第15話 天上界9日目 その2 あたしに抱きついて来るのが普通じゃないの
気が付いたら、あたしは自分の部屋のベッドの上にいた。
「圭、圭、よかった。目が覚めたのね」
ママが涙を流しながらそう言った。
「圭、本当に心配したぞ。よかった、目が覚めて」
パパも目に涙を浮かべてそう言った。
「あたし、どうしたの?」
「丸一日眠っていたのよ。最初は、お兄ちゃんが死んじゃって圭も疲れが溜まっていたのかなって思っていたんだけど、全然起きないから心配で心配で」
「これはお医者さんを呼ばないといけないかと、母さんと話をしていたんだよ」
ママとパパが代わる代わる言った。
「あたしは大丈夫よ、ママ、パパ。そう、疲れていたのよ。だから心配しないで。でも、疲れているのは確かだから、もう少し寝かせて」
「わかったわ。じゃあ、ゆっくり休んでね」
ママがそう言って、パパと一緒に部屋を出て行った。
天上界って言ったっけ、あそこにいる間、本当にあたしは眠っていたんだ。
お兄ちゃんに会えたのは嬉しかったけど、ママとパパ、そんなに心配してたんだ。
あたしがずっと眠ったままだったら、友だちも心配するだろうし、やっぱりお兄ちゃんと一緒に転生はできないかな。
お兄ちゃんが本当は死んじゃったのではないってことがわかっただけで、いいのかもしれない。
あとはモニア様に任せて、任せて……
あれ、モニア様、いい方法がないか考えてみるって、結局どうなったんだろう。
とりあえず、もう一回お兄ちゃんと会って、あとはそれから考えよう。
「で、モニア様、圭を呼ぶにはどうしたらいいんですか」
「知らないわよ。圭ちゃんに会いたいって念じればいいんじゃないですか」
実験しようと言い出したのはモニア様なのに、無責任な。
でも俺は、さっきの圭のぬくもりを思い出して、また会いたいと会いたいと目を閉じて念じてみた。
で、目を開けてみたが、圭は現われない。
「モニア様、実験失敗したんじゃないですか?」
「圭ちゃんの気持ちの問題かもしれないわね」
「と言いますと?」
「圭ちゃんは生きているから、こっちから呼ぶだけでは力が足りないのかもしれないわね。つまり、圭ちゃんにもあなたに会いたいって気持ちがないと、ダメなのかもね」
そうだよな。圭だって向こうに友だちはいるし、親父とお袋もいるからな。
「元の世界に戻ったら、もうこっちに戻って来たくなくなったのかもしれないですね」
「でも、それじゃ私が困る、じゃなくて、あなたも寂しいでしょうから、圭ちゃんがそういう気持ちになるまで、何度か試してみてはどうかしら」
じゃあ、目を閉じてもう一回。
圭にまた会いたいまた会いたい。
そして、目を開けたら、圭がいた。
「実験成功ね、圭ちゃん、太郎さん」
さっきと同じパジャマ姿の圭だ。
「戻って来て早々で悪いけど、圭ちゃん、こっちに戻ろうかどうか迷わなかった?」
「はい、モニア様、さすが神様ですね。やっぱりママとパパの顔を見たら悩んでしまいました」
「やっぱりそうね。ということは……」
モニア様の言葉を遮って、圭が俺に向かって言った。
「で、お兄ちゃん、私が戻って来たというのに、その態度は何?」
いや、態度も何も、モニア様が言っていたとおり、俺が圭に会いたいって思って、多分圭も俺に会いたいと思って、それで圭がまた現われたことに驚いているんですけど。
「『圭、おまえが戻ってこなかったら、お兄ちゃんどうしようって思っていたんだ』と言って、あたしに抱きついて来るのが普通じゃないの」
圭、お兄ちゃん離れはどこに行った?
「いや、おまえこそ、『またお兄ちゃんに会えなかったら、あたしはどうしようって思っていたの』って、飛びついて来るもんじゃないのか。」
「な、なんであたしがそんなことをしないといけないのよ!」
「あのね、おふたりさん、私のことを無視してもらっては困るのだけど」
モニア様、最近冷ややかな目が多いな。
何度見てもゾクゾクするけど。
「これで太郎さんに、圭ちゃんを天上界に呼ぶ力があるのはわかったわ。圭ちゃんの助けが必要だけど」
「あたしの助けですか?」
「そう、圭ちゃんにも、太郎さんに会いたいって気持ちがないとダメね」
「え、あ、はい」
圭、お兄ちゃんは嬉しいぞ。
「さて、次の実験に移るわよ」
「まだあるんですか。ていうか、モニア様、本当に何を考えているんですか」
「実験が成功したら言うわ。人間相手に、それもまだ生きている圭ちゃんもいる前で、軽々しいことは言えませんからね」
「そんなにもったいぶらないでくださいよ。じゃあ次は何をするんですか。あんまり圭に負担をかけないでやってくださいね」
「わかっているわよ。今度はあなたの番よ。さて、どこにしようかしら」
モニア様はそう言って、どこからか取り出したリストをめくり始めた。
「最近作り直した世界は……ここかな、第六五〇世界がいいわね。ひとつだけ覚えておいて。これからどこへ行ったとしても、気が付いたら私の名前を呼んでね。じゃあ、行くわよ。さあ、新しい世界に旅立ちなさい!」
そう言ってモニア様は両手のひらを俺に向けて、今度は俺に光を浴びせた。
「えっ、俺をどうするん……」
俺が言い終わる前に全身が光に包まれた。
そして、次の瞬間、モニア様も圭も俺の前から消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます