第12話   魔人との邂逅、巨体のヴァンパイアとの死闘!

 下層に到着すると、あーしの目の前に異様な光景が飛び込んできた。


 広大な地下ホールが眼前に広がっていたのだ。


 まるで西洋のお城にある巨大なホールのような場所。


 そんな暗がりのホールの中央に、恐るべき存在が立っていた。


 1人の男だった。


 年齢は40ぐらい。


 身長は2メートルを軽々と超えている。


 黒髪のオールバック、彫りの深い厳つい顔に鋭い牙。


 筋骨隆々の体は黒装束に包まれ、黒マントを纏っている。


 その姿は一見してただ者ではないとわかる。


「あれは人間……じゃ、なさそうね」


 男がゆっくりと口を開くと、低く威圧的な声が洞窟内に響き渡った。


「ワガハイは、ヴァンパイア・ロードであ~る。そしてここは薄汚い人間が足を踏み入れてもいい場所ではないのであ~る」


 野太い声に、独特な喋り方。


 一見すると人間に見えるけど、全身から放射されている雰囲気は人間が放つものとは大違いだった。


 あれって魔人かな?


 魔人。


 魔物系の変異種のことをイレギュラーと呼ぶ一方、亜人系の魔物の上位種のことを魔人と呼ぶ。


 巧みに人語を操り、凄まじい身体能力を持つ化け物中の化け物。


 魔人に出会ったら、何かもすべて逃げろというには有名な言葉だった。


 でも、あーしには関係ない。


 あーしの行く手と配信を邪魔する奴は、ぶっ飛ばしちゃうよ!


 そう決意したあーしの背後にはドローンが静かに飛行し、配信が始まっている。


 リスナーたちのコメントが画面に次々と流れる。


『花ちゃん、気をつけて!』


『ヴァンパイア・ロードってヤバそう!』


『がんばれ、花緒ちゃん!』


「ガハハハハハ、ワガハイの存在に恐れをなして言葉も出せんか。だがな、小娘。貴様はもう終わりだ。ここでワガハイに血を吸われて奴隷になるのであ~る」


 ふん、とあーしは鼻を鳴らした。


「奴隷? 冗談言わないで。あーしは最強の空手家。あんたを倒して奥へ進む!」


「よかろう、やってみるであ~る!」


 ヴァンパイア・ロードは不敵な笑みを浮かべ、あーしに向かって一直線に突っ込んでくる。


 その動きは異常に速く、あーしの反応が一瞬遅れた。


「ぐっ!」


 ヴァンパイア・ロードの拳があーしの腹に深くめり込む。


 強烈な衝撃に耐えながら、あーしはその場に踏みとどまる。


「これがヴァンパイア・ロードの……魔人の力か。でも、あーしは負けない!」


 あーしは〈光気功〉を発動させ、身体能力を限界まで引き上げた。


 黄金色の光があーしの体を包み、完全な戦闘態勢に入る。


「なにいいいいいい、それはワガハイたちが最も忌み嫌う聖なる光いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 慌てふためくヴァンパイア・ロードに対し、あーしは黄金色の光をまといながら攻撃を繰り出した。


「――〈千撃拳せんげきけん〉!」


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!


 高速で繰り出される連続正拳突き。


 その拳の乱打がヴァンパイア・ロードの全身にヒットしていく。


「ぐああああああああああああああ」


 ヴァンパイア・ロードの巨体が後方に吹き飛び、壁に叩きつけられた。


 ガハッと血を吐く。


 だが、あーしは臨戦態勢を崩さない。


 なぜなら、ヴァンパイア・ロードの〈気〉がどんどん高まっていたからだ。


「フハハハハハハ、人間にしてはやるのであ~る! ならば、こちらもとっておきを出すのであ~る!」


 次の瞬間、ヴァンパイア・ロードの体が変化し始めた。


「ワガハイの第二形態――真の姿を見せてやるであ~る!」


 ヴァンパイア・ロードの体が巨大な蝙蝠へと変貌したのだ。


 翼を広げ、全身を包む暗黒のオーラが洞窟内に広がる。


「マジ……」


 あーしは独りごちた。


 ヴァンパイア・ロードは人型から、全長3メートルを超える巨大な蝙蝠に変身したのだ。


 そんな巨大な蝙蝠に変身したヴァンパイア・ロードは、あーしに向かって猛烈な勢いで襲いかかってきた。


 鋭い爪があーしの体を引き裂こうとするが、あーしはその攻撃を素早くかわし、反撃のチャンスを狙った。


 これは長引かせたらマズいかもね。


 だったら、とあーしは両足に最大の〈気〉を込めた。


「――〈双竜蹴り〉!」


 叫ぶや否や、空中に飛び上がった。


 そして、ヴァンパイア・ロードの胴体に両足を揃えた状態の蹴りを放つ。


 プロレスで言うところのドロップキックに近い攻撃。


 それが〈双竜蹴り〉だ。


「ぐああああああっ!」


 あーしの〈双竜蹴り〉をまともに食らったヴァンパイア・ロードは悲鳴を上げ、どうと巨体が地面に崩れ落ちた。


 致命傷だったのだろう。


 ヴァンパイア・ロードは大量の血泡を吐きながら、やがて肉体が粉々の黒い砂になった。


「ふう、なかなか手強かったわね。でも、あーしの敵じゃないよ!」


 あーしは微笑むと、リスナーたちに「Vサイン」を見せつける。


 するとリスナーたちのコメントが爆発的に増え、画面は歓喜の声で溢れた。


『すごすぎる!』


『花ちゃん、これからも推します!』


『〈双竜蹴り〉、めっちゃカッコよかった!』


『このまま行けるとろまで行っちゃってください!』


 リスナーたちの応援を背に、あーしの闘志はさらに燃え上がっていた。


「ありがとね、みんな。これからも応援よろしく! あとチャンネル登録と高評価もまだの人もこの機会によろしく!」


 コメント欄にはさらなる応援の声が溢れ、あーしの配信はますます大盛り上がりとなった。


 さあ、どんどんどん行くよ。


 目指せ、最下層!


 目指せ、登録者50万人!


 目指せ、インフルエンサー!


 目指せ、パパを超える究極で最強の空手家!


 っていう建前と一緒にお小遣いもゲットしちゃおう!



〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


 最大同接数 34万2200人


 チャンネル登録者数 38万4000人

 

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