31.集結
31
あーあ。
なんでサブローっていつも間が悪いのかしら? なんでいつもいつもあたし達がいない間に困難に巻き込まれちゃうのかしら? ……うーん。でもこれってサブローが悪いっていうより世界の方が悪いわよね。サブローが悪いってわけじゃないわよね。世界とか運命の方が悪いわけよね。
はあ。
ラズリーは王都のホテルの上階でメッセージ・バードを撫でながら嘆息した。ベッドに腰掛けながらサブローを思った。……ベッドにはまだサブローのぬくもりが残っているような気がする。掃除されているからそんなことはないのだけれど。でもそんな淡い期待みたいなのを抱いてしまうのは恋心によるものだろうか? なんて。
自分で考えておいてラズリーは失笑する。これは恋心、なんて淡くて綺麗でシャボン玉みたいな感情とは違うだろう。もうすこし重い。もうすこし濁っている。もうすこし
サブローが残したメッセージ・バードの内容は以下の通りだった。
『東部にある【ヨイマイ森林】の【トトツーダンジョン】に向かうことになった。知ってると思うけどダンジョンXだ。でもダンジョンXにあるまじき高密度のマナが噴き出たらしい。ということで僕は調査隊に入れられちゃった。明日の正午には王都を立っているよ。もしこのメッセージを見たら速やかに合流すること。そして僕を助けに来ること』
メッセージ・バードから感じられるマナの残量からしてラズリーは時間を読み取る。恐らく昨日の正午に出発したのだろう。調査隊……ということは合同パーティーのような形をしているのだろうか? 間違いなくマミヤが関わっていることは明らかだ。であるならばサブローはリーダー的ポジションか。
同時にキサラギが意味深長にサブローについて語っていた理由もよく分かる。この事態を読んでいたのか。……とはいえラズリーには同時に疑問も残る。そこまで心配するような事態なのか? という点だ。
サブローは昔こそ自信に満ちあふれた子供だった。学生だった。それこそ高等学園を卒業するくらいまではとてつもない自信でラズリー達を引っ張ってくれていた。けれど十七歳から十八歳までの空白の一年間。ラズリーが【王立リムリラ魔術学園】に入学して己の魔術と魔法を極めていた一年間。
その一年間でなにがあったのか。社会の荒波に揉まれでもしたのか。サブローは途端に自信を失っているように見えた。……もちろんサブローは卑屈な性格とはすこし違う。だからみんなに対して「僕は実力がなくて……」みたいなことを漏らすことも少ない。とはいえ勝手に感じられるものはある。
サブローは自己評価が低くなっていた。
けれどサブローに確かな実力があることを疑う人は少ない。なぜならサブローはちゃんと強いから。……強い? 強いという形容は正しくないだろうか? ラズリーはひとりで考えながら首を傾げる。ベッドに腰掛けながら白い足をぷらぷらと揺らす。脳裏にサブローを思い浮かべる。サブローのかわいい笑顔を思い浮かべる。サブローの格好良い真剣な表情を思い浮かべる。
サブローは身体能力に優れているわけではない。魔術的な素養や才能にも乏しい。……それでも。
それでもサブローはサブローしか持ち得ない特別なものを持っているのだ。S級勇者に相応しいだけの、強さとは違う、特別な才能を持っているのだ。
だから……ラズリーはメッセージ・バードをリプレイさせる。そして丁寧にサブローの言葉を形の良い耳に入れていく。……サブローが「僕を助けてくれ!」と言うのはいつものことだ。自己評価が低いから。でもやっぱり話の内容を聞く限りはそこまで心配するべき内容ではないと思うのだ。
キサラギが意味深長にサブローについて語るほどでもないと思う。
ただ。ただそれでもラズリーは重い腰を持ち上げてベッドから立ち上がる。実のところラズリーはここ数日間はほとんど睡眠を取れていなかった。新たな魔術と魔法の習得に集中しすぎていたのだ。しかも完全な習得はまだ出来ていない。まだまだ未完成だし時間が掛かる。……休憩するつもりで王都に戻ってきたつもりなんだけどな。あわよくばサブローとデートでもいけるかなって思ってたのに。
虚空に肩をすくめるようにしてからラズリーは指を振った。
次の瞬間にラズリーの座標は冒険者協会の扉の前にある。
「うおっ」
「ひっ」
「きゃっ」
と声を上げるのは扉の近くにいた冒険者達だった。ラズリーは「悪いわね」とだけ言葉を残してさっさと協会の中に入ってしまう。
そして違和感を覚えるのはすぐだった。
明らかに協会内部の雰囲気が違う。いつもはどこか和気藹々としているはずなのにいまは違う。中にいるすべての協会職員・冒険者達が表情を凍り付かせている。緊張感が濃い。……いつもこういうのに気がつくのはサブローだ。あたし達はサブローに指摘されて気がつくことがほとんどだ。でも
なにかが起きている。
「っ。あれラズリーじゃないか?」
「……ラズリー。ラズリーだ。じゃあ俺達助かったんじゃないのか」
「【
「いや。サブローはいないはずだ」
「サブローは?」
「儀式とやらの阻止に向かっているらしい」
冒険者達の声は耳に入らない。ラズリーはすたすたと中央の通路を歩いて受け付けまで行く。そして慌ただしく動いている中からひとりを見つけて声を掛けた。
「マミヤ」
「来ましたか」
言葉を掛ければすぐに応答がある。打てば響く。このやりとりが気持ちよい。なによりマミヤは驚いたりしない。ラズリーが来ることを最初から読んでいたように振る舞う。実際に読んでいたか別として……だから面白い。マミヤは仕事が出来る。
「現状は?」
「説明します。奥にどうぞ」
先導され、そして二階に上がりながらにラズリーは気がついている。
自分が通されるであろう会議室に滞在している、三人の気配に。
慣れ親しんだ気配に。
いつも一緒にいる、仲間達の気配に。
――【
そして会議室の円卓には、スピカ・シラユキ・ドラゴンが既に揃っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます