第16話 天上界9日目 その3 モニア様を殺してあたしもお兄ちゃんの後を追う!

 モニア様が光を浴びせた瞬間、お兄ちゃんの姿が消えた。

「モニア様、お兄ちゃんをどうしたのですか。どこかの異世界に飛ばした……まさか、魂を消失させたんじゃないんですよね!」

 あたしはモニア様に詰め寄った。

 もしお兄ちゃんの魂を消滅させたんだったら、神様であっても絶対に許さない!

 モニア様を殺してあたしもお兄ちゃんの後を追う!


「圭ちゃん、何か物騒なこと考えていない? 落ち着いて。太郎さんには、気が付いたら私の名前を呼んでって言ったでしょ。まあ見ていて」

 モニア様はそう言って、耳を澄ませて何か遠くの声を聞くようなポーズを取った。

「よし、今ね!」 

 そして、さっきまでお兄ちゃんがいた場所に向けて両手を伸ばし、何もない空間に光を浴びせた。

 光が消えたら、そこにポカンとした顔をしたお兄ちゃんが立っていた。


 モニア様も圭もいなくなったと思ったら、俺は一瞬気を失った。

 気が付いたら、俺は見渡す限り一面の荒野にいた。

 草の一本も生えていない、荒涼とした世界。

 大地は乾ききっていて、命というものの存在が一切感じられない、言わば死の世界。

 どうやら俺は天上界からここに飛ばされたようだ。

 これが転生というものなのか、それとも地獄にでも落とされたのか。


 もしここが俺の転生先なのだとしたら、水も食べ物のない世界で、どうやって生きていけと言うのだ。

 おそらく一日二日で、干からびて死んでしまうだろう。 

 こんなところに俺を飛ばしたモニア様に文句を……ああ、そう言えば、モニア様、気が付いたらモニア様の名前を呼べって言っていたな。

 よくわからないけど、とりあえず呼んでみよう。


「モニア様! モニア様!」

 そう呼んだ瞬間、再び俺の全身が、空から降ってきた光に包まれた。

 そして気が付いたら、元の天上界に戻っていた。


「実験成功よ。おかえりなさい、太郎さん」

「お兄ちゃん、戻れてよかった! よかった!」

 圭が泣きながら俺に飛びついてきた。

「よしよし、圭。それで、モニア様、これはどういうことです?」

 圭の頭をなでながら、俺はモニア様にそう尋ねた。


「あなたを一度、第六五〇世界に転生させて、すぐに天上界に戻したのよ」

「転生って、何もない世界でしたよ」

「だからそこを選んだのよ。人間がたくさんいる世界に飛ばして、すぐに戻したら、向こうの人が驚くかもしれないでしょう。第六五〇世界は世界作りに失敗して、ゼロからやり直すことにしたばかりだから都合がよかったの」

「だから草の一本も生えていなかったんですね」

「そうよ。まっさらな世界だったでしょ」


「あそこが俺の転生先かと一瞬思ってしまいましたよ。で、すぐに俺を戻したのはどういうことですか? いや、戻してもらってよかったのですが」

「それが実験なのよ。前に再転生はできないって言ったことがあるわね。あれは正確にはできないんじゃなくて、やらないことになっているの」

「どうしてですか?」

「だって、転生に失敗したら再転生できるって思ったら、転生者が転生先でしっかり働かないでしょ」


「確かに、イヤになったらまた転生させてもらえばいいやって、思うかもしれませんね」

「そうよ。こっちも何度も転生させるのは面倒でかなわないわ」

「それはわかりますが、それで、実験というのは?」

「再転生させるには、いったん転生者を天上界に戻す必要があるのだけれど、天上界に戻すことは実際には私はやったことがないから、やってみたわけ」

「実験が失敗したらどうするつもりだったんですか、モニア様!」

 泣き止んだ圭がモニア様に抗議した。よく言った、圭。

「大丈夫よ。研修で一回やって成功しているから」

 モニア様が豊かな胸を張った。


 思わずお胸を凝視しかけたが、圭が鋭い視線を飛ばしてきたので、俺は慌てて言った。

「モ、モニア様、これで実験は終わりですか」

「いいえ、最後にもうひとつあるわ。でも、これはちょっと難しいかもしれないので、私も力を貯めないといけいないわね。なので、続きはまた明日!」

「いや、モニア様、今日やってしまいましょうよ」

 俺は、昨日圭に責め続けられたことを思い出して言った。


「いや、モニア様、また明日にしましょう。お疲れさま!」

 圭は、昨日俺を責め続けたことを思い出したのかそう言った。

「あ、そうそう。圭ちゃんにはいったん人間界に戻ってもらうわ。お父様お母様が心配するでしょうからね」

「モニア様! 私は大丈夫……」

 そう言いかけた圭にモニア様は光を浴びせ、圭の姿が消えた。

「成功ね。明日の朝、圭ちゃんをこっちに呼ぶのを忘れないでね。また圭ちゃんに添い寝してほしいからと言って、早くに呼んではだめよ」

 

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