第18話   一難去ってまた一難、上空からの襲撃者!

 あーしはドラゴニュートを倒すと、人間たちが捕まっている場所へ移動した。


「みんな、大丈夫!」


 あーしが声をかけると、配信者や探索者たちは驚きと感謝の表情を浮かべた。


 みんなはガリガリだった。


 怪我をしているのに何の処置もされていない人もいる。


 相当に苦しめられたのだろう。


 それぞれの首には、奇妙な文字が彫られた首輪が付けられていた。


「だ、ダメだ……早く逃げろ」


 そう言ったのは、30代くらいの男の人だった。


 素っ裸である。


 捕まっていた人の中には10代から20代の女性も多かったが、大半の人は屈強な男の人だった。


 それらが全員素っ裸なのである。


 あーしはぎりりと奥歯を軋ませた。


 こんな人間を家畜同然に扱うなんてひどすぎる!


 あーしが怒りを露わにしている中、捕まっていた人たちは助けを乞うどころかあーしに早く逃げろと言ってきた。


「君が誰かはわからないが、早くここから逃げるんだ」


「俺たちはここから出られない」


「それにこの村は信じられないだろうが魔物の村なんだ」


「A級探索者の俺たちでも簡単に捕まるほどの凶悪な魔物どもがいるんだ」


「君はあれだろ? 魔物どもが仲間割れしている間にこうやって潜入してきたんだろ?」


 1人の男性の言葉にあーしは「?」を浮かべる。


「仲間割れ?」


「あ、いや、あくまでも俺たちがそう考えているだけかもしれない。奴らは急に仲間同士で争いを始める習性があるんだ」


「もしかすると単にじゃれているのかもしれないが、どちらにせよ屈強で凶悪な魔物たちの考えていることはわからない」


「さっきもそうだ。とんでもない力の激突や悲鳴を感じた。あんなのはこの村に囚われて初めて聞く。きっと異常なことが起こったに違いない」


 うん、その異常はあーしが生み出したんだよ。


「だから君は早く逃げなさい」


 あーしは首を左右に振った。


「逃げないよ。だってここで逃げたら、せっかく魔物を滅ぼしたのにみんなを助けられないじゃん。あーしはこう見えても空手家だよ。弱きを助け、強さを挫き、魔物は滅ぼす。それが最強のパパから学んだ姫川花緒の生き様なんだから」


 えっへん、とあーしは胸を張る。


「ちょっと待て。君は今何と言った?」


 短髪の男性がおそるおそる訊いてくる。


「魔物を倒したって聞こえたんだが……」


 うん、とあーしはうなずいた。


「この村にいた魔物は全部あーしが倒したよ。1匹の残らず」


 20~30人はいた探索者たちが無言になった。


 数秒後、黒髪の女性が再びおそるおそる訊いてくる。


「え~と……この村にはドラゴニュートっていうイレギュラーを超えた人語を話す特別な魔物がいるんだけど」


「ああ、あの喋るトカゲ人間ね。うん、そいつもぶっ倒したよ」


「「「「「「「「「はああああああああああああああ!?」」」」」」」」」


 これには探索者たちも驚きの声を上げた。


「嘘をつくんじゃない! あんな奴を倒せるのはS級探索者の中でも数人だ」


 という意見が次々と上がったので、あーしは「わかった」と答えた。


「証拠を持ってくるから、ちょっと待ってて」


 あーしは振り返ると、ドラゴニュートの残骸が残っているだろう場所へ向かった。


「あった」


 ドラゴニュートの身体はバラバラになっていたが、ちょうど首の部分が残っていた。


 なのであーしは首を拾うと、探索者たちの元へと急いで戻る。


 再び探索者たちから悲鳴に似た声が上がった。


「嘘だろ」


「マジで?」


「そ、そんな馬鹿な」


「き、君は一体何者なんだい?」


「あーしは姫川花緒。駆け出しダンジョン配信者だよ」


 そう言うと、配信画面のコメントから一斉にツッコミが入った。


『駆け出しwwwwwwww』


『同接100万人越えで登録者も100万人目前の配信者のどこが駆け出しなんだよwwwwwwwwwww』


『でも配信始めたばかりだから駆け出しなのは間違ってないんじゃね?』


『まあ、超大型のルーキーということでおk?』


『というか、早くみんなを助けてあげて』


 そんなコメントを見て、あーしは我に返った。


「そうだね。まずはこの人たちを助けないと」


 あーしは柵の中に入ると、全員の首に付いている鎖を見た。


 その鎖は1人1人の首から一ヵ所の支柱に繋がっている。


 本来なら支柱を壊せばいいのだろうが、それだと首輪が取れないので傍目からは奴隷のように見えてしまう。


 そんなのはかわいそうだ。


 あーしは〈光気功〉を発動し、手刀に変えた右手に〈気〉を集中させた。


 キイイイイイイイイイイイン


 あーしの右手がこの世で最高の切れ味のナイフになる。


「き、君も〈光気功〉の使い手なのか?」


「すげえ、こんな研ぎ澄まされた〈気〉の力は見たことがない」


「あったけえ、まるで太陽の光だ」


「女神……そう、この娘はあたしたちを助けにきてくれた女神なのよ」


 恍惚な表情を浮かべ、色々な言葉で褒めてくる探索者たちにあーしは照れる。


 でも、すぐにハッとした。


 いけない、いけない。


 まずはみんなの鎖を切らないと。


 などと思った直後だった。


 上空から凄まじい威圧感と殺気を感じたのだ。


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいい」


「うわああああああああああああああああ」


「ぎゃああああああああああああああああ」


 探索者たちの口から発せられる様々な悲鳴。


 あーしはすぐに上空を見上げる。


 あーしの視界に飛び込んできたのは、ティラノサウルスに巨大な翼をつけたようなギガバーンという翼竜系の魔物だった。



 〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


 最大同接数 156万3000人


 チャンネル登録者数 99万9000人



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