第7話 メイドのシアン1


 シアンさん、ルーナ、俺の順で薄暗い地下空間を移動する。


 ほとんど外部の光の入らないこの場所ではシアンさんの持つランプの灯だけが頼りだ。


 通路を挟む形で俺の入れられていた牢の他にも十数の牢があったが、見る限り俺以外に収容されている人間はいないようだ。


「……俺の他に誰も入ってないのか?」

「ん? ああ。ここは主に表沙汰に出来ないような人間の為に使う場所だから、普段は使わないわよ。普通の罪人が収容される牢屋は市中にあるわ」


 なるほど。恐らくは都合の悪い人間を収容して幽閉もしくは始末するための場所だと察する。そんな所に入れられていたとは恐ろしい……。通りで看守も、何もいない訳である。


 石造りの階段を登る。これがなかなか急で足腰にくる。


「!?」


 ふと上を見ると、なんとルーナのスカートの中があと少しで見えそうだった。


 マジかよ! 大チャンス!


 ここぞとばかりに俺は少し腰をかがめ低姿勢でゆっくり歩き出す。

 本当はシアンさんの方が良かったがこの際ルーナでもいい。ヒロインだけあってコイツの容姿はいいからな。


 この糞女にはここ数日ろくな目に合わされてないが、せめて今夜のオカズくらいはゲットさせてもらうぞ!


 生パンツ来い。食い込み来い。スジ来い。


 念仏のように心の中で念じつつ必死で凝視。


 ルーナが一段一段と階段を登る度に丈の短いスカートがヒラリヒラリと揺れて健康的な太ももが見え隠れ。


「っ……」


 王女のくせにこんな短いスカート履いていいのかよ。なんて扇情的なんだ!


 さすがエロゲヒロインだ。けしからん。もっとやれ。


 あとちょっと。見えそうで絶妙に見えないのがもどかしい。


 くそう……。


 結局、奮闘も虚しくパンツを拝むことは叶わないまま階段を登りきってしまった。


 どっと疲れが押し寄せてうなだれる。


「それじゃあ、シアン。こいつを頼むわ。私は部屋に戻ってるから」


 ルーナはそう言い残してその場を去った。


*


 俺はルーナと別れてシアンさんに連れられ屋敷の中を歩く。


「うわあ……すげえ……」


 さすが王宮。豪華絢爛だ。思わず感嘆の声を漏らしてしまう。それこそ一度テレビ番組で見たフランスはベルサイユ宮殿のような感じだった。

 目を見張る美しさであることは間違いは無いのだが、一般家庭に生まれ育った俺には少々落ち着かない空間。


 俺たちはしばらく王宮の歩いて使用人の寮へと向かった。シアンさん曰く、王城には王家の人間の居住する区画や公務のための区画に合わせて、住み込みで働く使用人のための寮も併設されているという。


「こちらです」


 自分の姿を誰かに見られているのではないかと気が気でなかった。だが、昼間ということもあり使用人は仕事に出ていたようでその心配は杞憂に終わった。


「…………」


  前方を歩くシアンさんの形のいい尻をここぞとばかりに視姦させていただく。


 う~ん、なんてエッチなんだ……。


 幸い邪魔なルーナは消えた。今なら見放題だ。


 長い廊下の突き当たりまで来てシアンさんが立ち止まった。


「こちらが浴場になります」


 シアンさんは扉を開けると俺に先に中に入るように無言で促す。


 誘導されるがまましずしずと浴室に入ろうとしたその瞬間――


「うえっ!」


 俺は突然後ろから物凄い力でシャツを引っ張られた。反射的に後ろに倒れまいと重心を前に移動させる。だが、今度は俺の首を引っ張っていた力が突然失われ、バタンと床に倒れてしまった。


 痛い……誰がこんなことを……。


 いや、考えるまでも無い。今の状況を考えれば一人しかいない――シアンさんだ。


 背中に重みがのしかかる。彼女が床にうつ伏せになっている俺の背に乗りかかって拘束しているようで俺は一切の身動きが取れない。


 ギラリと光を反射する何かが視界の横から伸びてくる――ナイフだ。


「ひっ……」


 シアンさんの様子を確認しようと首を少しひねる。そこには相変わらずの無表情のまま、俺の首筋にナイフの刃を当てがう彼女の姿があった。


 一介の男子高校生に過ぎない俺は彼女の一連の襲撃に反応する事も叶わなかった。


 俺がそんなことを考えていると――


「!?」


 シアンさんが、軽く刃を首い押し当てて来たのだ。よく研がれたナイフだった。液体が首を滴るのが分かった。


 恐怖のあまり硬直する。動いた瞬間に、喋った瞬間に、自分は首を失うだろう、と本能が理解した。


「動くな」


 俺は何とか現状を打開するために頭を巡らせないといけない。力が無いのならば言葉で自分の身を守るべき。そのはずなのだが、今この時、俺の思考を妨げる重要な問題にぶつかっていた。


――拘束するために俺に乗りかかったシアンさんは意図せず密着状態になっていたのだ。


 ああ…背中が温かい。ルーナもスカートの中はパンツだったからシアンさんも多分パンツだろう。


 つまり布越しに目の前の美人メイドの股ぐらと俺は接触してしまっているということ。この温もりはシアンさんの温もり。


 ああ、もう、くそう。興奮してきた。もう何も考えられない。俺の愚息も戦闘状態になってしまうじゃないか。


 危機的な状況とは場違いの邪な考えに脳が支配されていた。エロい妄想が湯水がごとく沸いてきて、俺の思考を邪魔をする。童貞のエロへの耐性のなさを舐めてはいけない。


 いかん、いかん。何やってるんだ、俺は。自分の身の危険がすぐそこまで迫ってるんだぞ。ちゃんと真面目に考えろよ。


 俺が何とか自分を震い立たそうとしていると、シアンさんが口を開いた。




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