第2話 出会いと全力と

 家に帰るなり埃をかぶっていたノートPCを引っ張り出す。立ち上げ、OSの更新をかける。気持が昂る。こんなにも興奮したのは、いつ以来だろうか?

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 壮馬のスマホには、一冊の本が表示されていた。そこには「著者:壮馬」とあった。どうやら電子書籍というモノらしい。本来、書籍を出すためには、出版社を通して行うものである。しかし、この電子書籍は、個人で出版が可能なのだ。しかも無料で。更に、読まれれば印税もいただけるという。

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 PCの準備ができた。早速、文章作成ソフトを立ち上げる。

 高校時代、国語の成績は最底辺だった自分が、文章を、本を書こうとしている。

 俺は、これがしたかったのかもしれない……。


 電子書籍の執筆から出版まで、時間はかからなかった。もちろん愚痴や文句の類をつらつらと書いた訳ではない。ビジネスマインド、そして人生観を多く入れ込むことで俺のビジネス論のような一冊となった。


 世の中には、多くのビジネス書籍が並んでいる。資料の作り方から、会議の進め方、上司のおだて方など、さまざまだ。でも、俺はなんか「違う」と感じていた。結局は、著者の成功の「一事例」なのだ。また、ビジネス書は、文章が無味無臭。個人で出版できる電子書籍だからこそ、俺は、「仕事の仕方、生き方、考え方、体験談」をこの一冊に盛り込んだ。「俺は、ここにいるんだ!」と叫ぶように。


 俺の出した書籍が読まれている。電子書籍は手に取りやすく、一般書籍と比べ、比較的安価で手に入る。平凡なサラリーマンだった俺が、副業として電子書籍作家になる。給料の運び人だった俺が、本業とは別の収入を生み出す。何ということか。こんなにもまだ、自分であることを諦めなくてもいい世界があるとは……。


 オモシロイ……。

 俺は、ここにきてようやく、俺になり始めたのかもしれない。

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