第17話   ギャル空手家VSドラゴニュート、人智を超えた闘い!

 人語を話すドラゴニュートは、疾風のような速さで間合いを詰めてくる。


 そして、あーしの顔面に向かってパンチを繰り出してきた。


 ゴウッ!


 大砲のようなパンチに対して、あーしは真横に跳んで回避した。


「甘いわ、小娘!」


 ドラゴニュートはあーしが躱すのを読んでいたのだろう。


 パンチを躱された直後、丸太のような尻尾で攻撃してきた。


 マズいッ!

 

 あーしはすぐに両手を交差させて防御する!


 ドオオオオオオンッ!


 あーしは完全に防御したものの、そのあまりの威力に数メートルは吹き飛ばされた。


 でも、背中から落ちたりしない。


 空中で身を捻り、両足から地面に着地する。


「ほう」


 ドラゴニュートから感嘆の声が漏れた。


「人間の小娘にしてはやるな。さては貴様……〈覚醒者〉か」


 覚醒者?


 あーしは何のことかわからず首をかしげた。


 一方、ドラゴニュートは「そんなことは構わん」と鼻で笑った。


「貴様が〈覚醒者〉だろうと、魔王さまから与えられたワレはただ使命を果たすのみ」


 ドラゴニュートは大きく足を広げると、右拳を腰だめに構えた。


 その立ち方は空手でいうところの「四股立ち」で、拳の構えは「正拳突き」の構えそのものだった。


 だけど、あーしとドラゴニュートの距離は5メートル以上は離れている。


 そんな距離から何をするつもりなのか。


 と、あーしが思ったときだった。


「食らえ、小娘!」


 ドラゴニュートは四股立ちの構えを崩さず、その場での正拳突きを放った。


「――――ッ!」


 あーしは驚愕した。


 ドラゴニュートの拳から、邪悪な黒い〈気〉の塊が放出されたからだ。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオ


 その黒い〈気〉は大気を切り裂く砲弾となり、あーしに向かって一直線に飛んでくる。


「くっ!」


 あーしは全身全霊で地面を蹴った。


 上空に向かって跳躍したのである。


 その一秒後、あーしの元いた場所を黒い〈気〉の塊が駆け抜けていった。


 ドゴオオオオオオオオオオオオンッ!


 あーしが地面に着地するのと、黒い〈気〉の塊が柵の一部を粉々に破壊したのはほぼ同時だった。


 何て威力なの!


 あーしは爆弾が爆発したあとのようになっている柵を見た。


 え? これって〈光気功〉のあの技じゃ……


 あーしが驚いていると、ドラゴニュートは目を丸くした。


「何という小娘だ。まさか、ワレの魔力による攻撃を躱すとは……」


「ま、魔力!」


 あーしはその言葉を聞くなり、大きく目を見開いた。


「左様、今のは一部の魔族が使える魔力による攻撃――魔砲まほうだ」


 ドラゴニュートが得意気な顔で言う。


 魔法?


 いや、ニュアンス的には魔砲だろうか?


 あーしは首を振った。


 待って待って!


 魔力による攻撃って何?


 もしかして漫画や小説によく出てくるあの魔力のこと?


 魔法を使う根源的な力みたいな?


 だとしたら大変なことだ。


 十数年前、突如世界中に出現したこの魔物たちが蔓延るダンジョン内においても魔法の力は確認されていない。


 それにドラゴニュートはその前に聞き捨てならないことを言った。


 魔王さま云々と。


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、もしかしてこのダンジョンって異世界に通じているの?」


 あーしは戦闘中だというのに、ドラゴニュートにたずねた。


 すると――。


「ガハハハ、よくわかったな。いかにも、この迷宮は魔王さまがいる別世界――アースガルドへと通じているのだ!」


 やはり、そうか。


 そんな噂はちらほらと流れていた。


 ダンジョン内に地球上の世界とは一線を画す魔物が存在しているのは、地球とは別世界――異世界に通じているからだと。


 そして、それが今はっきりと証明された。


 あーしのチャンネルで。


 この〈ギャル空手家・花ちゃんch〉で。


 これは間違いなく全世界初の偉業に違いない。


 などと考えていると、ドラゴニュートの全身を包んでいる〈気〉――いや、魔力だろうか――が爆発的に向上した。


「余興は終わりだ、小娘。今までは2割ほどの力しか出していなかったが、貴様の実力に免じて半分の力を出してやろう。フハハハ、恐怖でおののくがいい」


 なんて言ってきたから、あーしはさっさと終わらせることにした。


 何をって?


 もちろん、この闘いをよ。


「ハアアアアアアアアアアアアアア」


 あーしは気合を入れ、全身の〈光気功〉の威力を5倍まで高めた。


 そして大きく両足を広げ、右拳を脇に引く。


「な、なに! 貴様、その構えは――」


 ドラゴニュートが驚いたが、あーしは気にしない。


 むしろ油断大敵って感じ。


 それに遠距離の攻撃を打てるのはあんただけじゃないのよ!


 あーしは右拳に〈光気功〉の力を一点集中。


 直後、さっきのドラゴニュートと同じ動作をした。


 その場での正拳突きだ。


「――〈千歩神拳せんぽしんけん〉!」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 あーしの右拳から放たれた黄金色の気弾が空気を切り裂き、唖然としていたドラゴニュートに直撃した。


「ぐぎゃああああああああああああああああああ」


 あーしの〈千歩神拳〉をまともに食らったドラゴニュートは、跡形もなく爆裂四散した。


 その爆発によって、まだ息の根が残っていた他の魔物の命も散らしていく。


「ほい、終了。それじゃあ、捕まっていた人たちを解放しに行くよ」


 このあーしの言葉に、配信画面のコメントがピタリと止まった。


 その理由があまりの凄まじさからだったことは、あーしは後から知ったのだった。

 


 

 〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


 最大同接数 126万1000人


 チャンネル登録者数 94万6000人



 








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