第4話 立場と執筆と

「なんだ、お前この企画書は! 一体、入社何年目なんだ!」

 朝の事務所に怒号が飛ぶ。来月開催されるイベントの企画書を提出したらこのざまだ。俺だって書きたくて、書いたわけではない。隣の部署を意識した、うちの部長からの指示で作成したまでだ。

「ったく、大学出とは言ってもこの程度じゃ、この先ないだろうなぁ」

 俺は、突き返された企画書を黙って握りしめ、黙って専務に頭を下げた。

「くそぅ……。俺は、お前より社会に、読者に必要とされているんだぞ……。」

 俺はそう心の中で呟く。


 電子書籍の販促するには、SNSを利用して発信していくのが定石のようだ。早速スマホにSNSをダウンロードし、運用を開始した。30歳を過ぎたオッサンが、SNSなんて我ながら気持ち悪いと思う。SNSといえば、10代、20代のキラキラした連中が、「映え」だの言いながら使っているものだと思っていた。

 だが、全く違った。SNS上には電子書籍作家が多く、発信をしていた。彼らの電子書籍のジャンルはさまざまで、小説、ノウハウ、メンタル、スピリチュアルなど。書店に並んでも遜色ない文章力の作家から、駆け出しの作家までが発信、交流をしている。

 SNSの世界では、電子書籍作家に優劣がある。それは年齢によるものでも、継続年数でもない。作品の強さ、質である。作品や本の質が良ければ評価される。完全なる実力主義世界。

「なんだ?この世界は……。こんな世界があっていいのだろうか……」

 一瞬で俺は、この世界に心を奪われ、そしてのめり込んでいった。


 SNSの効果により俺の書籍が一層読まれるようになった。それに合わせて多くの時間を割くようになっていた。できうる限り多くの電子書籍作家と交流をし、オフ会などにも参加する。あっという間に時の人となった俺は、SNS上でその挙動が注目される。ちょっとした芸能人のような扱いだ。


 電子書籍の売り上げは毎月のように上がっていく。本業の給料だけでなく、副収入があることで家族に余裕が生まれる。SNS上の期待もあり、次の作品の執筆をしなければならない。

 俺は、俺だけのソンザイではなくなってきていた。

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