第2話
すると、彼は少し考えた後で答えてくれた。
「うーん、そうだね................まず一つは、リジーの美しさに惹かれているのが大きいと思うよ」
(なっ...............!)
私は思わず赤面してしまったが、すぐに気を取り直して冷静に振る舞うように努めた。
「...............でも、それだけじゃないですよね?」
するとレオンは小さく笑ってから答えてくれる。「まあね............あとは、単純にリジーに興味を持っているんだと思うよ」
私はその言葉を聞いた瞬間ドキッとしたのだが、それを悟られないように平静を装った。
しかし、私の心を見透かしたかのようにレオンはさらに言葉を続けた。
「ほら、リジーは僕とずっといるから..............みんな気になるんじゃないかな」
(それは、どういう意味で.................?)
私は疑問に思ったが、それを聞くことはできなかった。なぜならレオンが口を開いたからだ。
「でも、一番大きな理由はそれじゃないよ」
私は首を傾げて彼を見たが、彼は微笑んでいるだけで何も言ってくれなかったのである。
結局舞踏会の間中ずっともやもやとした気持ちを抱え続けることになってしまったのだった................。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして舞踏会の翌日............つまり今に至るというわけだが、私にしては珍しく早起きして朝食の準備をしていた。
(なんだか疲れちゃったな............慣れないことはするものじゃないわね。)
昨夜の舞踏会を思い出しながら私は溜息をつく。するとそこにレオンが現れたので私はビクッとしてしまったが、彼はいつも通りの笑顔で話しかけてきたのである。
「おはようリジー」
「おはよう、レオン................」
私が挨拶を返すと、レオンは何かを思い出したかのような表情をした後で私に言った。
「そういえば昨日言いそびれちゃったんだけど..............あのドレス、よく似合っていたよ」
(またこの人は...............!)
私はまたもや赤面してしまったのだが、それを悟られないように顔を背けながら答える。
「あ、ありがとうございます................」
そんな甘い雰囲気が漂っている中、扉が勢いよく叩かれる音がした。
瞬時に呼び鈴が鳴り、レオンが出ると若々しい女性の声が聞こえてきた。
「ちょっとー!?レオン!!話を聞かせなさい!」
慌てて扉に向かうと、レオンの隣には綺麗な女性が立っている。彼女はレオンの婚約者だと言い張っており、名前はレベッカというらしいが、正直名前などどうでもいいし興味もない。
ただ彼女がとても美しい女性であることと、レオンがとても大切に思っていることだけは分かった。
「................レベッカ、こんな朝早くからどうしたんだい?」
「どうしたもこうしたもないわ!もう朝じゃない!」
(はあ..............ちょっとうるさい人だわ)
私がげんなりしていると、彼女は私に鋭い視線を向けたかと思うといきなりこう言い放ったのである。
「あなたがリジーね!?」
突然名前を呼ばれて私は動揺してしまったが、なんとか冷静さを保つことに成功したので私はゆっくりと頷いた。
すると、彼女はさらに言葉を続けたのである。
「あなた、本当にレオンの婚約者なの!?」
(なんなのよこの人................)
私は呆れながらも正直に答えることにした。
「いえ、そういうわけではありませんが...............。」
すると、彼女は勝ち誇ったような顔でこう言い放ったのだ。
「ふんっ!まあいいわ!私がこれからレオンと婚約すればあなたの存在価値なんて無くなるんだから!」
(.....................はぁ?)
私は思わず眉間にシワを寄せてしまったが、それでも努めて冷静でいようと思っていた。
しかし、それは無理だったのだ............だってレオンと1番仲良いのは私なのだから。
(誰がこんな人に渡すものですか...............!)
私は心の中でそう呟きながら、レオンの腕を引いて言ったのである。
「それでは、私たちはこれで失礼します」
レオンが驚いたような顔をしていたが、知ったことではない。
私はそのままの勢いで彼を引っ張って、戻ったのである。
そして自室に着くと彼はようやく口を開いたのだった。
「突然どうしたの?リジー」
(どうしたもこうしたもないわよ!)
心の中でそう叫びながらも、表面上は冷静さを装った状態で私は答えた。
「別に、何でもありませんわ」
(いや..............やっぱり無理があるでしょこれ、というかなんで私こんなにも怒ってるの.............?)
自分で自分に突っ込みを入れながらも、私はレオンに対して言葉を返す。
「それよりも.............あなたは婚約者として紹介したいと言ったのに、他の女性と必要以上に親しくするのはやめていただけない?なんだか嫌な気分になるの。」
すると、彼はきょとんとした顔をした後で小さく笑い出したのだ。
私はなんだかバカにされたような気分になったので、ムキになって反論しようとしたのだが、その前に彼に抱きしめられてしまったので、何も言えなくなってしまったのである................。
(はぁ.................。)
思わず溜息をついてしまう私だったが、それも無理のないことだろうと思う。
なぜなら、今私の目の前にいるのは紛れもなく私が苦手としている人物であり、出来れば関わりたくない人物であることは間違いないからである。
しかし、それは相手も同じだろうと思い、私は気を取り直して笑顔で挨拶をした。
「..................ごきげんよう、レベッカ様」
すると彼女は眉を顰めて私を睨みつけてから言った。
「あら、リジーさん?あなたに名前で呼ばれる筋合いはなくってよ?」
(うわぁ............なんだかめんどくさそうなお方ね............)と心の中で呟きながらも、私は平静を装って答えることにする。
「ごめんなさいね、つい癖で呼んでしまったのよ」
私がそう言うと彼女はさらにムッとした表情になった。
ーー.............なぜ彼女が目の前にいるのかと言うと、街で買い物を済ませていたら、突然彼女に呼び止められて、近くにあるカフェで話をすることになった。
用事も済ませたし、私としては早く帰りたかったのだが、彼女はそうさせてはくれなかったのである。
「ふんっ.............まあいいわ。それよりあなた..........婚約者ではないくせに、レオン様を独占するのはどうかと思うわ!」
「.............どういうことでしょう?」
私が首を傾げると、彼女は勝ち誇ったような表情で言ったのである。
「あら?気づいていないのね?まあいいわ...........教えてあげるからよく聞きなさい」
(................なんだか嫌な予感がする)と内心で思いながらも、私は大人しく話を聞くことにしたのだった。
彼女は得意げな表情で語り始めたのだが、その内容が理不尽なせいで、聞いているうちにだんだん腹が立ってきた私は、思わず口を挟むことにした。
「..............つまり、あなたはこう言いたいのね?私がレオン様に色目を使っていると。」
(私がそんなことするわけないでしょうが!)と思いながらも、私は怒りを抑えて冷静に尋ねることにする。
「それで、どうなさるおつもりかしら?」
すると彼女は得意げに答えた。
「そんなの決まってるわ.............私と勝負しなさい!」
(ああもう.............、めんどくさいわね。)
私はうんざりしながらも平静を装ったまま話を進めることにしたのである。
「わかりましたわ..............それでは、何を賭けるおつもりですか?」
そう言った瞬間、彼女はニヤリと笑うととんでもないことを言い出したのだ。
それは、私にとっても不都合なことであった。
「..........私が勝ったら、レオン様との婚約を辞退してもらうわ!」
(.....................はぁ!?)
ーー私は一瞬言葉を失ってしまったが、すぐに気を取り直して言った。
「え、あなた本気で言っているの?レオンの意思は?」
しかし、彼女は怯まずにさらに続けるのである。「ええ、もちろん本気よ!私が負けるわけないもの。..................それに、レオン様は私のことを見直すに違いないわ、だって私は愛されているんだもの!」
私は呆れて何も言えなかったのだが、それでも黙っているわけにはいかなかったので、とりあえず反論することにしたのだ。
だが、レベッカ様は全く意に介する様子もなく私に言い放ったのである。
「それじゃあ決まりね!勝負は明日だから、楽しみにしてるわ!」
「え、ちょっ、まっ................!!」
そう言って嵐のごとく去って行く彼女を見つめながら、私は大きな溜息をついたのであった.............。
とにかく今私にできることは、明日に向けてのダンスに備えて、練習することのみだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あんなことがあってからの翌日.............私とレベッカ様は、レオンを賭けてダンス勝負をすることになったのである。
しかし、何故かその場所にレオンも居合わせていて、私たち2人を見守っているような形になっていた。
なぜレオンがここにいるのかわからず、私は嫌な緊張を覚えた。
(どうしてこうなったのかしら..............?)と私が内心で思っていると、突然音楽が流れ始めたので慌てて意識を切り替えてダンスに集中することにしたのである............。
彼女はとてもしなやかな動きでダンスを全てこなし、あんな性格だが少し見惚れてしまっていたのも事実であった。
私も負けじと全力を振り絞り、その日はそこで終わったのであった。
前回から思っていたけれど、なんで私こんなにもレオンを賭けて真剣になっているのだろう...............?
ドキドキする胸の正体について、未だに私は、気づかなかった。
(はぁ..............どっと疲れた感じがするわ)
ダンス勝負を終え、レオンと共に帰宅した私はソファに腰かけて大きく溜息をついた。
「お疲れ様、よく頑張ったね」
そんな私を労ってお茶を出してくれるレオンだったが、ふと何かを思い出したかのように尋ねてきた。
「そういえば、レベッカとはどんな勝負をしたんだい?2人が勝負をするだなんて、びっくりしたよ。」
(............ああ、そう言えばレオンにはまだ言ってなかったわね.............)と思い、私は正直に説明することにしたのである。
「実は.............、」と言いかけたところで、突然ノックの音が聞こえたため中断せざるを得なくなってしまったのだ。
仕方なく私が立ち上がってドアを開けると、そこには怒ったような表情のレベッカ様が立っていた。
「ちょっといいかしら?」
と言って勝手に中に入ってこようとする彼女に、私は慌ててストップをかけた。
「あの..........、勝手に入ってこられても困るのですが.............」
しかし、彼女は全く意に介さずに私を押し除けるようにして、部屋の中へ入ってきたのである。
そして、レオン様の隣に腰を下ろすと笑顔で言ったのだ。
「ねえレオン?この勝負で、どちらが勝ったと思う?」
(この人..............、本当に図々しいわね)
私が呆れていると、レオン様が苦笑しながら口を開いた。
「そうだなぁ...........引き分けじゃないか?」
同じ評価を下されて悔しい私だったが、レオンの言葉を聞いたレベッカ様は、もっと悔しそうな顔をしながら納得していない様子だった。
そして、私に勝ち誇ったような顔を向けると宣言したのである............。
「引き分け!?そんなわけないでしょう!?私の方が上手だったでしょう?」
しかし、レオンは落ち着いた様子で続けたのだ。「いや、引き分けだよ」
(うわぁ............これはさすがに、わざとこんな評価を下したのね)
私はそう思ったのだが、レベッカ様は納得しなかったようだ。
彼女は、さらに食い下がろうとする素振りを見せたので、私は思わず口を挟んでしまったのだが
「いい加減にしてくださいませんか?レオンもこう仰っていますし、引き分けということでいいではありませんか.............。」
私がそう言うと、レベッカ様は悔しそうにしながらも渋々といった感じで引き下がったのであった..............。
(ふぅ...........全くもう、とんだ茶番に付き合わされたわね。)
私は心の中で悪態をついていたが、とりあえずこの場が丸く収まったことに、安堵していたのである。
そして、まだレオンの隣にいられるということにも。
..............その後、数日の間はなんとか平穏な日々が続いたのだが、ある日のこと...........またもレベッカ様が自宅までやって来たのだった。
しかも、今回は単身で訪れている様子ではなく、何故かレオンも一緒に来てくれたのである。
「...............どうしてレオンが?」
私が尋ねると彼は苦笑しながら答えた。
「なんだか嫌な予感がするから、様子を見に来たんだよ」
そして、レベッカ様は私たちの目の前に立つと、いきなりまた驚くようなことを言い出したのだった。
「やっぱり納得いかないわ!!」
(あーはいはい............またその話ですか)と呆れつつも、私は冷静に反論を試みることにする。
「最初に決めたルールに従って決着はついたではありませんか?それなのに今更蒸し返すなんて............」
しかし、彼女は全く聞く耳を持たないようでさらに続けたのである。
「だっておかしいじゃない!レオンの婚約者に相応しいのは私よ。それなのに、どうしてリジーさんと引き分けになるわけ!?」
私は、うんざりしつつも再度言った。
「だから、最初に取り決めた通り、私が勝ったら婚約を辞退するという条件で勝負したのですから仕方ありませんわ。レオンが引き分けという評価を下したのも。」
だが、彼女は納得できないといった様子でさらに言う。
「だったらもう一回勝負しましょう!今度は、正々堂々と!」
(はぁ................)
私は心の中で大きな溜息をついたのだが、レオン様は彼女の提案を受け入れてしまったのである.............。
彼が何を考えているのか、私にはさっぱりわからない。
(ちょっと..............本気で言ってるの?)
私が唖然としていると、レオンが申し訳なさそうに言った。
「ごめん、リジー.............僕はレベッカが納得できないと諦めないと思うんだ」
私は苦笑いしながらも、仕方なく了承することにしたのだった.............。
(ああもう............めんどくさいわ)
「ほら、早くなさいな」
勝ち誇ったような顔で挑発してくるレベッカ様に対して、私は冷ややかな視線を投げかけてから言った。
「ふん............言われなくてもやりますわよ」
(...............全くもう、なんで私の周りはこんなにも頑固な方が多いのでしょう?)
私は心の中で悪態をつきながらも、仕方なく準備を始めた。
そしてレオンには下がってもらい、レベッカ様と2人でダンスを始めることにする。
しばらく踊り続けているうちに、段々と慣れてきたのか少しずつ楽しくなってきたのだが、突然彼女がこんなことを言い出したのだ。
「リジーさん?この前の勝負だけど、あなたはレオンと婚約していることが理由で、ちょっと手を抜いたんじゃないかしら?」
(...............はぁ?何言ってるのこの人、完全に言いがかりじゃない。)と思い私は当然呆れていたのだが、ここで反論しても仕方ないと思ったので、とりあえず何も言わずに黙っていることにした。
すると、彼女は勝ち誇ったような表情で言ったのである。
「やっぱり図星みたいね!............さあリジーさん?素直に負けを認めなさい!」
私はムッとした表情を浮かべながらも、淡々とした口調で答えた。
「いいえ、私は本気で踊っていましたわ」
しかし彼女は納得しなかったようで、さらにこう言ってくるのだ。
「嘘よ!本当は私に負けるのが怖いんでしょう?」
内心少しドキッとしてしまった、
もし負けてしまったら、レオンのそばにいられないのじゃないのか、.............そう思ったら、ずきんと胸が痛む。
ーーそれがなぜなのかはわからないが。
(けどもう............本当にうるさい人ね。)
私は苛立ちを通り越して、逆に冷静になってしまった。
面倒くさいなぁと思いつつも、冷静さを保ちつつ私は言う。
「いいえ、私が負けるわけがありませんもの」
すると彼女はムキになって反論してきたのである。
「じゃあ証明して見せてよ!できるでしょう?」
私は渋々仕方なく勝負を続けることにしたのだった...............。
「はぁ..........」
踊り疲れて息を切らしているレベッカ様に対して、私は余裕の表情を浮かべていた。
「私の勝ちみたいですね」
(ふぅ...........やっと勝負は終わったわ)と思いながら私は安堵のため息をつく。
(ああ疲れた............。)
しかし、レベッカ様は悔しそうな表情を浮かべつつも、まだ納得できないといった様子でさらに食い下がってきたのである。
「今のは無効よ!」
そんな彼女に対して、レオンが諭すように言ったのだった。
「レベッカ?そろそろ諦めたらどうだい?」
(そうね...........さすがにもういいでしょう?)と思っていると、突然レベッカ様が泣き出してしまったのである..........。
(え?ちょっと待ってよ............なんで泣いてるの?)と私が焦っていると、彼女は泣きながら言った。
「うう.......レオン.........!どこにも行かないでよ」
そしてレオンに抱きつこうとする彼女を、レオンは両手で制したのだった。
「レベッカ、少し落ち着くんだ」
すると彼女はピタッと動きを止めて大人しくなったのである。
「レオン、ごめんなさい...........」
そんな二人のやり取りを見ているとなんだか虚しくなってきたので、私は静かにその場を去ったのであった..........。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
自宅に戻った私は、ソファに座って一息つくことにした。
(それにしてもあの人はなんなのでしょう?本当になお騒がせな方よね...........)と思いながらも、ふと窓の外を見ると美しい夕焼け空が広がっていたのである...........。
(ああ.........綺麗だわ、空は自由なのよね)とのはほんと考えながら、ただひたすら景色を眺めていた。
ぼーっと物思いにふけていると、突然ドアがノックされたので、我に返り慌てて開けると、そこにはレオンが立っていた。
「やあ、リジー」
そう言って彼は微笑んでくれたので、私もつられて笑顔になってしまう。
あんなことがあったというのに。
(ああ............やっぱりレオンの笑顔って素敵ね)と思いながらも私は彼に尋ねた。
「どうかしたんですか?」
すると彼は真剣な表情で言ったのだ。
「............うん、ちょっと大事な話があってね」
私は、彼が何を言おうとしているのか全く分からなかったので戸惑っていたのだが、それでも黙って彼の言葉を待っていた。
すると、彼は少し間を置いてから口を開いたのである。
「リジー、君に伝えたいことがあるんだ..........、聞いてくれるかい?」
「ええ、もちろんよ」
何を言われるのだろうかと考えているうちに、彼は続けて言った。
「レベッカの件は、なんでもないんだ。疑われるかもしれないけど、信じてほしい。」
確かにあんな場面を見せられて、あの時の私は動揺を隠せず、その場から逃げ出してしまった。
それは多分ーー..............もう答えはわかっていたが、見ないふりをしていたのだろう。
「.............大丈夫ですよ、私はレオンを信じているわ」
私の言葉に、ほっと安心したような笑みを浮かべるレオン。
そんなことも束の間、レオンの表情は再び真剣なものに戻った。
彼は続けて言った。
「実は、ちゃんと伝えていなかったのだけれど...........僕は君のことが好きだ、他の誰よりも。
どうか本当の婚約者になってくれないか?」
突然の告白に私は驚きつつも、嬉しさが込み上げてくるのを感じた。
(ああ...........、私ったら幸せだわ..........!)と心の中でも喜びつつも、精一杯の返事をすることにする。
「ええ、わかりました。喜んでお受けいたしますわ。」
こうして私たちは、晴れて本当の婚約者となったのである...............。
(どうなることかと思っていたけれど、本当に良かったわ)
私は心の中で喜びを噛み締めていた。
(まさかレオンが私のことを好きだなんて...............夢のようだわ)と、2人で幸せな気分に浸っていたのである。
高まる期待に胸を膨らませていたのだが、翌朝になるとレオンは既に家を出て行った後だったようで、姿が見えなかったのである。
(あれ?もう出掛けたのかしら?)と思って時計を見ると、時刻は既に10時を過ぎていた。
(ああ............私も急がないと、学園に遅刻してしまうわ)と思い、急いで支度をして家を出たのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからしばらく歩いて行くと、前方に見覚えのある人物の姿が見えた。
(あら?あれはレベッカ様じゃないかしら?)と思った次の瞬間、私の視界に飛び込んできたものは、信じられない光景だったのである。
なんと彼女は、レオン様の腕に手を回し歩いていたのだ。
(え?...........どうしてレオンとレベッカ様が一緒に居るのよ、しかもあの距離感...........どう考えたっておかしいわ。)
私は慌ててその場に駆け寄り、2人のことを呼び止めたのである。
「ちょっと待ってくださいレオン!」
すると2人は驚いたように私の方を振り向いたのだが、すぐにレオンは申し訳なさそうな表情になり、レベッカは勝ち誇ったような笑みを浮かべて言った。
「あら?リジーさん、おはようございます」
私は怒りに震えながらもなんとか冷静を装って言った。
「おはようございます..............それより、なぜお二人が一緒に居られるのでしょうか?」
私が尋ねると、彼女は答えるよりも先にレオンに目配せをしたが、レオンはそれに応えることなく黙っていた。
(やっぱりこの人の仕業ね!)と思いつつも、私はさらに問い詰めることにする。
「................それにあなたは、婚約者ではありませんよね?それなのに、なぜレオン様と一緒に歩いているのですか?」
すると、レベッカ様は勝ち誇ったような顔をしながら言った。
「あら?私がレオンと一緒に居ることに何か問題がありまして?」
(この人、本当にムカつくわね............)と心の中で怒りを爆発させていると、レオンが口を開いた。「リジー、大丈夫だよ。ここはま僕任せて。」と言って微笑む彼に対して、私は思わず見惚れてしまう.............だが、それと同時に不安感が込み上げてくるのを感じていたのだ。
(もしかしてレオンはこの人のこと............、いや、なんとも思ってないはずだけど............?)
そんなことを考えているうちに、レベッカ様はさらに続けて言う。
「それより、早く行きましょう?遅刻してしまいますよ?」
そう言って彼女はレオンの腕を強く引っ張って歩き始めてしまったのである。
(ちょっと待ちなさいよ!)と思いつつも、私は2人の後を追いかけることにした。
結局この日の授業は集中できず、最後まで散々なものだった..............。
(はぁ.............今日は一日色々と疲れたわ)
そんなことを考えていると、「おい、リジー大丈夫か?顔色が悪いぞ?」と、友人であるクロネッカーが心配そうな顔で尋ねてきたが、私は上手く笑顔を作れずにいたのだった.............。
(まさか私がこんな気持ちになるなんてね..............)と思いながら自嘲気味に笑うことしかできなかったのである。
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