温もり……。

「さむっ……」


布団も被らずに裸で寝てたら寒いに決まっている。

目覚めた私は、パジャマを着てリビングに行く。


「もう行くの?」

「じゃあ……」


知典は、とっくに起きていた。

その目は、私をまだ許していないようだった。


「いってらっしゃい……」


小さく呟いてキッチンに行く。

このまま、知典と一緒にいれるのかな?

胸が苦しくて堪らない。


「嫌いになれたら良かったのに……」


胸に残る愛に押し潰される。


ブブッ……。


【今日、会えませんか?】


諒哉さんからのメッセージが心に染みていく。


ブブッ……。


【実は、俺も……。最後のアドバイスに失敗しました。あの日の場所で待ってます】


最後のアドバイス……。

諒哉さんも私と同じぐらい。

今、傷ついてる。


急いで服を着替える。

タンスの中にあった高級な下着。

使う事はないのなんてわかってる。

でも……。

香水までふって。

モコモコの部屋着まで、バックにつめて……。

私は、いったい何をしたいの?


それでも、今は諒哉さんに会いたい。

会って、話をしたい。

誰かと今の気持ちを分かち合いたい。

それだけで、救われる。


ただ……。

今は、ただ温もりが欲しい。


私は、急いで諒哉さんの元に向かう。

辛いなら……。

悲しいなら……。

傍にいてあげたい。

だって、諒哉さんは初めて出来た同士だから……。


「はぁ、はぁ、はぁ。遅くなりました」

「乃愛さん……。そんなに急がなくても大丈夫ですよ」

「そ、そうですよね」


急いでやってきた自分が馬鹿みたいだと思った。

諒哉さんの隣に座る。


「その荷物……?」

「今日は、家に帰るのをやめようと思ってるんです。あれ?乃愛さんも……ですか?」

「あっ……はい」

「それなら、一緒に泊まりますか?……なーーんてね。気にしないで下さい」


ハッキリと傷つきたくないから、諒哉さんは冗談だよって笑った。

その瞳が悲しそうで……。

今までどれだけ、傷つけられてきたのだろう?

私と同じで酷い言葉を、たくさん言われたのではないだろうか。


「無理に笑わないで大丈夫ですよ。せっかく何で、そうします」

「乃愛さん……」

「辛い時は、一人でいるより誰かといる方がいいじゃないですか。行きましょうか?」

「そうですよね」


諒哉さんと私は、ベンチから立ち上がり歩き出す。

向かったのは、三駅先にあるホテル街。

私達は、人の目を避けるように部屋に入る。


「これなら、ソファーで寝れそうです」


諒哉さんは、私を安心させようとわざわざソファーが大きい部屋を選んでくれた。

何も答えられずに私は微笑む。


「飲みませんか?諒哉さんがよければ?」

「そうですね。ここは、フードも充実してますからね」

「カラオケもありますよ」


私達は、昼間からホテルのお酒を飲む。

頼んだフードがやってきて、カラオケまで始めた。


全部……。

全部……。

全部……。

忘れてしまいたかった。


「ご、ごめんなさい」

「大丈夫ですか?」


結婚式で使った曲のバラードが、カラオケが終わると突然流れてきた。


「有線に切り替わったのかな?切りましょうか?」

「大丈夫です……本当に……」


優しくされると胸が苦しくなる。

優しくされる事を忘れてたからかな?


「ハンカチ……あっ、ティッシュの方がいいですよね」


立ち上がろうとした諒哉さんの腕を掴んでしまう。


「そんなに……私は魅力がないのでしょうか?」


関係ないのに……。

関係ないのに……。

わかってるのに……。

わかってるのに……。

どうしても……。

女としてどう見られているのかを知りたくなる。


「乃愛さんは、魅力的ですよ。俺は、この匂い嫌いじゃない」


諒哉さんは、私の頬を流れる涙を優しく拭ってくれる。


「香水の話しましたか?」

「線香みたいって言われたって話してましたよ」

「あっ、そうでした。酔っちゃったかな……」

「それなら、俺もお酒のせいにしていいですか?」


指先が私の下唇をそっとなぞる。

誰かに優しく触れられるのは、いつぶりだろうか?




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