第263話 変 身
「ええっ! 幸ちゃん、変身した?」
「違うわ! そこは絶対に間違えないでね、倫子ちゃん!」
銃口を向ける共和国防衛隊の兵士に、幸は大声で、そして流暢なアラビア語で叫んだ「降伏なさい!」と。
もちろんそんな言葉に応じるはずもなく、防衛隊兵士は一斉に射撃を開始した。
そんな銃弾を短剣で避けながら、幸は砂漠の大地に短剣を思い切り突き刺すのである。
強烈な稲妻のような閃光が地面を這うと、それは兵士に向かって真っ直ぐ進む。すると感電したように兵士は一斉に倒れ込み、後方にあったヘリが大爆発する。
「なんだこの技は? セシル、貴女は本当にセシルなのか? 立花 幸にしか見えないのですが?」
ハムザは、先ほどまで居たはずのレディ・セシルが変身した事を未だ理解できずにいた。
「ごめんなさいハムザ少佐、私です、立花 幸です。光学偽装で私のお友達であるセシル・ロウメイと言う女性に化けていました。ずっと私だったんです」
ハムザは立ち尽くしてしまった。異世界からの使者だと思っていた人物が、まさか行方不明の立花 幸本人だったなんて。
幸は、次々と地面の竜脈を突き刺し、雷撃を何本も兵士に撃ち続けた。兵士が倒れるだけではなく、携行していた弾薬にも引火し、随所で爆発が起こる。
「立花君、あれを!」
大森が指さす方向からは、少し遅れて到着した共和国防衛隊の地上部隊が車列を組んで接近してくる。
「どうするの幸ちゃん!」
「大丈夫、こうなったら思いっきり行くわよ! ユキちゃん、お願い!」
そう言って、小さくなったユニコーンのユキちゃんが、幸の胸ポケットから飛び出すと、背中を思いっきり数回叩いて巨大化させる。するとユキちゃんは見る見る大きく変化し、ついには元の大きさよりもかなり大きく変化したのである。
「ありゃ、ちょっとやりすぎたかしら・・」
幸は、気合いが入りすぎて、ユキちゃんのサイズを大きくしすぎたと思っていたが、この状況では案外このサイズが的確だった。
「クウェー」
巨大化したユキちゃんが雄叫びを挙げる。幸はそのまま背中に飛び乗り、地上部隊の車列めがけて突進した。
初めて見るユニコーンの実物と、その迫力に動揺したのか、車列は一瞬統制を乱した。
幸はユキちゃんから飛び降りると、短剣を抜いて次々と兵士に襲いかかる。
「凄い!」
「なんなんだ、あれは!」
内務省のメンバーも、アメリカ軍側も、驚きを隠せない。人間業とは思えないほどの機敏な動き、いや、跳躍力一つとっても、人間離れした運動能力。立花 幸とは、一体何なのだと。
それを見ていたハムザですら、セシルの喪失感を忘れて共に戦おうと銃を握った。
「まったく、良いところ全部彼女に持っていかれたな」
リック少佐が、相変わらずのとぼけた表情で銃を構える。典明も苦笑いしながら銃を構え、二人はイラク内務省のメンバーと共に共和国防衛隊と激しい銃撃戦を展開した。
「怖い! 怖いよう! もう何なんですか? 戦争? ここは戦場なんですか?」
パニック状態の倫子を典明が庇いつつ、自軍のヘリへ倫子を下げる。
既にメインローターは始動しているが、離陸にはまだかなりの時間がかかる。
「遠藤さん、君はここでじっとしていて。こんな所に連れてきてしまって、済まないと思っている」
「嫌! 曽我さん、ここにいて! 私、怖いよ!」
「大丈夫、君はしっかり者だろ。多分もうすぐ決着が付く。立花さんが奮闘しているから、俺たちも加勢しないとね」
正直、倫子はもう頭も顔色も真っ白だったが、曽我が去り際に笑顔を向けてくれたことで、少しだけ落ち着く事ができたのだった。
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