似た者同士

もうすぐ夏が終わりを向かえる。

少し肌寒さを感じた。

私は、コンビニに急ぐ。


「いらっしゃいませ」


10代の店員さんが私を見ている。

もしかして、下着が透けていないか心配になる。

私は、ビールを取りに行く。


「あっ、すみません」

「いえ、とうぞ」


冷蔵庫を開けてビールを取り出そうとしたタイミングが同じだった。

優しそうな男の人。

こんな人ならレスにならないんだろうな……。


「お先にどうぞ」

「いえ、先に選んで下さい。待ってますので」

「そうですか、じゃあ取りますね」

「はい」


男の人は、ビールを取った。

冷蔵庫を閉めてくれて、私もビールを取る。

せっかくだから、近くの公園で飲もうかな……。

あんなに言われたから、家にはすぐに帰りたくなかった。

チーズを取ってから、レジに行く。

さっきの人は、お会計を終えて出て行く所だった。

今から、家に帰って奥さんと話したりするのかな……。

あんな優しそうな人だったら、きっと優しいキスをして優しく抱き締められるんだろう。


……って、何考えてるのよ!

私は!!


「ありがとうございました」

「ありがとうございます」


お会計を済ませてコンビニを出る。

このコンビニの近くには、ベンチが一つしかない小さな公園がある。

遊具は、確か撤去されて砂場だけだったかな?

昼間も子供は来ないし、夜だってほとんど人がいない。

だから、家出するのにちょうどいい場所。


公園の薄明かりは、一つだけあるベンチを照らしてる。

今日は、先客がいるみたいだった。


「あ、あれ?さっきの?」


相手に気付かれて声をかけられる。


「あっ、コンビニの」


さっき冷蔵庫前でやり取りをした優しそうな人が座ってる。


「よかったら、一緒に飲みませんか?あっ、無理にとは言いません」

「飲みます」


私は、彼に近づいて隣に座る。


「ってきり、既婚者の方だと思ってたんですが……。違いましたか?」


セクハラと言われそうな質問を平気で投げつけるあたり、オバ遺伝子が増殖しているって事だ。


「既婚者ですよ。妻と喧嘩しちゃって、飛び出してきたんです。だから、すぐに帰るわけにはいかなくて」


この人が、自分と同じ悩みを抱えていた事に安心する。


「私もなんですよ!だから、ビール3本も……」


苦笑いを浮かべて彼の隣に座る。

三人がけのベンチだから、一人分のスペースは開けている。


「俺もビール3本買いました。ゆっくり飲みましょうか」

「ですね」

「あっ、俺は宮路諒哉みやじりょうやって言います」

「私は、上月乃愛こうづきのあです」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


「乾杯」と同時に言って缶ビールをぶつける。


「何て呼んだらいいですか?宮路さんとか?」

「そんな堅くなくていいですよ。諒哉でいいです」

「じゃあ、諒哉さんで」

「それなら、俺は乃愛さんで」


家に帰れないと言いながら私達は、どことなく楽しい気持ちを抱えている。


「それで……。親父が素手は危ないからって言って」

「で、トングですか?」

「そうそう」


下らない話をして笑い合って、ビールは最後の一本になってしまった。


「私、レスなんです」


酔いが回ってきた私は、諒哉さんに聞こえるようにポツリと呟いた。


「俺もです」

「えっ?」

「そこ驚く所ですか?受け流してくれたらよかったんだけど」

「まさか、自分と同じ人がいると思わなくて」

「いますよ!世の中に人間はたくさんいるんですから……」


諒哉さんの言葉に確かにと納得していた。


「何か俺だけ悩んでるのかなって思ってたんですけど。こうやって、初めて出会った乃愛さんも悩んでるってわかったら勇気もらえます。一人じゃないんだって」

「確かにそうですね。私、男友達とか居たことなくて……。だから、こうやって男の人に話すって新鮮です」

「俺もです。女友達いなかったから」


私達は、似た者同士とわかり連絡先をすぐに交換した。


「せっかく仲良くなったのも何かの縁なんで。こうしたらしたくなるってアドバイスとかお互いにしませんか?あっ、一応私も女性なんで……。役にたつかなって?」


諒哉さんの反応を見て、まずい事を言った気がしてしまう。

今さら、やっぱり嘘です何ていう勇気がなくて私は下を向いて黙ってしまった。


「いいですね!」

「えっ……」

「俺も女友達が居たことないんで、助かります。アドバイスしあいましょう」

「はい」


私と諒哉さんは、握手を交わす。

初めて出来た男友達。

レスをわかってくれた人。

この時の私達は、これからレスが解消出来る未来しか考えていなかったんだ。

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