19.水浴びとププムルちゃん
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【精霊の里】にある世界樹の
ロディンくんの質問っていうのはまさに怒濤という言葉が適切なほどだった。まあそれは当たり前だ。一緒に冒険をしていた幼馴染みが怪我で離脱したのだ。その怪我が癒えてまた冒険を一緒に出来るのだとしたら死に物狂いで質問を重ねてくるだろう。結果的に僕は圧倒されながらもすべての質問に答えていった。
答え終わった頃には陽は大きく傾きつつあった。空からの明かりは既に乏しい。御者台に乗っているメンバーが馬車の足下を魔術で照らすことによって
やがて馬車は夜の【ヨイマイ森林】で完全に停止した。
外に出てみるとそこは開けた場所になっていた。なるほど。たぶんフーディくんは事前に【ヨイマイ森林】の野営地となり得る場所を調べていたのだろう。
野営の準備が始まる。
マナの消費を抑えるために火はキャンプファイアーである。それに【ヨイマイ森林】の木々は良い感じに乾燥もしていた。思い返してみれば今年の夏は雨の少ない夏でもあったのだ。ということで火を
くゆる火の
さて。
「希望する者は水浴びしてくれ。南の方に下ったところに川がある。ただし時間は十分までだ。それ以上の水浴びはなにか問題が起こったとして、男女関係なく監視に向かう」
耳を澄ませてみれば確かに川の流れが聞こえるような気がする。とはいえ火の弾ける音や夜行性の鳥類の鳴き声にかき消されもする。他にもたくさんの音が鳴っている。夜風にあおられる木立の葉っぱの音。どこかで獣か魔物が歩き回っている音。
まさに夜の森って感じだな……!
ところで水浴びの提案に関して賛成を示す者はいなかった。「いやさすがにこの状況では……」というのが大半の雰囲気らしかった。まあ僕には関係ない。僕は水浴びすることに決める。これでも僕って綺麗好きな側面もあるのだ。それにそもそもお風呂が大好きだしね。
しかして水浴びを希望しているのは僕ひとりだけらしい。なんだ。男子で構成された【
まあ気にせずに僕は暗闇の【ヨイマイ森林】を歩いて河原に出た。静かに流れて行く川には渡り鳥の一種が集団で羽根を休めて眠りこけていた。僕は起こさないように気をつけながら服を脱いで川に全身を漬ける。
河原は木々に覆われていないから夜空の満天がひどく綺麗に見えた。
月も星も
……行軍で自然と熱を帯びていた身体がクールダウンしていく。その感覚は得も知れぬ快感と呼んでも良かった。僕は川に首まで浸かりながらしっかりと深呼吸をする。そうして寒気がする一歩手前まで水浴びを楽しんだ。
そして足音が聞こえたのは服を着替え終わった直後だった。
すぐに反応して僕はその方向に目を凝らす。暗闇の中で僕は人影を見つける。小柄な人影を。……恐る恐るといった様子で森から河原に出てきたのはピンク髪の少女だった。ププムルちゃんだった。
僕はすぐに気を抜く。それから言う。
「あれ。ごめん。もしかして水浴び?」
「えっ。あ。違うかもです。そのぉ……時間が経ったので」
「ああ。様子を見に来てくれたんだ? 悪いね。てっきりフーディくんとかロディンくんが見に来てくれるかと思ったんだけど」
「あ。その。【
「ああ。なるほどね」
ロディンくんがフーディくんに話したのだろう。幼馴染みの怪我を治せるかもしれない方法を。それで【
まあ幼馴染みなのだからそれも頷けるか。僕たち【
僕はリュックから繊維製の布を取り出して髪の水気を払う。それから言う。
「ププムルちゃんも水浴びする? かなり気持ちよかったよ」
「えっ。いやぁ。さすがに。その。私にそこまでの度胸はないかもです」
「そうかな。度胸とかは必要ないと思うけど。……それに結構、これはもしかすると失礼かもしれないけど、似てると思うんだよね」
「似てる、ですか?」
「僕とププムルちゃん、似てると思うんだよね」
僕は自称純度百パーセントの笑顔をもって言う。でもププムルちゃんの反応っていうのは
ププムルちゃんはそれからなにか言おうとしていきなり
「そ、そんなの恐れ多いかもです! 私なんか全然っ、みんなに支えられてばっかりで自分に自信もないですし……。勇者になったのもみんなのお陰ですし。サブローさんみたいに強くもないかもですっ。私なんて」
「うーん。似てる似てる。すごく似てる」
「似てなんかないかもですっ! ……いやその、嬉しい? いや。嬉しいっていうかそのぉ、やっぱり恐れ多いかもです! やめてください!」
「仲良くなれそうだね。今後ともよろしく」
うんうん。僕は同族を見つけた気分になって嬉しくて自然と笑顔になってしまう。
ただ。
僕は本当に実力がないけれどププムルちゃんはどうだろう? なにせ僕は師匠のお墨付きなのだ。既に隠居しているがかつて王国で名を馳せていたキサラギ師匠お墨付きの、実力のなさなのです。
かつてキサラギ師匠は子供時代の僕に言った。
『――うん。理解したよ。分析も完了した。……これから残酷なことを告げよう。たぶん、きみには冒険者としての才能はないだろう。魔術的な素養もない。戦闘に関しても
いま思い出してみても当時のキサラギ師匠の瞳ってのは凍り付くように冷たかった。まったく。当時十歳そこらだった子供に向けていい視線でもなかったぞ。あの師匠め……。
僕は大きく鼻から息を吐き出す。
僕とププムルちゃんは河原を離れて野営地へと戻る過程にあった。
そして僕は言った。
「ちなみにププムルちゃん、経歴って教えてもらえるかな?」
「経歴ですか?」
「うん。ちょっと気になるんだよ」
僕は本当に実力がなくて自信がないタイプ。
ならププムルちゃんはどうなのだろう……?
僕にはどうもププムルちゃんが弱いとは思えないのだ。
自信のなさは別のところから来ている気がしてならないのだ。
そして僕の質問に、ププムルちゃんは遠慮がちに答えた。
「……あの。その。実を言うと私、【王立リムリラ魔術学園】の卒業生ではあるかもです」
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