響き渡る。
そんな中、あーしは竦み上がっている冒険者たちの間を縫うように通り抜ける。
同時にドローンもあーしについてくる。
さあ、本格的な異世界での戦闘よ!
〈ギャル空手家・花ちゃんch〉
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