第241話 小さくしてきました
「うわあ、幸ちゃん、これ美味しいわ! あなた料理もできるなんて」
倫子が幸の手料理を大絶賛した。それは各国の料理を食べ慣れた大森ですら、唸るほどのレベルであった。
「本当に美味しいね、僕も結構色々なレストランで食べてきたけど、立花さんの腕前がこれほどとは!」
「そうね! 私も本当にそう思うわ。よくまあ、初めての食材や調味料使ってここまで味が出せるわね。これも才能と言うやつかしら」
キャサリンは、未来人であり、未来の調理法もよく知っている。
しかし、幸の持つ独特のセンスとでも言うのだろうか、味と味の本質を見極めると、その組み合わせ要領がとても上手いのである。
例えば、マヨネーズと醤油のように、一見すると合わない食材も、混ぜるとどんな味になるかが理解出来てしまうのである。なにより、幸自身は戦っている時よりも、誰かに喜んで欲しくて料理している時がなにより幸せだと感じる。それが料理の上達における近道なのだろう。
「私、幸ちゃんがキャンプ・ドレイクでコーヒー淹れている所しか見た事無かったから、てっきり男らしい料理が出て来るとばっかり思っていたわ」
なんだ・・・・男らしい料理って! カツオ一本丸ごと出て来るとでも思っていたのだろうか?
「フェアリータちゃんの料理は、とても繊細なのよ。あっちでも本当にお世話になったわ」
「サナリアさん達、元気にされているかしら」
「そうね、まあお互いの時間軸は、まだそれほど経過していないけど」
そうだ、幸はこちらに戻ってきてから、まだ2か月程度。考えてもみれば、あちらの世界に居た時間は相当に長いものだ。
夕食の最後に、これは買ってきたものではあるが、デザートが出て来た。
「凄いわね、初めての土地で、デザートなんてよく知っていたわね」
「ええ、店の人に聞いて」
「店の人?」
キャサリンは、この国の言語は幸にインプットしていないことに気付くと、彼女が独学でこの国の言葉をもう理解し始めている事に驚嘆したのである。
「ねえ幸ちゃん、あなたこのミッションが終わったら、こちらに来る気はない?」
「え? なんですか、こちらって?」
キャサリンは、思わず口にした事を後悔しつつ、その話はまたの機会にしようと考えた。幸の能力であれば、自身が所属するGFの構成員として申し分ないと考えていたのである。
確かに、全てが終わった後、幸は国籍もない、中学校ですら卒業していない人間である以上、現在の日本と言う国で暮らして行く事は極めて困難であろう。キャサリンは、いずれ時間が経過した後に、それを提案したいとこの時考えていたのである。
食事が終わると、キャサリンは幸の部屋に入り、預かっていた物の転送要領について話し始めた。
キャサリンと幸は、月に一度の面会を、ほんの1週間ほど前に済ませてから国外に出ていた。その時、ラジワットから預かった短剣や、この世界に戻って来るときに持参して来た拳銃などをキャサリンに手渡した。
どれもこれも、日本国内では違法の品物、ましてや厳正な空港をこれを保持したまま通過は出来ない。米軍もこれらの件については一切の協力を拒否しており、エージェントならエージェントらしく、必要なものは現地で調達するよう指示を受けていた。
それでも幸は、ラジワットの形見である短剣だけは手放したくないとキャサリンに相談していたのである。
その際、物質転送装置の存在を知り、大切なものではあるが一時的にキャサリンに預ける事を決めていた。
「で、ユキちゃんは元気なの?」
「はい、税関でも怪しまれませんでしたよ」
すると、小さなユキちゃんがひょっこり顔を出して「クェ~」と鳴いた。
「あら・・・・なんだか前よりも小さくなってない?」
「ええ、小さくしてきました」
「・・・・小さくしてきましたって、あなた、それ自分でやったの?」
「はい・・・・ダメでしたか?」
これには流石のキャサリンも恐れ行ってしまった。まさか、これほどの高等テクニックを使いこなすなんて。
異世界からこちらに来る際、ユキちゃんを小型化したのはキャサリンだ。それも未来に技術を使って。
それを、何の装置も使わず、これほど簡単にサイズ変更する・・・・キャサリンは、益々自身の組織に欲しい人材だと感じていた。
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