レスは不倫する理由になりますか?♡乃愛編♡【カクヨムコン応募中】

三愛紫月

そんなにしたいならパート増やせば!

「何?その下着。どこで買ったの?やる気まんまんじゃん。女ががっつくと男はひくって学校で習わなかった?」


寝室のベッドで本を読んでいた知典とものりは、レスを解消する為に頑張って購入した私の下着を馬鹿にして笑う。


「だって、私達。もう、10年もやってないんだよ!そろそろ子供だって考えたいから」

「あのさーー。したい、したいって言うけど、俺は毎日仕事してんの!遊んでるわけじゃないから」

「そんなのわかってるよ。だけど、女だってしたい日があるんだよ」

「したい日って何?そんなにしたいしたいってなるなら、パート増やせよ」

「えっ?」

「大人だろ?自分の性欲ぐらい自分でコントロールしろよ」

「だったら、だったら知典はコントロールしてるっていうの」

「当たり前だろ!だから、乃愛みたいに迫ったりしてないだろ?明日も仕事だし寝るわ。こんな言い合いしてると一秒が無駄になるわ」


知典は、サイドテーブルに本と眼鏡をしまって電気を消す。


「そんな透け透けの下着買って、がっついて乃愛は何がしたいの?俺は、いつでもやれる存在じゃないんだよ。クソみたいな性欲なんか、運動でもして発散しろよ……チッ」


愛してる人に抱かれたいと思う事はこんなに馬鹿にされなきゃいけない事?


「ごめん。おやすみ……なさい」


床に落としたワンピースの部屋着を拾ってリビングに戻る。

レスになって、10年。

磨り減っていく心を抱えながら私は毎日家事をこなしているだけのお手伝いさんだ。


7年前、レスだって友人に相談した事があった。

帰ってきた返事は、「レスぐらい別にいいじゃん。したいなら一人ですれば?Hなんて疲れるだけじゃん」だった。


生活と言う名の魔物に食われてしまった結婚生活。


「日本で生きている限りは無駄だって。馬車馬みたいに働いてるんだから……。その上、帰ってきてからも疲労させるわけ?Hってさ、したい側のエゴだよね」


これは、別の友人に相談した時の言葉だった。

愛する人に抱かれたいと思うのは、ワガママなのだろうか?

一日の終わりに抱き締めてもらうだけでもいいと思うのは、エゴなのだろうか?


「馬鹿じゃないの……私」


上下合わせて三万円の高級ランジェリーは、一夜にしてゴミになった。

私は、高い高いゴミを買っただけ。


三ヶ月前、私はパート先の天野あまのさんにレスだと話した。

もう10年もしていない事を友人には打ち明けられなかったのに……。

天野さんに打ち明けたのは、天野さんが42歳で初産だったからだ。

今年38歳になる私には、天野さんは憧れの対象だった。


「羨ましいいいですねーー」

上月こうづきさんは、赤ちゃん欲しくないの?」

「あーー、うちレスなんで。問題外ですよね」


口を開いただけで涙を止められなかった。

そんな私に天野さんは、ハンカチを差し出してこう言った。


「うちも11年間。レスだったの」


その言葉に私は救われた。

天野さんは、28歳で結婚したと話してくれた。

レスになったきっかけは、30歳の時だという。

忙しさもあり、不摂生が重なった天野さんは5キロ太ってしまったという。

その5キロが旦那さんは許せなかったらしい。

ありとあらゆる試行錯誤をしても、触れてはくれなかったという。

それから、41歳になるまで旦那さんは天野さんに一ミリも触れなかったと話してくれた。


「一緒の布団に入って夫に抱きつくと舌打ちするの。そしたら、怖くなって。気づいたら背中合わせに寝てた。そして暫くしたら夫は、自分専用の上布団を買ってきてね。陣地に入ってくるなって遮断されたの。多分、浮気してたんじゃないのかな?そう思っても別れなかったのは、愛してたから何だけどね」


天野さんの言葉は、私の全身に吸収される。

天野さんの痛みや悲しみが手に取るようにわかった。


「最後のかけに高い下着を買ったのよ。なんか、透けてるやつ。それで、夫に近づいたの。そしたら、初めて下着を触ってみたいって言い出してね。それで、レスが解消されたってわけ。上月さんにも下着屋さん教えてあげる。私も43歳で初産だった先輩にレスだって話したら教えてもらったの。だから、上月さんもレス解消されるかもよ」


せっかく天野さんに素敵な下着屋さんを教えてもらったと言うのに……。

私達、夫婦には意味がなかった。


「ビールでも飲もう!」


冷蔵庫を開けたけれど、ビールはなかった。

買いに行こうかな……。


せっかくだから、この下着をつけたままコンビニ行こう。

ワンピースを着て、お財布ポシェットを下げる。

誰かに見られるわけでもない。

それでも、こんな高い下着をつけて街を歩く事なんて初めてだから少し嬉しかった。


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