第8話   美少女インフルエンサー、レイカのピンチ!

 私ことレイカは、チャンネル登録者数100万人を誇るA級ダンジョン配信者だ。


 今年で16歳。


 探索者専門学校のAクラスであり、お父様が迷宮庁の長官。


 そのため、私はプロの探索者から特別な力を学んでいる。


〈光気功〉。


 天賦の才を持つ者でなければ会得できない神の力である。


 そんな私は、今日はサポーターのエミリーと一緒にオーガ討伐にやってきた。


 しかし、とんだドジを踏んでしまった。


 オーガの生息地である鉱山エリアに足を踏み入れた直後、誤って転んで足を挫いてしまったのだ。


「レイカさま、大丈夫ですか?」


 私のそばでエミリーがあたふたしている。


 栗色の長髪である私と違って、彼女は綺麗な銀髪をしている。


 当然ながら日本人ではない。


 それはさておき。


「何とか……ごめんね、エミリー。申し訳ないけど、〈光気功〉を使って治癒力を強化してくれない? ほら、私は攻撃系は得意なんだけど、治癒系は不得意だから」


「承知しました。ですが、私の〈光気功〉もそんなに強くありません。治癒するまでそれなりの時間がかかりますが……」


「じゃあ、その間は配信で場を繋いでおくわ」


 私は配信をスタートさせた。


 同時に大切なリスナーたちに事情を説明する。


『全然大丈夫だよ』


『別に無理して配信しなくてもいいんだぜ』


『命大事にだよ』


 などという心温まるコメントが流れていく。


「本当にゴメンね、みんな。すぐに治したらオーガを倒す配信をするから」


 と、私が告げようとした直後だった。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォ!


 突然、鉱山の陰から巨大なオーガが姿を現した。


 その恐ろしい姿に、私たちの心臓は凍りついた。


 オーガは4メートルを超える巨体を持ち、筋骨隆々の体つきと鋭い牙が恐怖を煽る。


「レイカ様、危険です! 退避を!」


 エミリーの声が必死に響くが、すでにオーガの群れは私たちを包囲していた。


「こんな……ここで終わるなんて……」


 私たちは一気に絶体絶命のピンチに陥った。


 間違いない。


 ここで私たちはオーガに凌辱され、最後には殺されて食べられてしまうんだ。


「エミリー、あなただけでも逃げて……」


 私は自分を囮にエミリーだけでも逃がそうとした。


 足を怪我している私と違い、エミリーは無傷である。


 必死に走りればエミリーだけでも生き残れる可能性は高い。


「嫌です。お嬢さま、死ぬときは一緒でございますよ」


 エミリーは私を見捨てることなく、最後まで私を守ろうとしてくれた。


 その姿に胸が熱くなるが、もう手遅れだ。


 オーガの一匹が巨大な斧を振り下ろし、私たちに振り下ろそうとする。


 その瞬間――


「あれ? もしかしてピンチに遭遇しちゃった? じゃあ、助けなくちゃね」


 突然、金髪のポニーテールをなびかせた少女が現れた。


 空手着を着たその姿は一見受け狙いのコスプレ配信者に見えたが、その瞳には鋭い光が宿っていた。


「誰? こ、こんなところに……」


 私は驚きと共に彼女を見つめた。


 次の瞬間、私は彼女の動きに目を奪われた。


「ハアアアアアアアア!」


 金髪ギャルは驚異的なスピードでオーガに接近し、強烈な蹴りを繰り出した。


 その一撃でオーガの巨体が吹き飛ぶ。


 私の目が信じられない光景を見ていた。


「あ、あれは……〈光気功〉!」


 どうして金髪ギャルが〈光気功〉を使えるのだろう。


 あれはAクラスになった生徒だけにプロの探索者から伝授される、表向きには隠された特殊な力なのに。


 私の疑問に構わず、金髪ギャルは次々とオーガを倒していく。


 その動きはまるで舞いのようであり、彼女の拳や足がオーガの硬い体を簡単に砕いていく様子に私は息を呑んだ。


「これが……〈光気功〉を使った本物の闘い」


 私が口を震わせながらつぶやいたときだった。


 金髪ギャルの腰だめに構えた右拳が、小型の太陽を想起させる黄金色の光に包まれていく。


 その光はまるで生命を育む朝日のようであり、〈光気功〉という未知の力が金髪ギャルの全身から溢れ出ていた。


「せいや!」


 気合一閃。


 金髪ギャルの渾身の一撃が、最後のオーガを打ち砕いた。


 その光景に私は完全に心を奪われてしまった。


「ふう……準備運動、終わりっと。あなたたちもダンジョン配信者みたいだけど、ダメだよ。素人がこんな深いエリアまで来たら」


 金髪ギャルの声がレイカのリスナーたちに響き渡る。


『こいつ誰だよ!!!!』


『オーガの群れをソロで素手で倒しやがった!』


『バケモンじゃん!!』


『あ、知ってる。こいつ、今噂になっているギャル空手家だ』


『名前は花ちゃんchだったはず』


 私はコメントを見ると、金髪ギャルに「あの」と声をかけた。


 金髪ギャルが振り返る。


「助けてくださってありがとうございました。私の名前はレイカ。こちらはサポーターのエミリ―です」


 エミリーも深々と頭を下げる。


「そ、それで何かお礼を……」


「お礼? そんなものいらない」


 てっきり大金を要求してくると思った私は、壮大な肩透かしを食らった。


 エミリーが追撃する。


「何でもよろしいのですよ。このレイカさまは将来は迷宮庁の長官になられるお方。恩を売っておいて損はありませんよ」


 それでもギャル空手家は首を左右に振った。


「だからいらないって。怪我した人を助けるのは、空手家として当然のことだから」


 じゃあね、と金髪ギャルは笑顔で手を振りながら遠ざかっていく。


 私とエミリーは呆然とその場に残された。



〈ギャル空手家・花ちゃんch〉


 最大同接数 6万5000人


 チャンネル登録者数 10万2000人

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