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ヤムヤムは青子を店内に連れ込むと、カーテン付きのソファー席につかせた。
ベルベットの紫のソファーは座り心地が良くて、横になったら眠ってしまいそうだ。
「ねえ、私そんなに手持ちがないんだけど」
「大丈夫、大丈夫。私の社割利かせとくから!」
青子は取り合えずヤムヤムの進めるお茶だけ頼んだ。
ヤムヤムがお盆でお茶のセットを持ってくる。
「パオは私の驕りよ」
「ありがとう」
ヤムヤムが私の目の前にガラスのティーポットを置いた。
ティーポットの中で丸かった塊が開いて美しい花が現われる。
「わあ、素敵ね」
「うふふ、中国産だよ」
ヤムヤムは嬉しそうに微笑むと、私の隣に腰かけた。
「普段も、お客さんの隣に座ってるの?」
「今日だけ、今日だけ」
ヤムヤムは楽し気に足を組んで笑った。
店内では店員が、きちんとお茶の種類の説明などをしている。
メイドカフェの要素はあるけれど、高い分お客様のテリトリーを広く作っていてゆっくり寛げる空間になっているようだ。
「先生さっき、隣の占い師のとこで叫んでたでしょ」
ヤムヤムが楽しそうに笑った。
「う、聞かれてたのか」
「私調度、休憩から戻るところで先生見えた。トイレの入り口で隠れて様子伺ってたよ」
「あはは、そうだったんだ」
私は笑いながらお茶に口をつけた。
「先生凄いね! あそこの占い師、めっちゃはっきりモノ言うからみんな怖がるのに。あんな風に言い返すなんて」
「あまり見習っては欲しくないわね」
青子は占い師に言われたことを思い返していた。
確かに、青子は占い師の言った通り、自分の判断でヤムヤムが学校に来なかったことを悪いことだと判断し、そして嫌なことから逃げることが、おかしいことの様にも言った。
それは勿論、ヤムヤムが成績が良く、みんなとも仲良くできる素晴らしい生徒だから、途中で希望を逃してほしくなくて、そう言ったのだが、どこにいて、どうしたいかはヤムヤムが決めるべきだし、成績の良い生徒を失いたくないという打算も、確かに自分の中にあったのだ。
「最初、私、日本で他の中国人も住める場所作ろうと思った。でも学校でもやる気のある子、ない子まちまち、国に帰りたくて勉強進まない子もいる。私元気に振る舞って、勉強手伝う出来ても、その子の成績は上げられない‥‥‥」
「‥‥‥友達の代わりにダイエットしても、自分が痩せるだけで相手は痩せないもんね」
「ぷっ、ふふふ! 先生本当に話し上手いよね! 先生の授業は本当に好きで楽しかったよ!」
ヤムヤムが楽しいでなく、楽しかったと言ったことに、青子は少し切なくなった。
「日本語で困ったことがあったら教えるから、連絡頂戴ね」
青子はヤムヤムに自分の連絡先と住所を教えた。
翌日、ヤムヤムが学校をやめたことは、やはり職員会議で議題になった。
「優等生に疲れちゃったんですかね」
そういったのは教員代表の大草だった。
青子は大草の言い草に、あからさまにむっとしてしまった。
そして、青子は怒りを抑えるのに集中し気が付いていなかったが、その議題の席にいた全員が、言葉に出来ない胸のうちのモヤを音もなく膨らませていた。
数日後、校長の山本が駅で倒れ、病院に搬送されたと学校に連絡が入った。
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