第23話 天上界13日目 その1 そもそも俺は転生に値する人間なのでしょうか?
「有島さま、お休みのところ大変恐縮ですが、そろそろお目覚めいただけないでしょうか」
あれ、モニア様、なんか態度がとても事務的なんだけど。
もしかして、ふたりの仲って深まるどころか離れてしまったのだろうか。
おかしいな。ここまで真摯に話し合いを重ねてきたはずなんだけど。
「あの、モニア様、俺に何か落ち度がありましたでしょうか?」
「落ち度以外に何があったか教えていただきたいわ」
「俺はいい転生がしたくて希望を述べただけなんですけど」
「ならば物語うんぬんって言って、私にいろんな格好をさせたのは何だったの?」
「それは俺のモチベーションの問題で」
「私のモチベーションは下がる一方なんですけどね」
「面目ございません」
「さ、残った問題を片付けてしまいましょう。あとは魔法くらいでしたね。ちゃっちゃと進めて、今日中に転生を済ませてしまいますよ」
おかしいなあ。これまでふたりの共同作業を積み上げてきたはずなんだけど。
俺のモチベーションも落ちてきたかもしれない。
「あの、モニア様、俺なんかが転生させてもらってよいのでしょうか」
「いきなりどうしたの?」
「いえ、そもそも俺は転生に値する人間なのでしょうか?」
あ、距離を取り過ぎたかしら。
「そんな風に思うことはないわ。あなたは転生にふさわしいと判断されたから、転生者に選ばれたのだから」
「そのふさわしいって、どんな基準なんでしょうか?」
「あなたたちの世界は、創造担当の神が作っていて、作りっぱなしではなく、それぞれの世界の発展をちゃんとチェックしているって言ったわよね」
「創造担当も大変ですよね」
「そうなのよ。基本的には、その世界はその世界で生まれた人間に任せているのだけど、ときどき、『この世界にこういう人材がいればなあ』って思うときがあるの」
「俺がいた部署でもそういうことはよくありましたね」
「なので、創造担当は『ほしい人材リスト』というのを作っておくのね」
「じゃあ、そのリストに合う人材を転生させるんですか」
「そんな簡単なものではないわ。圭ちゃんのときに言ったけど、生きている人間を無理矢理引っ張ってくることはできないの。かと言って、ある世界でほしい人材がタイムリーに他の世界で亡くなるわけじゃないし」
「それはそうですよね」
「なので、すべての世界で亡くなった方のなかから、転生担当の上層部で、これはという人材を選んで『転生リスト』に載せるわけ」
あれ、あまりこいつを神の世界に立ち入らせたくなかったのに、あんまり寂しそうだからしゃべってしまっているわ。
「それはどうやって選んでいるのですか?」
「残念だけど、私にはわからないわ。転生者選定会議に出席できるのは課長以上だから」
「じゃあ、俺が選ばれた理由はモニア様にもわからないんですね。あ、もしかしたらあみだくじとか」
「あみだくじ好きねえ。そんな訳ないわ。だってよい人材を選ばないと、今度は選定会議メンバーの責任になるからね」
「でも、俺なんかが選ばれて、選ばれなかった人に申し訳ないです」
「転生させられる人数にはどうしても限りがあるから、それは仕方ないわ。そう思ったら、転生先で頑張って向こうの人たちを幸せにしてあげなさいな」
「いったい俺に何ができるのでしょうか?」
「そうね、あなたがここに来てからすっかりテンポを乱されてしまって、いつも通りの転生プロセスを踏めなかったけど、本来はそういう所から話を始めるの」
やっと普段の神務ができそうだわ。
こうやって、その人に何ができて、何をやりたいかを聞くの。
それに加えて人柄を見定めて、どんぴしゃとまではいかなくても、『ほしい人材リスト』と照らし合わせて、その人の転生先を決めるの。
それが転生担当の腕の見せ所なんだけど、やっとその時が来たようだわ。
ここまで長かったわ。
「さ、あなたは自分で何ができると思う?」
そう言われても、俺はいったい何ができるのだろう。
勉強はできた。いや、勉強しかできなかったというのが正しいか。
敷かれたレールという表現をよく見るが、それは正確ではない。
一応自分で選んだつもりの道で、大学に入り、卒業後は中央官庁に入った。
世間的に見れば、恵まれた環境、経歴だろう。
だけど、それは元いた世界でのことだ。そんな経歴が異世界で何の役に立つというのだろうか。
「勉強くらいしかできませんが、それが異世界で役に立ちますかね」
「勉強というのは、何もしないでできるようになるものではないでしょ。勉強ができるということは、努力ができるということね。誇ってよいわ」
「でも、努力ができますというのは、あまりにもザックリとし過ぎていますよね」
「じゃあ、質問を変えるわ。あなたはこれまで、そうねえ、例えばお役所で何をやってきたの?」
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