第239話 いくら?
「ねえ、やっぱりコレ、目立っているよね
「大丈夫よー、当たり前って顔していれば、みんなそう言うものだって思うから」
「いや倫子ちゃん、それって当たり前って顔していなければそう思わないってことで合ってるよね」
「大丈夫よー」
倫子がお花畑モードに入ってしまったようだ。こなると正論も常識も、倫子の巨大な防壁の前にはまったく意味を成さない。
「大丈夫! 立花さん、かわいい!」
やめろ佐々木!
いつも通りの佐々木のフォローが、一切役に立っていないのが本当に通常モードだと感じる。
「幸ちゃん! かわいい!」
「やめて! 二人とも、ここまで来ると、もはやイジメよ!」
そんな3人を、笑顔で見つめる大森・・・・いや、これは笑顔ではなく、単に笑っているだけだろう。
よく「どいつもこいつも」という言葉があるが、幸の心境は正にそれである。
そこそも、この暑い国で、さすがにマントは着て行けないため、今現在幸は倫子のチョイスした服装のみでの外出・・・・そりゃ目立つはずだ。
こうして幸自身も、なんだかんだ言いながら倫子の毒牙にかかりつつあることを自身も認識出来ていないのである。
そんな時だった。観光客の一人が写真を撮らせてほしいと申し出てきた。アメリカ人らしく、英語で会話が出来た。
「君のそれ、とてもグーだよ! 可愛いね! 何かのコスプレ?」
驚いた事に、コスプレと言う言葉は既に国境を越えて白人社会の一部にまで浸透しつつあるようだ・・・・え、なにこの人、ご専門の方?
「かわいいですよね! あなたはとてもセンスを感じます! アメリカ人ですか?」
やめなさい倫子ちゃん! どうして火に油を注ぐ!
なんだか倫子ちゃんも、この斜め上の国際交流に大満足のようだ。それを慈しむように笑顔で見つめる佐々木・・・・ほんっとうにあなたたちはお似合いだわ!。
そんな時だった。アメリカ人と倫子が話し込んでいる時、中東系の男たちが幸に興味を示してくる。
そして、幸に聞くのである・・・・「君はいくらか?」と。
幸の頭は真っ白になった。
今、値段を聞かれた? どうして? 第一この人達はイスラム教徒の人たちに見える。そんな敬虔な信者が、どうしてそんな不謹慎な事を聞いてくる?
幸は、そんな彼らを驚きの表情で見つめていると、更に肩を抱いて一緒に行こうと何処かへ連れて行こうとする。彼らは昼間だと言うのに、明らかに酒の臭いがした。
幸の中に嫌悪感が充満した。あの14歳の時に向けられた、強烈な「性」と言う気持ち悪さ、そして酒の臭い。血の気の引く思いであった幸に、今度は怒りがこみ上げてくる。
しかし、その怒りを表に出すよりも早く、大森の拳が彼らを捉えた。
男たちの中心にいた、一番質の悪い男の顔面めがけて。
吹き飛ばされる一人の男。そして、周囲の男たちは大森に対して、あからさまな敵意を示して近づいて来る。
しかし、幸も腹の虫が治まらない。幸もゆっくり大森の元へ近づくと、男4人を相手に激しい喧嘩が始まった。
始まったのだが・・・・幸は言うまでもなく、素手でもかなりの強さである。意外だったのが、大森が予想以上に喧嘩慣れしている事だった。
大柄の中東系の男たちは、最初に殴られた男を含め、短い時間で誰も抵抗出来なくなっていた。
これには倫子や佐々木以外にも、周囲の歩行者までもが足を止め、驚きの表情を浮かべた。
「おっと、これはマズいな、警察が来ちまう」
「そうですね、逃げましょう!」
幸と大森は、唖然としている倫子と佐々木の腕を引っ張りながらその場を後にする。
そのとき、路上にいた人々が、一斉に拍手をしたのである。
「え、なに?」
「ん~ 帰ったら説明する」
不思議な雰囲気であった。何故かこの日本人4人は、地元住民の拍手喝采の中を抜けてゆくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます