8.三人の勇者
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【
僕は二つのパーティーの名前をマミヤさんから聞いてピンとくるものがあった。けれどそのピンはまだピコーン! という感じではなかった。けれど実際に彼らの姿を視界に収めてピコーン! ああ彼らが有名な新興パーティーかと手のひらを合わせたくなる。
僕はこの一年間【
ということで僕はまったく【ライネルラ王国】のことを知らない立場にあったわけだ。とはいえなんの報告も入っていなかったわけではない。メッセージ・バードによって月に一度は近況報告が送られていたからだ。
送り主はマミヤさんである。当然のように硬い内容が主であった。だがその文章の中には最近勢いのあるパーティーの名前も記載されていたのだ。
そのパーティーの名前が――【
なるほどいま彼らが僕の前に集められた理由も分かるっていうものだ。それはマミヤさんの期待の表れなのだろう。
さて。
どこか気まずい妙な沈黙の中で僕は言う。
「うん。話は分かった。ダンジョンXの調査にこの二つのパーティーと僕で行くってことだね? なるほどなるほど」
「ええ。話が早くて何よりです。そしてリーダーはサブローさんで。S級勇者として指揮を執ってもらいます」
「うん。マミヤさんの言うことも分かる。でも僕は反対かな」
「……はい?」
「僕がリーダーをする必要もないんじゃないかな? って思うよ。かなり有望株のパーティーみたいだしね。それに見た限り、みんな実力がある。だから普通に僕抜きで行った方がうまく回ると思うよ。ちなみにこれは怠けとか面倒とかではなく、わりと本気で言っている」
「……え」
と。
か細く声を上げたのはマミヤさんではない。マミヤさんの近くの椅子に座っているひとりの少女だ。……いや。よくよく見てみれば少女という年齢ではないか。二十歳過ぎ。しかし僕よりも年下であることは分かる。
少女と見間違えてしまうのは彼女が童顔だからだ。それにどこか縮こまっているような気配もある。なんとなくの性格も掴めてしまう。臆病なのか警戒心が強いのか。
しかし――僕は少女ではなく少女の周りにいる人達を眺める。恐らくは少女と同じパーティーのメンバー達だ。それからまた少女を見つめた。
そして意外に思いながらも言う。
「あ、リーダーなのかな、君。どっちだろ。雰囲気的には【
「っ、あ! そうかもです。あの。【
「ププムルちゃんか。うん。勇者ね。なるほど。じゃあ【
「俺だ。名はフーディ」
探そうと思ったところに声が掛かって振り向く。そうすればこちらも年若い威勢の良さそうな少年が足を組んで椅子に座っていた。こちらはププムルちゃんよりは下だろうか。二十歳くらいかな。うん。ちゃんと見れば大抵のことは分かるってものだ。
さて。僕はふたりの姿を交互に見つめる。
ピンクの髪の毛を肩ほどまでに伸ばした気の弱そうなププムルちゃんが【
そして朝一番のブルーに染まった空みたいな髪を短く整えた気の強そうなフーディくんが【
やっぱり僕は要らないだろうな。邪魔になるだけだ。
「ということで、サブローさんにはこちらの二パーティーを率いてもらいます」
「ん? あれ。マミヤさん。僕の言葉は聞こえてなかった?」
「サブローさんにはこちらの二パーティーを率いてもらいます」
「壊れたふりしてもダメだよ。たぶん僕が出る幕はどこにもないっていうか、変に異物を入れるよりは元々パーティーとして纏まっていた人達で行った方がいいよ」
「サブローさんにはこちらの二パーティーを率いてもらいます」
「マミヤさん。これは冒険者としての真面目な意見だ」
なんなら僕は合同パーティーというのも反対派閥なのだ。【
「……ええ。まあ。サブローさんの意見も分かります。サブローさんが自分を過小評価しているという点も理解しています。その上で頼んでいるんです。お願いしますと」
「お願いは分かるけど、悪手だと目に見えている手を指したくはないよ。僕だって」
「私は悪手だとは思いません。むしろ最善手です。サブローさんが率いるというのは」
「うーん。微妙だ」
「それに、分かってるんですか? 【
「それは分かっているけどさ。……分かった。だとしてもリーダーに僕を据えるというのは反対だな。ねえ。君たちも納得いかないでしょう? むしろ自分たちで纏まった方が統率が取れて、結果的に上手くいくことも多いし」
問いかけるようにププムルちゃんとフーディくんに顔を向ける。僕は頷かれることを期待していた。しかし二人の反応は両極端だ。
「いえその、私は賛成かもです」
「俺は反対だな。合同で組むにしても、リーダーは俺がやる」
うんうん。僕はフーディくんの威勢の良さに感心するように頷く。ププムルちゃんに関しては自分に自信がないゆえの賛成だろうと捉えておく。なにせ僕もププムルちゃんと同じだ。自分に自信がないからね。率いてもらった方が楽だ。
それで今度はリーダーではなくパーティーメンバーに僕は顔を向ける。【
とはいえ返事が返ってくることはない。気まずそうに視線を逸らされたり苦笑を返されたりするだけだ。なるほど。リーダーであるププムルちゃんとフーディくんの判断に任せるということだろうか? ならばそれも良し。リーダーに絶対に信頼を置いているというのは良いパーティーの条件でもあるからね。
僕はマミヤさんに視線を戻す。そして言う。
「ごらんの通りだ。意見は割れている。そして意見が割れている以上、僕がリーダーの立ち位置には居られないよ」
「いいえ。それはサブローさんの判断基準によるものでしょう。たとえ意見が割れていたとして、リーダーを務めない理由はありません」
「僕がリーダーをするべきじゃないと言っているんだよ、マミヤさん」
「……分かりました」
「分かってくれた?」
「引率という表現はやめましょう」
「……表現とかの問題じゃないと思うんだけど」
「彼らを率いなくていいです。ただ、後ろから付いていってください。それならどうですか?」
それってなにか変わるの? と僕は表情で問いかけるけれどマミヤさんはなにも答えない。しかしまあフーディくんは僕と同じ反対派閥だしなにかしら文句を垂れてくれるだろう。と考えながら顔を向ければフーディくんはなぜか頷いていた。
「ああ。それならいい。リーダーが俺なら、付いてくることも許可する」
……マジで言ってるのかな? これ。
僕は結構本気なんだけどな。既に完成されているパーティーに異物が混入するのは良くないと思っている派なんだけどな。みんなは違うのかな? 僕の考えっていうのは【
僕はまたマミヤさんに視線を戻す。するとマミヤさんはどこか威圧的な雰囲気を醸しながら僕を上目遣いに捉えてくる。……ああ。知っている。僕はこの目を知っている。絶対に引かないという意思があるときのマミヤさんの視線である。
――後ろから付いていくだけ。
僕はマミヤさんの代替案の妥当性を考える。考えてから頷く。それに、まあしょうがない。もしも勇者に役目があるのだとしたら責任を取る立場に回るというのも役目の一つだろうから。
最終的に僕は頷いて言った。
「分かった。でも出発前に、とりあえず三人で話したいかな。作戦会議じみたもんだね」
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