第10話   湖畔エリアの救出劇、助けた相手は荷物持ち!

 湖畔エリアで僕ことカケルは、自分が所属している探索者パーティの後ろで途方に暮れていた。


 今年で15歳。


 B級探索者たちの荷物持ち兼雑用係として、必死に彼らの役に立とうと頑張ってきた。


 だけど、足を怪我してしまったことで事態は一変した。


「おい、カケル。足を怪我した荷物持ちなんていらねえ。てめえは今ここでクビだ」


 リーダーのケンイチさんの冷酷な声が響き渡る。


 ケンイチさんの顔には憤りが浮かんでおり、目には蔑みが見て取れた。


 他のPTメンバーである、ユウゴさんやミコトさんもニヤニヤと笑っている。


 そのとき、僕は心の底から理解した。


 僕はここで置いてけぼりを食らうのだと。


 こんな魔物が大勢いるダンジョンの奥底で。


 当然、僕の心は砕けそうだった。


 彼らに頼られていると思っていたのに、この一瞬で全てが変わってしまった。


 でも、生きることに諦めるわけにはいかない。


 僕は恥なんてすべて捨てて土下座した。


「お願いです。せめて地上までのワープポイントまで連れて行ってください。こんな魔物だらけの場所に置き去りにされたら、死んでしまいます」


 僕は必死に懇願する。


 でも、ケンイチさんは無情にも僕の顔面を蹴り飛ばした。


 僕は鼻血を出しながら後方に倒れる。


「うるせえ、クズ! 荷物持ちができねえ荷物持ちは生きてる価値なんてねえんだよ! そうだろ、みんな!」


「そうよそうよ」とミコトさん。


「うむ、ケンイチの言うとおりだ」とユウゴさん。


 そ、そんな……


 僕は絶望に打ちひしがれ、この世の理不尽に、そして自分の弱さを嘆いた。


 そのときだった。


「ねえ、何してるの?」


 僕の視界に異常な姿の少女が現れた。


 瞬きすら惜しいほどの美形の少女。


 綺麗に染めた金髪をポニーテールにして、肌もやや黒く焼けている。


 明らかにギャルだった。


 ダンジョンの奥にギャルがいることでも異常だったが、顔立ちよりも目立っていたのは服装だった。


 純白の空手着を着ているのだ。


 まさか、最近配信者の中で流行っているコスプレ配信者なのだろうか。


「何だ、このギャルは?」


 ケンイチさんも訝しんだ顔で言う。


「ねえ、こいつコスプレ配信者じゃない」とミコトさん。


「まったく、最近のダンジョン内はこんな奴らばかりだ。俺たちのように純粋にダンジョンを攻略しようとする探索者が減り、ただ再生回数で金を稼ぎたい配信者が多くなった。しかも大した実力もないくせにバズろうと躍起になる、コスプレ配信者なんて輩が増える始末。まったく嘆かわしい」とユウゴさん。

 

 チッ、とケンイチさんが舌打ちする。


「コスプレ配信者なんぞに用はねえ。さっさと消え失せろ。それとも迷子になったのか? おい、金髪ギャル。何だったら俺がワープポイントまで連れて行ってやろうか。もちろん、それなりの礼はしてもらうがな」


「きゃははは、身体で払えって言うんでしょう。このスケベ」とミコトさんが高笑いする。


「お前も好き者だな、ケンイチ。ギャルなんぞどんな性病を持っているかわからんぞ」とユゴさんもひどいことを言う。


 ああ、こんなこと言われたら傷つくだろうな。


 なんていう僕の予想は一瞬で打ち消された。


 そう、文字通り一瞬だった。


 金髪ギャルさんはニコリと微笑み、「あんたら地獄逝き」と告げた直後、フッと身体が消えたのだ。


 いや、消えたと錯覚したぐらいの速度で動いたのだ。


 そして金髪ギャルさんの影がケンイチさん、ミコトさん、ユウゴさんの身体の前を通り過ぎたと思ったら、すぐに3人はその場に倒れた。


 僕がポカンと口を開けて3人を見ると、全員が泡を吹いて気絶していた。


 え? まさか、あの一瞬で3人を倒したの?


「そうだよ」


 金髪ギャルさんは僕の心を読んだように答えた。


「君は荷物持ちくんか……かわいそうに怪我してるね」


 金髪ギャルさんは僕に近づいてくると、怪我をしていた足に右手を添える。


 そして――。


「痛いの痛いの飛んでいけ」


 金髪ギャルさんがそう言うと、僕の怪我した足がカイロを当てられたように暖かくなった。


 続いて僕は驚愕した。


「な、治ってる」


 僕の足はいつの間にか完治していたのだ。


「うん、これでもう大丈夫だよ。あとはワープポイントまで行けるでしょ」


 僕は気を失っている3人を見回した。


「え~と……他の人たちは」


「ああ、あいつら? 別にこのまま置き去りでいいっしょ? だってあいつらも君を見捨てようとしていたんだから自業自得。ここは生死が懸かったダンジョンなんだから」


 そう言うと、金髪ギャルさんは「じゃあね」とダンジョンのさらに奥へ歩いていく。


「待ってください! せめてお名前を――」


 金髪ギャルさんは顔だけを振り向かせた。


「あーしの名前は姫川花緒。〈ギャル空手家・花ちゃんch〉のアカウントでダンジョン配信してるから、地上に戻ったらチャンネル登録してね❤」


 それだけ告げて、金髪ギャルさんはドローンを連れて遠ざかっていく。


 どうやら、これから配信をするつもりらしい。


 僕はそんな彼女の背中を見つめながら、カッコイイといつまでも思っていた。


 

 このとき、花緒が助けた荷物持ち――カケルは、花緒の〈光気功〉で怪我が治ったことをキッカケに秘められた力が覚醒。


 多くの魔物を倒す探索者となり、多種多様な美人たちを仲間に加えて数年後に探索者ギルドでも一目置かれる存在となる。


 だが、それはまた別のお話。



〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


 最大同接数 11万4100人


 チャンネル登録者数 16万7000人



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