幼なじみの婚約者候補の情報を集めていましたが、なんと私が婚約フラグに
スカイ
第1話
「ーーわかったわ」
私がそう言うと、レオンがにっこりと笑って手をひらひらと振る。
「じゃあよろしく。くれぐれもバレないようにね」
「...............ええ。あなたも気をつけてね」
「心配ありがとう」
そう言って二人で笑い合うと、すぐに馬車へと乗り込んだ。
これから二週間後に開催される建国祭で、王都のあちこちで行われるお茶会に参加し、貴族との交流を持つ。
そこで上手く立ち回るために、まずは王宮主催のお茶会に潜入し、レオンの婚約者候補達と交流を持とうという魂胆だ。
ちなみに、私は正式にはレオンの婚約者候補ではなく、彼の友人として交流を持つことになった。
というのも、あまり深い関係になって婚約なんかになったら困るからだ。
あくまで、王子の友人という立場で親しくなれるだけ仲良くなって、私のことは誰にも話さないことを条件にレオンの協力を取り付けたのだ。
そして私は今、王宮へと向かう馬車に乗っている。
「それにしても、リジー嬢も大変ね。王子の婚約者候補と友人として交流を持つなんて。私だったら、そんなことできないわ。」
向かいの席に座るご令嬢が、ため息混じりにそう言ったので、私はにこりと微笑んだ。
「そうですね。でも、レオン様はご友人として本当に素敵なお方ですから」
「まあっ!」
そう言うと、彼女は頬を赤らめて手を頬に当てた。レオンに思いを馳せるご令嬢達の様子は、毎度のことなので、特に気に留めず話を進めることにする。
「.............王宮にはよくいらっしゃるのですか?」
「ええ。私は二年ほど前からこの国に滞在しておりますの」
「そうなんですね」
「..............あら?でもリジー嬢は隣国の方ですよね?」
そう尋ねてきたご令嬢に、私は頷く。すると彼女は目を輝かせた。
「まあっ!では、外国のお話が聞けるということでしょうか!?」
「...........え、ええ.........そうですね」
なんだか嫌な予感がして引きつった顔で答えた私に彼女がずいっと身を乗り出してくる。
「では、異国のお話をしてくださいませ!」
「それはまた、今度..............」
私が引きつった笑みを浮かべてそう言うと、ご令嬢は唇を尖らせた。
「ぜーーったい、約束ですよー!!!」
「ええ。きっと」
そんな会話をしていると、ゆっくりと馬車が止まった。
やっと王宮についたようだ。
私は御者の方にお礼を言うと、馬車から降りたのだった。
会場に着き、他の候補達と合流すると、すぐにお茶会は始まった。
和やかな雰囲気で会話が進む中、私の存在に気付いたご令嬢が高らかに声を上げた。
「まあ、噂の隣国のお方ですわよ!お名前は確か...............」
すると、他のご令嬢達も興味深そうにこちらを見る。
私は彼女達に向かってドレスをつまみ、膝を折った。
「お初にお目にかかります。レオン様のご友人で、リジーと申します」
そう挨拶をすると、ご令嬢達がざわめいたのがわかった。
レオンの名前を出したことで信憑性が上がったからだろう。
少し胸が痛んだけれど、これも私の自由のためだ............我慢するんだ私.........!!
内心ではそんなことを考えていると、一人のご令嬢が話しかけてきた。
「わたくしはメアリと申します。可愛らしいお方ね、お歳はいくつですの?」
そう尋ねられて、私はにこりと微笑む。
「今年で十三歳になります」
そう言うと周りがざわついたのがわかった。
どうやらこの国では、十三歳ではまだ成人にならないらしく、驚く人が多いようだ。
私は実際にもっと大人に見られることが多いので、やはりこの国は全体的に幼い顔立ちの人が多いのだろう。
まあ私にとっては好都合だけれども............そんなことを思っていると、もう一人のご令嬢が私に声をかけてきた。
「まあ、レオン様よりも年下なのね。............てっきりもっと年上かと思っていましたわ」
その女性は確か、レオンの婚約者候補の一人だ。
確か名前はーー『レイラ・ビスマルク』だったはず。
淡いピンク色のドレスは、ブロンドの色のふんわりとした髪によく似合っている。
まるで女神のようだと言えるほどに、彼女の第一印象は眩しかった。
私はとびっきりの微笑みを浮かべて答えた。
「ありがとうございます、ビスマルク様」
すると彼女は少し頬を染めて微笑んだ。
「ふふ、わたくしのこともどうかレイラとお呼びくださいな」
「.............ありがとうございます、レイラ様」
私がそう言うと周りから感嘆の声が漏れたのがわかった。
きっと可愛らしい反応だと思われているのだろう。少し複雑な心境になりながらも、私は笑顔で続けた。
「では、私のこともリジーとお呼びください」
そう言うと周りからどよめきが起きた。どうやら『リジー』という名前はこの国では珍しいようだ。
(まあ、本名じゃないけど.............。)
するとレイラ様が心配そうに尋ねてきた。
「わたくしもよろしいの?」
「ええ、ぜひ!」
嬉しくて、私が食い気味に答えると、彼女もとても嬉しそうに笑った。
それから私達は当たり障りのない会話をした後、解散となった。
年上の女性とはあまり縁が無いので、私自身姉ができたような感じがして、少し気恥ずかしい気もした。
「では皆さん、ご機嫌よう」
そう言って馬車に乗り込んだ私に、レイラ様が声をかけてきた。
「リジー様、これから王宮にいらっしゃるのかしら?」
その言葉に私は内心首を傾げたが、すぐに笑顔で答えた。
「ええ。今日はお泊まりする予定ですの」
(レオンから許可は貰っているし、嘘はついていない................よね?)
私が心の中でそんなことを考えていると、レイラ様は目を輝かせた。
「まあ!でしたらまたお会いできますわね!」
自由のためだとは言え、こうして新しくご友人ができて、私は笑顔で頷いた。
「ではご機嫌よう、またいっぱい楽しいお話をしましょうね!」
そう言って彼女は軽やかに去っていった。
レイラ様は去る姿もとても美しく可愛げがあり、自然と頬が緩んでしまった。
(これは.............レオンの婚約者候補達と繋がりを持つことができたということかしら...............?)
なんだか予想外の展開だけれども、これは僥倖かもしれない。
そう思いながら、私は王宮へと戻る馬車に揺られたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お帰り、リジー」
王宮に戻るとレオンが出迎えてくれた。彼は私の姿を見るなり笑みを浮かべる。
「うん、表情が明るいし上手くやれたみたいだね。」
「ええ............まあ.............」
(あれを上手くやったと言っていいのか微妙なところだけれど................)
私は曖昧に返事をしながら、レオンと共にレオンの自室へと向かった。
そこでお茶を飲みながら、今後のことについて話し合う。
「それで?どうだったの?」
「皆さん、いい方達だったわ。お話も楽しかったし」
そう答えると、彼は意外そうに目を丸くした後、ふっと笑った。
「へえ............、リジーがそう言うってことは..........なかなか脈アリなんじゃない?」
「.............そういう言い方はやめてくださる?」
私がじろりと睨むと、彼はごめんと笑いながら謝ってきた。
そして真剣な顔で言う。
「................でも本気だよ。他の候補者達には悪いけど、俺はリジーには婚約者になってもらいたい」
その言葉に、私は動揺を隠すようにカップに口を付ける。
そんな私を見つめながら彼は続けた。
「リジーは他の候補者と比べても頭もいいし、可愛いしね」
「なっ..............!?」
私は思わず噎せてしまいそうになったが、なんとか堪えることに成功した。
しかし顔は真っ赤に違いない。
そんな私の反応を見た彼は、楽しげに笑った後、再び真剣な顔をした。
「まあ冗談はさておき.............当日までにしっかり交流を持って、周りに認めてもらえるように頑張ろうね」
「.............ええ」
私が小さく頷くと彼は優しく微笑んでくれたのだった。
(なんだか..........今日一日、思っていたよりもいい展開だったわ.............!ここから先も期待できるわね!)
私は心の中で一人、ガッツポーズをしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーーそれからしばらく経ったある日のこと。
ついに、建国祭の日がやってきた。
私は朝からドレスを着せられ、髪を結われ化粧を施されると馬車に乗せられて王宮へと連れていかれたのである。
そして今はレオンと共にパーティー会場に向かっているところだった。
「緊張してる?」
不意にそう尋ねられて私はちらりと隣に座るレオンを見上げた。
彼は相変わらず綺麗な顔で微笑んでいる。
世の女性が、この顔に見惚れるのもわかる。
「少しね...........でも、レオンがいてくれるから心強いわ」
私が素直にそう言うと、彼は嬉しそうに笑って私の頭を撫でた。
なんだか子供扱いされているようで恥ずかしいが、彼なりの気遣いなのだと思うと拒むこともできなかったので、されるがままになっていたのだった。
パーティー会場に着くと、もうすでに多くの人が集まっていた。
皆レオンが来るのを今か今かと待っているようだ。
(なんだかすごい数の人.............レオンって、本当に人望に溢れているのね........)
私はすごさに改めて圧倒されつつも、レオンの隣を歩き続けた。
すると、やがて国王陛下の挨拶が始まった。
そしてそれが終わるといよいよ舞踏会が始まる。
最初は緊張していた私だったが、レオンや他の候補達が上手く気を回してくれたこともあり、次第に楽しい時間を過ごすことができたのだった。
そしてしばらく経つと、レイラ様が声をかけてきたのだ。
「リジー様!お久しぶりでございます!」
そう言って駆け寄ってきた彼女を、私は笑顔で迎える。すると彼女は私の手を取って嬉しそうに笑った。
「ああ、リジー様!お会いできて嬉しいですわ!こうしてまたお話できるなんて、光栄です!」
「レイラ様、私もですよ」
そんな会話をしていると、他の方達が不満げにこちらを見つめてきた。
特にレイラ様の取り巻き達(?)は、私達のことを睨んでいる。
それを見兼ねたレオンが、私達に声をかけてきた。
「やあリジー、レイラ嬢。楽しんでいるかい?」
すると、取り巻き達が一斉に声を上げる。
「..............まあ!皆様を差し置いて、何をしてらっしゃるのかしら?これは少しお灸を据えた方がよろしいのではないかしら?」
そんなことを言われて私は一瞬びくりとする。
すると、レオンがわざとらしく溜息をついた。
「全く...............君達はリジーのことが嫌いなのかい?まあ、別に構わないけど」
そしてレオンは私の腰を引き寄せると、まるで見せつけるかのように私の頰にキスをしたのである。
その瞬間、会場からきゃあ!と悲鳴が上がったのが聞こえた気がしたが、私は頭が真っ白になってしまって何も反応できなかった。
............一方、レイラ様は顔を真っ赤にして両手で頬を押さえているし、他の方達はあんぐりと口を開けている始末だ。
しかし、一番驚いているのは間違いなく私だった。
「なっ..............レオン!?」
私が慌てて彼から離れると、彼は悪戯っぽく笑って言った。
「ごめんね、リジー」
(................何が!?)
私が混乱していると、レオンが私の手を握ってレイラ様に向き直る。
「で?次は何をすれば、彼女たちにわかってもらえる?レイラ嬢?」
すると、彼女は真っ赤になりながらも少し頰を膨らませて言った。
「こほん............わたくし達を無視して、仲睦まじい様子を見せなくても結構ですわ.............それに、婚約者候補が一堂に会する舞踏会でそういったことをなさるのはいかがなものかと.............リジー様も驚いていらっしゃるじゃないですか!」
「それは失礼。では、そろそろ僕は失礼するよ」
そう言ってレオンは私の手を引いて歩き出した。
私は訳もわからず彼についていくことしかできなかったのだが、しばらく歩いてからようやく我に返ったのである。
(い............いくら演技とはいえ..........!これはやりすぎだわ!!)
私がキーッと睨むと、彼はふっと笑っただけだったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから何曲か踊った後、私達が大広間を抜けた先で休憩していると、一人のご令嬢がこちらにやってきた。
「レオン様、少しよろしいでしょうか?」
彼女は確か.............レイラ様の取り巻きの一人だ。そして、どうやら私を睨んでいるようである。
私は内心溜息をつきつつ、レオンを見つめた。
「.............ええ、なんでしょう?」
すると彼女は勝ち誇ったような顔で言った。
「まあ!そのドレス.............一体どうなさったのかしら?まさか舞踏会でまで、リジー様と同じ色の物を着るだなんて!」
(え!?)
私は驚いてレオンの顔を見ると、彼は微笑んで言ったのだ。
「ああ、やはり君の目から見ても、リジーのドレスは良いものだったかな?」
(..............いや、待って!どういうこと!?)
私は理解が追いつかず混乱していると、レオンはさらに続けた。
「もしよければ、今度じっくり見せてあげたいね」
(ちょっと..............!!レオンまで何言ってるの!?)
私が混乱しているうちに、彼女はさらに私を責め立ててくる。
「そもそも、舞踏会にちゃんとしたお召し物を用意できないだなんて............しかも、ドレスコードを無視なさるなんて!ご自身の立場を、わきまえていないのではなくて?」
(あー.............これはもう.............だめだわ)
私は完全に目眩でふらふらとしてきたが、レオンは平然とした態度で言った。
「ああ、そうだったね。そういえば、レイラ嬢から君に伝言があるんだ」
「まあ!なんですの!?」
彼女は目を輝かせて聞き返す。
レオンはにっこりと笑って続けた。
「『そんなダサいドレスでは、レオン様の婚約者には相応しくありませんわ』とのことだそうだ」
(ちょ..............!それ完全に悪口じゃない!というか、レイラ様がそんなこと仰るはずがないし...............!)
私はもう完全にパニックに陥っていたのだが、レオンは彼女に背を向けて歩き出した。
「それではごきげんよう」
(待ってええええ!)
心の中でそう叫んでいるうちにも、彼はどんどん歩いていってしまう。
私は仕方なく、彼の後について行くしかなかったのだった。
そしてしばらく歩いたところで、彼は振り返って私に言ったのである。
「リジー、大丈夫だった?ごめんね」
心配そうに顔を覗き込まれて、私はようやく我に返った。
「え..........ええと...........」
(一体なにがどうなってるの!?)
私が呆然としていると、彼はクスリと笑った後に私の手をぎゅっと握って言った。
大きくて温かい手で、私の手と違ってゴツゴツしている。
ーー少しばかり意識をしてしまった。
「..................それじゃあ行こうか」
「行くって...............、どこに行くの?」
私が尋ねると、レオンは少し考えた後でこう答えた。
「うーん、じゃあこのまま俺の家にでも向かおう。リジーにちょっと試着してもらいたいドレスがあるんだ。きっと似合うよ。」
(...................はい?)
私は首を傾げたが、彼が私の手を引いて歩き始めたので大人しくついていくことにしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(一体どういうつもりなのかしら................?)
そんな疑問を抱きながら、私は今レオンと一緒に彼の部屋のソファに座っている。
すると、彼はコーヒーを淹れてくれたのでお礼を言って受け取った。
一口飲むと、口の中に苦味が広がる。
私は思わず顔をしかめたが、彼はそんな私の様子を相も変わらず微笑みながら見ていたのだった。
(なんだか調子が狂うわ.................)
私がそう思っていると、レオンは不意に口を開いた。
「そういえば................リジーの服もなかなか素敵だよね」
そう言って私の着ているドレスに目を向ける彼に私は首を傾げた。
「そうですか?」
私が着ているのはシンプルなデザインの水色のドレスだ。
レースや刺繍などは一切ないシンプルなものだったのだが...............
「うん、似合ってる。かわいいよ」
「なっ..................!?」
彼の突然の発言に私は思わず赤面してしまう。
すると、彼はさらに言葉を続けた。
「でもせっかくの舞踏会だったんだから、もう少し華やかなデザインでもよかったんじゃない?ほら、こういうのとか」
そう言って、レオンはどこからともなく別のドレスを持ってきた。
それは、煌びやかな装飾が施された真っ赤なドレスで、あまり好みではなかったし目立ちすぎるとは思ったが断るわけにもいかないだろうと思い、私はおずおずとそれを受け取って試着室で着替えることにしたのだった。
その赤いドレスは、背中部分ががっつり開いていて、女性らしさを強調させるようなデザインの仕上がりだった。
こんな露出がすごいもの、着られるわけ...............でも、せっかく用意してくれたものだし、仕方ないわよね...............。
そんなことを考えながら、そして着替えてから再びレオンの前に姿を現すと、彼は感心したように言った。
「へえ..............本当によく似合ってる」
「..............どうも」
私は恥ずかしくなって素っ気なく答えたのだが、レオンは嬉しそうに笑って言ったのである。
「ほら、こっち来てみて」
私は言われるままに彼の側へ行くと、彼は私の肩に手を置きながら鏡の前に立たせた。
すると、そこには真っ赤なドレスを身に纏った私が立っており、その姿を見るとなんだかむず痒い気持ちになったのである。しかしそれと同時にレオンの褒め言葉に浮かれている自分もいることに気がつき、慌てて冷静さを取り戻すべく深呼吸をした。
「ねえ、リジー。これってどこから調達してきたの?」
レオンにそう尋ねられたので私は正直に答えることにした。
「..................手作りです」
すると、彼は驚いたような顔をした後で言ったのである。
「へぇ...............すごいね。やっぱり、昔から器用なんだね」と感心したように言ったので、私はなんだか得意な気持ちになりつつ答えたのだった。
それからしばらくの間私たちは他愛もない話をして過ごした後、レオンはそっと立ち上がって言ったのである。
「じゃあ、後日リジーには来てもらいたいところがあるから。そういうドレスも似合うってわかって、安心したよ。」
「えっ.............それってどういう...........?」
彼の顔を見つめると、いつにも増して本気だということが伝わってきた。
...............もしかして、この人は本気で私は婚約者として過ごしていくつもりなのだろうか。
そして、私もそれなりの覚悟を決めるべきなのだろうか。
そんな考えを巡らせながら、私は二つ返事で頷くことしかできなかった。
明くる次の日の朝、呼び鈴が鳴り玄関を開けると、いつもよりも眩しいレオンが立っていた。
綺麗な色の燕尾服を身にまとい、金色の髪の毛もいつもより艶めいており、今にも大切な場所に行くことが伺える。
「................えっ!?」
突然の来訪に私は思わず目を見開いたが、レオンはお構いなしといった様子で私の腕を取った。
そして、そのまま部屋を出て行く。
(ど.............どこへ連れていかれるのかしら?)
そんな不安に駆られながら彼に手を引かれるがままついて行くと、やがて大きな扉の前に到着した。
そこには一人のメイドがいて、レオンに一礼すると言ったのである。
「レオン様、お待ちしておりました」
(え...............?どういうこと?)
私が困惑していると、彼はにっこり笑って言ったのだ。
「うん、ありがとう。」
(.............待ってよ!!これって一体どういう展開なわけ?)
私が心の中で叫んでも、無駄である。
そのまま、私はレオンに連れられて建物の中へと入ると、そこには何人もの人が待ち構えていたのである。
そして、彼らは一斉に立ち上がると、こちらにお辞儀をしてきたのだった。
「え...........ええと................」
私が困惑していると、レオンはこちらを振り返り満面の笑みで言ったのだ。
「それじゃあ、これからよろしくね」
(はい!?)
こうして、私の波乱のお披露目舞踏会は幕を開けたのだった...........。
(一体どうしてこんなことさせられているの............!?)
私は今、煌びやかな会場に立たされていた。
貴族や富豪たちが優雅にワルツを踊り、華やかな音楽が流れる会場の中央では、レオンと私が手を取り合って踊っていた。
(何故こうなったのかしら................)
私はぼんやりと考える。
そもそもの始まりは、数時間前に遡るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあこれからよろしくね」そう笑顔で言うレオンに対して私は何も言えずに固まっていたのだが、彼はそんな私の様子を気にも留めず続けたのだった。
「早速なんだけど、今から僕と舞踏会に行ってもらえるかな?出来ることならば、君を婚約者として紹介したい。」
突然の申し出に私は動揺しながらも答えた。
「え?.................今から?」
「うん、そう。今ここで君のためにドレスを調達しても構わないけど............それじゃあつまらないだろう?」
「ええ.................」
婚約者として紹介したいって、やっぱりそうきたか。
まだ気持ちの整理はついていないし、急すぎて私は何が何だかわからなかった。
(そんなこと言われても困るんだけど................)
私が困惑していると、レオンはこう続けたのだ。
「それに、僕はリジーのドレス姿を他の男に見られたくないし」
(いや、それは流石に大げさすぎるでしょ................!?!?)と心の中で突っ込みを入れたものの口には出さなかった。
しかし、彼は私の沈黙を肯定と受け取ったようで、「決まりだね。それじゃあ行こうか」と言って私の手を引いて歩き出したのである。
私は抵抗しなかったわけではないが、彼に手を引かれて歩くうちにいつの間にか馬車に乗せられていて、気づいた頃には王都にあるレオン御用達のドレスショップに着いていたというわけだ。
あれやこれやと試着を繰り返し、気づいた頃には馬車のお迎えがくる時間になっていた。
(はあ...................)
私は溜息をつくことしかできなかったが、それでもレオンは笑顔を絶やさなかった。
(なんなのよもう.................!)
私がイライラしていると、突然扉がノックされたので返事をすると、メイドが入ってきたのである。
「レオン様、お迎えの馬車が到着されました」
それを聞いてレオンは立ち上がると、「わかった。すぐ行くよ」と言って私に向き直った。
「それじゃあ行こうか、お姫様」
(もう.............どうにでもなれ!)
私は半ば諦めの境地に達していたが、それでも一応一言だけ言っておこうと思ったので、口を開いたのだがそれは叶わなかった。
なぜなら、レオンが私に口づけをしたからである。
私は頭が真っ白になり、抵抗する間もなかった。
しばらくしてようやく解放された時にはすっかり腰が抜けてしまっていたのだが、彼は私を軽々と抱き上げるとそのまま馬車まで運んでくれた。
そして馬車に乗せられると、彼は私をエスコートするように手を差し出してきたので、私は仕方なくその手を取ることにしたのだった。
舞踏会に到着した私たちは、早速ダンスを踊ることになったのだが、レオンのリードが上手くてとても踊りやすかったのである。
私は彼に身を委ねながら、周りの令嬢たちからの視線を感じていたのだが、その視線の中にどこか冷ややかなものを感じた気がしたのであまり気にしないように努めることにしたのである。
しかし、それでもやはり気になるものは気になってしまい、思い切ってレオンに尋ねてみることにした。
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