第22話 襲撃1


 先頭を切ってルーナの部屋に突入したペイスは片手に持っているランプで真っ暗な部屋を照らす。

 他に灯の一つもない部屋は真っ暗だ。風を受けて揺れているカーテン。床に飛び散った窓ガラス。そしてベッドの方に目をやると、ルーナの枕元に立つ黒い人影に目がつく。


「!?」


 黒ローブを纏っている人物は顔を見られないようにフードで隠している。


「おい、お前、何をしている!」


 叫びつつペイスとリアムは黒ローブの元に急ぐ。だが男はこちらを一瞥だけして、それに構わず寝ているルーナに向かって腕を振り下ろすような動作をした。


 まずい……間に合わない。


 リアムがそう思った、その時、視線の先ではペイスが剣で凶器を握る男に斬りかかっていた。

 ペイスの移動速度は極めて速い。一瞬で男の下までたどり着いた。リアムを魔物の攻撃から庇うことが出来たのもその反射速度ゆえだ。


 あっという間に侵入者との間合いを詰める。黒ローブは慌てて短刀でそれを受け止める。リアムも遅れてそれに加勢。


「チッ、分が悪いか」

「!?」


 侵入者はそう言ってあろうことか突然、短刀を向けてペイス達の方に向かって突っ込んできた。

 二人は相手を迎え討とうと身構える。


「えつ……」


 だが黒ローブはその横をすり抜けてガラスの割れた窓へと向かった。肩透かしを喰らう二人。黒ローブは自らの不利を察して逃走を図ったようだ。


「まっ、待てっ!」


 とっさに追いかけようとしたが、敵のまさかの動きに出遅れてしまう。


 間に合わない……。


 そう思ったその時、ペイスの横を白い光が突き抜けた。それは黒ローブの右肩辺りに突き刺さり貫通。


「あああああっ!」


 絶叫。痛みに悶えつつ男は倒れ込む。


「えっ……」

「っ……これは一体……」


 騎士コンビは突然の事に何が起きたか分からないといった様子。その時、ベッドの方から声がした。


「ペイス隊長。その男を殺さずに捕らえて下さい」


――ルーナだった。


「殿下……」


 振り返るとルーナがベッドの上で半身を上げていた。さっきの白い光の矢はルーナの魔法だったと今になって理解した。相手は防具をしていたはずだがそれを貫通するとは恐ろしい威力だ。恐らくは銃弾以上の殺傷力。


「は、はっ!」


 二人がかりで黒ローブを拘束する。ルーナの放った一撃によって男はほとんど抵抗することも叶わないようだ。大して苦も無く取り押さえる事が出来る。すると、ルーナげもぞもぞとベッドから出てきた。

 さっきは暗くて見えなかったが、男が床に落とした短刀の刃先はよく分からない液体でべっとり黒く塗られていた。恐らくは毒の類いだ。明らかな暗殺未遂である。

 そこでペイスが 申し出る。


「殿下、こちらに来ないで下さい。危険です。この男の対処は私どもの方でやりますから」

「……いえ、それには及びませんよ、ペイス隊長」


 ルーナはペイスの進言も意に介さず、こちらにゆっくり歩み寄ってくる。そして、黒ローブに向き直って問うた。


「どこの人間ですか?」

「…………」


 男は歯を食いしばるような表情をするばかりだ。意地でも答えないつもりなのだろう。


「……無視ですか? 悲しいですね」


 ルーナは言葉とは裏腹にニコニコと満面の笑みを浮かべる。そして手のひらを黒ローブに再び向けると、光の矢が放たれ男の左足太ももに着弾。既に真っ赤に染まった絨毯を上塗りするように血が広がっていく。


「ぎゃあああっ!」

「早く答えてください。次は左腕ですよ」


 ルーナは笑顔を崩さずに黒ローブを見下ろしてそう言った。これには新人リアムは王女様の放つ殺気に背筋を凍らせ俯くことしか出来ない。王女殿下、容赦なさすぎる、と。


「い、言い、ます、から、も、う止めて下さい……」


 最初は絶対に吐かないと頑なだった黒ローブも気力が尽きたのか白状する。その様子はあまりにも痛々しい。新人リアムはこの惨状から目を背けたくてたまらなかった。


「早く言って下さい」

「だ……む……」

「何ですか? 聞こえないですよ?」

「ああああああっ!」


 男の指が魔法で切り落とされた。


「だ、ダム、ド帝国の特殊部隊出身の……」


 黒ローブはひゅうひゅうと漏らすような呼吸をしつつ、痛みに耐えながら必死に言葉を紡ぐ。


「そうですか。もう結構です」


 だが、目の前の女は冷酷だった。お前に興味はないと言わんばかりの無関心な口調。

 そして手を横薙ぎに振るうと、今度は鎌の刃のような形状の光が怯えて震えている黒ローブのちょうど喉仏辺りに直撃。


 男の首がスパッと切れて、血の海の中をゴロゴロと転がった。


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