第26話   冒険者ギルドでの罵倒、姫川花緒の伝説の始まり

 あーしは王都に着くと、すれ違う人たちにたずねながら冒険者ギルドに向かった。


 え? そういえばドローンを連れていると人目が大変じゃないかって?


 大丈夫。


 さすがに異世界の街中でドローンを飛ばしているのは変に思われているので、〈隠蔽〉スキルで隠しているから。


 まあ、隠していると言っても透明にしているだけであーしのそばに常にいるんだけどね。


 それはさておき。


 あーしはようやく冒険者ギルドに到着した。


 リスナーたちも新しい冒険を楽しみにしているようで、コメント欄は期待の声で溢れていた。


『おお、ここが異世界の探索者ギルドか!』


『探索者ギルドじゃなくて冒険者ギルドだろ』


『どっちでもいいじゃん』


『あれだな、外見はアメリカの西部劇に出てくるような酒場だな』


『荒くれ者たちが呑んだくれているに100万』


『賭けにならねえよ。絶対にいる』


『花ちゃん、無闇に喧嘩を買ったらダメだよ』


『いや、むしろ買いまくったほうが撮れ高は多くね?』


 などのコメントを見ながら、あーしは「とにかく入るよ」と扉をくぐって中に入る。


 あーしは「おお~」と感嘆の声を漏らした。


 確かに昔パパと観たアメリアの西部劇に登場するような酒場だった。


 むさ苦しい匂いとお酒の匂い、あと香辛料の匂いなんかが鼻腔の奥に漂ってくる。


 あーしが入り口で珍しそうに周囲を見渡していると、好奇の目線がいくつも突き刺さってきた。


 中にはオジさんがあーしに向かって「ヒュウ」と口笛を吹いてくる。


 そんなオジさんたちをひとまず無視すると、あーしは受付口に向かった。


「すみません、ギルドマスターはおられますか?」


 あーしがたずねると、20代半ばほどのチャラそうで若い男が面倒そうに「ギルドマスター」と訊き返してくる。


「うちのギルドマスターに何の用?」


「昔の勇者PTについてお話を聞きたいんです」


「何で?」


「魔王を倒すために戦魔大陸に行くためです」


 直後、ギルド内が笑いに包まれた。


「おい、聞いたかよ! あんな武器も持ってない小娘が魔王を倒すとよ!」


「しかも戦魔大陸に行くだぁ?」


「お嬢ちゃん、馬鹿も休み休み言いな。お嬢ちゃんみたいな奴が魔王を倒せるわけねえだろ」


 そんな野次が次々と飛んでくる。


「ちなみに君の冒険者ランクは?」


 受付の男が笑いをこらえながらたずねてくる。


「ランクはないです。あーし、冒険者ないですから」


 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!


 先ほどよりも大きな笑いの嵐が吹き荒れる。


「こりゃあ傑作だぜ! まさか、冒険者でもなかったとはな!」


「あれだ、あの小娘は娼婦なんだよ。そんで客の取りすぎで頭がいかれちまったんだ」


「お~い、嬢ちゃん。何だったら俺の息子の相手をしてくれや。もちろん、料金はちゃんと払ってやるぜ。10ゴルドくらいな」


 10ゴルドがどれほどの貨幣価値かはわからないけど、今までのやりとりから推測するに相当低い金額だろう。


 日本円にして1000円? いや、100円ぐらいかな?


 どちらにせよ、あーしはあんな呑ん兵たちと関わっている場合ではない。


「ごめんなさい、人生の落伍者の皆さん。あーしは皆さんのような雑魚と関わっている暇はないんです」


 と、天使の笑顔で伝えたときだ。


「ああん? 今なんて言った!」


 身長2メートル近いハゲの大男があーしに近づいてきた。


 威嚇のつもりか両拳の骨をボキボキと鳴らす。


「俺たちのどこが雑魚だって? こっちが優しくしてればつけあがりやがって、この変な格好をした娼婦のガキが」


 だからあーしは娼婦じゃないって。


「テリー、ほどほどにしとけよ」


「顔はさすがにやめておいてやれ」


「安心しろ、嬢ちゃん。そいつに痛い目に遭っても、ちゃんと俺たちが介抱してやるからよ。もちろん、治療代金は身体で払ってもらうからな」


 この野次にはさすがのあーしもプチ切れした。


「あーしからも忠告してあげる。今なら土下座して謝れば許すけどどうする?」


「はあ?」


 テリーと呼ばれた男が近づいてくると、あーしの胸倉を掴んできた。


「土下座が何だって? もう一度言ってみろ!」


 その瞬間、あーしはテリーを睨みつける。


「てめえ、耳が聞こえねえのか!」


 テリーは拳を振り上げたが、あーしは一瞬の隙を突いて彼の腹に軽く拳を打ち込んだ。


 ズドンッ!


「グエッ!」


 テリーは一瞬で崩れ落ち、その場に倒れ込んだ。


 直後、ギルド内がしんと静まり返る。


 全員があーしを化け物でも見るような目で唖然としている。


「まだあーしに文句のある奴はいる? いいよ。とことん相手になってあげる」


 そう凄んだときだった。


「大変だ!」


 出入り口の扉が勢いよく開き、甲冑を着た兵士らしき男が駆け込んできた。


「郊外の森から大量の魔物が押し寄せて来た! その数は数千だ! 俺たち王国騎士団は街の防衛を固めるから、お前ら冒険者はすぐに討伐に向かうんだ! これは王からの勅命ちょくめいである!」


 冒険者たちは一斉に騒ぎ出し、ギルド内は一気に緊迫感に包まれた。


 だが、その中であーしだけは冷静だったことは言うまでもない。




〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


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