第5話

「ああ、僕も同じことを考えていたんだ。しかもその原因がわからないから、困っているんだよね..............。」という彼の言葉を聞いた私は、もしかしたら2人はもう事情を知っているのではないかと思ってしまったが、それを口に出す勇気はなかった。


そしてその日の授業が終わり、帰る時間になった時のことだったーー突然校内放送で、レオンの名前が呼ばれたのである...............!

突然のことに、私たちは驚いて顔を見合わせたのだが、すぐにアルフェッカの方が先に動き出し、教室を飛び出して行ってしまったので、私とクロネッカーも慌てて追いかけることにした。

私たちが着いた時には、すでにレオンは呼び出されていたようで、そこに立っていたのは彼を担当する女性教師の姿もあった。

「皆、来てくれたのか」と言わんげに嬉しそうな表情を浮かべている彼に向かって、私たちは駆け寄ったのだが、女性教師はそれに気づいた瞬間、険しい表情で睨みつけてきたのである。


「君たち、今すぐにここから出て行きなさい。..............これは、レオンのために言っているんだ。」と言って怒鳴りつけてきたのだが、私たちにはさっぱり理解できなかったため、呆然としていると、彼女はさらにこう続けた。

「いいから、早く出て行きなさい。」と言って、強引に追い出しにかかる彼女に対して、私たちは抵抗することもできずに、言われるがままに廊下に出るしかなかった。

そしてそのまま3人で歩いていると、ふとアルフェッカが立ち止まったため、私もそれに倣い立ち止まったのだが、彼女はとても険しそうな表情を浮かべており、私は心配になって声をかけた。


「アルフェッカ、大丈夫.............?」

恐る恐る声をかけてみると、彼女はゆっくりと口を開いた。


「ねえリジー、もしもよ?もしもだけれど............レオン様が、何らかの事情であの教師に脅されていたら............。」

彼女の言葉に私は思わず息を吞んだ。なぜなら、アルフェッカが言いたい事が理解できたからだ。

「.............だ、だけどどうしてそう思うの?」と私が問いかけると、彼女はこう言った。

「だって最近のレオン様の行動は、明らかにおかしいでしょう?それにここ数日はあの教師と一緒に行動している姿も見られているし............もしも、レオン様があの教師に脅されているのなら、私たちで助けてあげないといけないと思うの。」

そう言い切った彼女の顔には、強い決意の色が浮かんでいた。

クロネッカーもうんうんと頷き、このことに賛成であるみたいだ。


そう考えた私は、すぐに覚悟を決めた。

「...............アルフェッカの言う通りだわ!」と言って、彼女の手を取ると、私たちは職員室へと足を向けたのだが、そこに辿り着く前にレオンの声が聞こえてきたために、慌てて物陰に隠れた。

すると、聞こえてきた会話の内容から察するに、どうやらあの女性教師に呼び出されたようで、何やら話し込んでいる様子だったが、しばらくするとレオンの方が頭を下げていた。

それを見た私は、驚きを隠せなかったのだが、その一方でアルフェッカは怒りに満ちた表情を浮かべており、今にも飛び出していこうとする勢いだった。

そんなアルフェッカを必死に宥めつつ、今はその時ではないと言い聞かせると、彼女は落ち着きを取り戻してくれたようだった。


その後、しばらくの間2人の会話を聞いていたのだが、その内容が衝撃的なものであることを知り、私たちは息を呑んだのである..............。

そして、全てを話し終えたレオンが立ち去った後、私とアルフェッカとクロネッカーは、その場に立ち尽くしていた。

しばらく沈黙が続いた後で、最初に口を開いたのは意外にもアルフェッカの方であった。

「リジー.............私はこれからどうしたらいいのでしょう............このままでは、レオン様があの教師にいいようにされてしまうわ.............!」


という彼女の悲痛な叫びに対して、私は何も言えずに黙り込んでしまった。

しかししばらくすると、アルフェッカは意を決したように立ち上がり、真剣な眼差しでこちらを見つめながらこう言った。

「お願いです、2人とも..........力を貸してください.............!」そんな彼女の言葉に私とクロネッカーは迷わず頷くと、彼女もまた嬉しそうに微笑んでくれたーー。


そして3人で職員室の扉の前に立つと、中の様子を探るために聞き耳を立てることにしたのだが、その時中から突然、レオンの声が聞こえてきたのである。

驚いた私たちは、慌てて扉から離れたが、その直後に扉が開き、中から女性教師が出てきたため、私たちは再び物陰に身を潜める羽目になってしまったのだが、それと同時に私はあることに気づいていた.............。

それは、あのレオンが涙を流していたことに気付いてしまったのだーー。


(えっ............!?どうして..........?何があったの!?)

不思議に思った私が困惑していると、女性教師はレオンに向かって「大丈夫ですか?」と声をかけつつ、ハンカチを差し出すのだが、彼はそれに対して首を横に振りながら断る仕草を見せた後に、立ち去って行ってしまったようだった。

それを見た女性教師は不思議そうに首を傾げた後、職員室の中へ戻って行ったため私たちは静かにその場から離れたのだった............。

次の日からしばらくの間、私たちは2人の様子を遠くから見守ることにしたのだが、特に変わった様子はなくいつも通りの生活を送っているように見えた。

しかし、その間も私はずっとレオンのことが気になっていたため、思い切ってアルフェッカに相談してみることにした。


「ねえ、アルフェッカ............どうしてレオンはあの女性教師と話していたのかしら?2人は以前は普段からあんまり関係が無いし...........もしかしたら、何か弱みを握られているのかしら..............?」と私が不安そうに言うと、彼女もまた暗い表情を浮かべながら答えた。

「確かにそれはあり得るかもしれないわね...........でも現時点では、まだはっきりとしたことはわからないし、下手に動くことができないのよ.............。」それを聞いたクロネッカーも、同意見のようである。

私はますます不安になってしまうと同時に、レオンを助けてあげたいという気持ちが強くなるのを感じていた。


それからしばらくの間は様子見を続けていたのだが、ある日のことーー。

レオンと女性教師が、2人で行動している姿を目撃したことで、遂に私たちは本格的に動き出すことを決めたのである。

その日を境に、私とアルフェッカは学校の至る所で2人の後をつけるようになり、その行動を監視し続けていたのだが、なかなか決定的な場面を目撃することができず時間が経っていくばかりだった.............。


「アルフェッカ............私、もう我慢できないわ!今すぐにでも問い詰めるべきよ!」

ある日、ついに我慢の限界を迎えた私は、アルフェッカに向かってそう訴えると、彼女もまた同じ気持ちだったようで、真剣な表情で頷いてくれた。

クロネッカーはその日用事があるために一緒に来れなかったので、2人で職員室へ行くことにしたのだが、扉の前まで来ると中から話し声が聞こえてくることに気づいたため、私たちはその場で聞き耳を立てて様子を伺うことにした。


しかし、同時に彼女が私のことを本気で心配してくれているということも痛いほど伝わってきていたため、私も真剣に向き合う必要があるのだと感じていたのである。

そして、私はアルフェッカに向かって深々と頭を下げると、心からの謝罪の言葉を口にした。

「ごめんなさい.............!私は自分のことしか考えてなかったみたい。.............でも、これからはちゃんと自分の気持ちに向き合って行動していくわ!だから、許してもらえるかしら?」と言って恐る恐る顔を上げるとーー彼女は嬉しそうな表情を浮かべて、微笑んでくれていたのである。

それを見た私もホッと胸を撫で下ろすと、改めて感謝の気持ちを伝えることにした。

「ありがとう、アルフェッカ。あなたのおかげで決心がついたわ.............!」

それからしばらくの間、私たちは屋上で色々な話をしたり、一緒にお弁当を食べたりして楽しい時間を過ごしたのだった。

そして帰り際に、アルフェッカが私に告げた言葉に対して私が言葉を返すと、彼女は満足そうに頷いてくれた後で去って行ったのである。

「リジー、あなたの想いが届くことを祈っているわ!」と言って。

それから私は、意を決してレオンの元へ向かったのだが、途中で何度も辛くて挫折しそうになってしまったものの、何とか気持ちを奮い立たせながら、目的地に到着したのである。

するとそこには既にレオンの姿があったため、私は深呼吸をしてから一歩ずつ近づいて行った。

そして覚悟を決めて口を開いたのだが、その瞬間に私の心臓は大きく跳ね上がった。

なぜなら、私を見つめる彼の眼差しがあまりにも真剣だったからである..............。

その目を見た瞬間、私の胸は締め付けられるような思いに襲われた。

しかし、ここで怯むわけにはいかないと思い直した私は、勇気を振り絞って彼に自分の気持ちを伝えることにした。

「レオン............、私は.........」

私が話を切り出そうとしたら、レオンの声で遮られた。

そして勢いよく、謝罪の言葉が飛んできたのである。

「リジー、ごめん!!誤解させちゃったよね.............?」

とレオンが慌てた様子で言ってきたので、私は驚いてしまった。

「えっ.............?」と言って呆然としていると、彼は続けて言った。

「実はね、あの人とは何でもないよ。ただ相談に乗ってもらっていただけなんだ。」

その言葉に、私は更に驚いた。

まさか、レオンの口からちゃんとした言葉を聞くことになるとは思っていなかったからだ。

だが、それと同時に安堵している自分がいることに気付いてしまった瞬間、恥ずかしくなってしまったため思わず顔を背けてしまったのである。

そんな私の様子を見たレオンは、不安そうな表情を浮かべながら尋ねてきたので、慌てて否定すると、何とかその場を取り繕うことに成功したようだ。

それからしばらくしてから、レオンが再び口を開くと、今度は真剣な口調で語り始めた。

「...............リジー、実は君に伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるかな?」

それを聞いた私は、緊張のあまり胸が高鳴ってしまう。

そして同時に、不安にも襲われ始めてしまった............。

一体どんな内容なのか?もしかして、別れ話を切り出されるのではないだろうか..............?そんな考えばかりが頭の中を駆け巡り始めてしまうと、怖くなってしまった私は思わず黙り込んでしまったのだが、それでも彼の言葉を聞き逃すまいと必死に耳を澄ませた。

彼は話を続けた。

「今は引き継ぎとかが忙しくて、中々時間がとれなくてごめんね。でもリジー、君を好きなことは変わらない。学園を卒業したら、結婚も考えている。」

その言葉を聞いた瞬間、私の目から涙が溢れ出した。

そしてそれと同時に、心の底から喜びが込み上げてくるのを感じた............。

この数年間ずっと胸に秘めていた想いが、ようやく叶ったのだと実感した私は、感動に打ち震えながらも、何とか彼に言葉を返すことができた。

「ありがとう...........!私も同じ気持ちよ.........!」

そして私はレオンの胸に飛び込んだのである。

そして、そのまま彼に抱きしめられると幸せを感じずにはいられなかった。

それからしばらくの間、私たちは抱き合っていたのだが、ふと冷静になった時に自分の行動に恥ずかしくなった私が、慌てて離れようとしたのだが、彼はそれを許してくれなかった。

それどころか逆に強く抱きしめられた上に、愛の告白をしてくれたのである。


「リジー、好きだよ。」

それを聞いた私は顔が真っ赤になってしまったが、それでも何とか返事を返すことができた。

「わ、私も好きよ!」

すると彼は嬉しそうに微笑むと、私の頬にキスをしてきたので、私は驚きながらも受け入れることにした。

こうして私たちは、お互いの想いを再認識した上で新たな一歩を踏み出したのだった。

..................この先どんな困難があっても、きっと乗り越えられるだろうと確信した私達は幸せな気持ちでいっぱいになった。


「リジー、君を愛している。これからもずっと僕の側にいてほしい。」レオンはそう言うと、再び私のことを抱きしめた。

そして私もそれに応えるようにして、彼の背中に腕を回した。

すると彼は更に強くぎゅっと抱きしめてきたので、少し苦しいくらいだった。

しかし、それでも私は嬉しかった。

なぜなら、愛する人お同じ気持ちだという実感を得られることができたからだ。

だから私は精一杯の愛情を込めて彼に抱きついていたのだがーー次の瞬間には意識が遠のいていくのを感じたのである。

(あれ................?)私の身体はまるで力が抜けてしまったかのように崩れ落ちかけたのだが、それをレオンが支えてくれたことで、何とか倒れずに済んだようだ。

しかし、それでも身体の自由は完全に効かなくなってしまい、呼吸するのもやっとの状態だったため私は動揺してしまった。

レオンはそんな私のことを見て焦っていたようだが、私は何も言えずにただ呼吸をするのが精一杯だったのだ。

やがて意識が薄れゆく中ーー私の脳裏に浮かんだのは、走馬灯のように思い出される記憶の数々であり、その全てがレオンとの思い出だったことに気付いた私は、何とも言えない気分になっていた。

そして最後に思い浮かんだのは、レオンと過ごした幸せな日々の数々や、彼と交わした約束の記憶ばかりだったため、それらを思い出す度に涙が溢れ出てきて、止まらなくなってしまったのである..........。だがそれと同時に、心の中で決意を固めた私は、最後の力を振り絞って口を開いた。

すると掠れた声ではあったが、何とか言葉を紡ぎ出すことに成功したのである。

その言葉を聞いたレオンはハッとした表情を浮かべた後で、泣きそうな顔になりながらも頷いてくれた。

そして私を抱きしめて言ったのである。

「リジー...............、僕もだ!僕も君を愛している..............!」彼の声を聞いた瞬間、私は心の底から幸せを感じていた。

そして彼が私に対して抱いている愛情が本物であることを、再確認することができて嬉しく思っていたのだが、その時突然意識が遠のいていき始めたことに気付いた私は、必死に抗おうと努力したものの、結局無駄に終わったようだった.............。

こうして私は深い眠りについたのだが、最後に聞こえた言葉は愛する人の優しい声音だった。

「おやすみ、リジー............良い夢を............。」

その言葉を耳にした瞬間、私は安心して眠りにつくことができたのであったーー。

レオンとの幸せな時間を過ごすことができたことで満足した私は、微笑みながら目を瞑るのだった。

そして夢の中でも、愛する人と出会えることを願って意識を手放したのである。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌朝、目が覚めると隣にはレオンの姿があった。

................どうやらずっと側にいてくれたようだ。


あの後、私は重度の寝不足だと医師に診断されたらしく、ずっと眠りについたまま起きなかったようだ。

ただ、レオンが隣にいることに幸せを感じた私は、思わず笑みを零すと、彼もまた微笑み返してくれたのである。

その後はいつも通りの日常を過ごしていたのだが、一つだけ違うことがあった。

それは、レオンが常に私と一緒に居てくれるようになったことだ。

彼は今まで以上に私に優しく接してくれるようになり、また愛情表現も増えたように思う。

そんな日々が続く中で、私は本当に幸せを感じていたのだがーーそんなある日のこと、私はいつものように部屋でくつろいでいると、不意に扉がノックされた。

そして私が返事を返す前に、扉が開かれて誰かが入ってきたのである。

その人物を見て驚いた私は声を失ってしまった.............何故なら、そこに立っていた人物は私がよく知っている人物だったからだ。


「..............お、お父様!?」

そう、そこにいたのは私の父だったのである。

「リジー、久しぶりじゃないか!元気にしていたかい?最近はずっと会えなかったから、心配していたんだよ.............。」

父はそう言うと私のことを抱きしめてくれたが、私は驚きのあまり固まってしまっていた。

まさか父がここに来るとは思ってもみなかったからだ。

(ど、どうしてお父様がここに.............?)

そんなことを考えていると今度は母が部屋に入ってきたのである。

「あら?あなた、こんなところで何をしてるの?」母は怪訝そうな表情で父に問いかけた。

すると父は慌てた様子で言い訳を始めたのだ。

「あ、いや...........その.............、リジーに会えて嬉しすぎてつい..........」

それを聞いた母は呆れたような表情を浮かべて言った。

「はぁ............あなたねぇ、全くもう...........」

しかし、その後で母は私に向けて優しい声音で話しかけてくれたのである。

「ごめんね、リジー。驚かせてしまったでしょう?」私は驚きの余り声が出なかった。

すると、その様子を見た父が嬉しそうに笑っていたのだが、それを見た母が呆れたように溜息を零していた。

この2人、やっぱり仲良しなのは変わらないなぁ...............。そんなことをしみじみと思っていた。

だが、やがて父が真剣な表情になると、私に向かって話しかけてきたのである。


ーーその内容というものが、凄く衝撃的だったのだ。

「リジー..............実は、君に大事な話があるんだ.............。」

その言葉を聞いた私は、嫌な予感がして冷や汗を流してしまっていたのだが、それと同時に不安や恐怖といった感情が込み上げてきて、胸が苦しくなるような感覚に襲われていた。

だが、それでも私は逃げずに最後まで話を聞く覚悟を決めたのだった。

そして父が話を始めた..............その内容とは、私が予想していなかった驚きの内容だったのである。

それはーー私の婚約者が決まったという知らせだったのだ。

それを聞いた瞬間、私は頭の中が真っ白になってしまった............。

何故なら、私はレオンとの婚約を約束した。

それなのに、別の男性との結婚話を出されるとは思ってもみなかったからだ。

驚きのあまり何も言えずにいると、今度は母が口を開いた。

「ごめんなさいね、リジー............。でも、あなたにとっても悪い話ではないと思うわ.............!」

そう言って母は微笑んだのだが、私は混乱していて返事をすることができなかったのである。

すると今度は父が口を開いた。

「ああ、そうだとも!お相手の男性は、すごく気さくでお優しい方だった。素晴らしいことじゃないか!」私は父の言葉に頭がおかしくなりそうになったが、何とか堪えることができたようだった............しかし、それでも納得できないという気持ちが強くなってきたため私は反論しようとしたのだが、その言葉を遮るようにして父が口を開いた。

そして真剣な口調で話し始めたのである。

その内容というのが、またもや衝撃的なものだった!

なんとお相手方から打診があり、本気であるということ................そして、今度私と話をしてみたいというものであった。

私はそれを聞いた瞬間、頭の中が真っ白になってしまったかのような感覚に陥った。

レオンとの婚約が破談になるだけではなく、他の男性と結婚させられるかもしれないという事実を、受け入れられないという思いが強かったからである.............。

だが、それでも父の言葉を否定することはできなかったため、渋々了承することになったのである。

そして、その後は話し合いが行われることになったのだが、その時の私はほとんど上の空状態であり、会話の内容など全く頭に入ってこなかったのであった。


そして話し合いが終わると、私は自室に閉じ籠もることにしたのだ。

レオン以外の男性と結婚させられるという現実を、直視することが辛かったからである。

私はベッドの上で泣き崩れると、ひたすら嗚咽を漏らすことしか出来なかった。

悲しみが込み上げてきたために、涙が溢れ出てきてしまった.............。

本当はレオンと結婚したい、だがそれは叶わない願いなのだろうかーー。


それから、しばらくの間泣き続けていたのだが、やがて涙も枯れてしまったのか、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

だが、それでも胸の痛みや喪失感が消えることは無かったため、私はただ呆然としながら窓の外を眺めていた。

そんな時、ふいに扉をノックする音が聞こえてきたことで我に返ると、慌てて涙を拭い去り平静を装ったのである。

そして返事をすると、扉がゆっくりと開かれてレオンが部屋に入って来たのである。

(どうして彼がここに.............?)突然の訪問に戸惑いながらも、何とか平静を装って彼に問いかけることにしてみた。

「ど、どうしたの...........?」

私が恐る恐る問いかけると、彼は笑顔を浮かべたまま答えた。

「リジーの様子がおかしかったから、心配で様子を見に来たんだ。」

レオンの言葉を聞いて、私は驚きのあまり呆然としてしまった。

まさか彼が私のために来てくれたなんて思ってもみなかったからだ............。

だが、そんなことを考えているうちに、レオンがゆっくりと私の方へ近づいてくると、優しく抱きしめてくれたのである。

「リジー、無理はしないでいいから、泣きたい時は思いっきり泣いて良い。」

彼の温もりに包まれることで、安心感を覚えた私は、次第に落ち着きを取り戻していった。

そして彼に甘えるように抱きつくと、しばらくの間そうしていた。


やがて、私が落ち着くのを見計らっていたかのように、レオンが口を開いた。

「リジー............実は、君と話しておきたいことがあるんだ............」その言葉を聞いた瞬間、私の心拍数が一気に跳ね上がったような感覚に襲われた。

きっと、レオンの口から発せられる言葉は私にとって悪いものであるに違いないと思ったからだ。

それでも聞かずにはいられなかった私は、覚悟を決めて耳を傾けることにした。

すると、彼はゆっくりと深呼吸をした後で話し始めたのである。

「............君が他の人と婚約することになったって、聞いてしまったんだ。」私はそれを聞いた瞬間、頭の中が真っ白になってしまったような気がした............だが、それでも必死に思考を巡らせて彼の言葉を理解しようとした結果ーーやはり悪い知らせであることが確定したように思えてしまったのである。


私は震える声で問いかけた。

「そ、それって............?」すると、レオンは少し困ったような表情を浮かべながらも答えてくれた。

「実は、君が婚約することになった相手は、僕もよく知っている男性なんだよ.............」

それを聞いた瞬間、私の心は絶望の色に染まりつつあったが、何とか冷静さを取り戻すことに成功した私は、彼に問いかけた。

「その人は一体誰なの?」

しかし、彼は少し言い難そうな素振りを見せた後に口を開いた。

「..............隣国の象徴である、カーティス王子だ。」

その返答を聞いた瞬間、私の目の前が真っ暗になっていくような感覚に襲われた。

それはそうだろう、私は隣国の王子と結婚する可能性があるということを知ってしまったのだから。

そう考えると、同時に不安や恐怖といった感情が込み上げてきたため、震えが止まらなくなってしまった。

そんな私の様子を心配してくれたのか、レオンが優しく手を握ってくれたのだが、それでも震えは収まらなかったのである。

「リジー、.............大丈夫?」そう言って、レオンは心配そうに顔を覗き込んできたのだが、私はそれを拒むように顔を背けてしまったのである。

「.....................」

そしてそのまま黙り込んでしまった私に対して、レオンは慰めるような言葉を掛け続けてくれたが、それでも私は心ここにあらずといった様子で、呆然とし続けたのであった...........。

しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した私は、レオンと向き合うことにしたのだが、その時はまだ心のどこかで諦めきれないという思いがあったせいか、ついこんなことを口走ってしまった。

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