第232話 これが地下なんて

「おいリック、座間に行くのではないのか?」


「ああ、今日はもう、直接横田へお連れするよう指示があった」


「・・・・横田、それじゃあ」


「ああ、閣下が直接お会いになる」


 幸は二人の話しを聞いていて、かなりの重要人物が自分と会いたがっていることを察した。

 黒塗りの公用車が、練馬から高速道路を南に向け走る。意外だったのは、料金所で一切支払いをしない事だ。

 一体、アメリカ軍はどれほどの力を持っているのだろうと、幸は少し呆れてしまった。

 

 在日米空軍司令部内の地下室。ここに防衛庁と共同で使用されている合同指揮所が存在する。

 もちろん日本国民には伏せられたものであるが、事実上在日米軍の指揮機能はここに集約されていると言っても過言ではない。


 本来、米陸軍の情報活動はキャンプ座間で実施されるべきであるが、事は既に陸軍の中だけで済む話しでは無くなっていた。

 それ故に、陸海空軍の垣根を越えてこの作戦は実施されなければならない。

 そう、アメリカ側にとって、幸を含めたこれから起こる事は、全て作戦と位置づけられていた。


 幸は曽我 典明とと共に横田基地の秘密地下施設へ通された。


「・・・・凄いですね、これが地下なんて」


 幸は思わず口に出てしまった。無理もない、それは地上にあっても豪華な設備と言える。

 恐らくは、両国VIPクラスが長期間生活出来る仕様になっているのだろう。

 唯一地上の施設の違う点は、窓が無い事くらいだろう。


「俺もこの施設に来たのは数えるくらいだ。部外者がいきなりここに来るなんて、異例中の異例だ」


 幸は久々にとても緊張していた。これまでも似たような事は何度もあった。高級感で言えばエリルに初めて会った時の宮城の方が、よほど高貴であったろう。

 しかし、今いるこの場所は、何とも近代設備の固まりのように感じられ、独特の雰囲気を醸し出している。

 幸と典明の二人は、リックに案内され、応接室へ通された。

 アメリカらしい、広々とした作り。本当にアメリカ人は狭いと死んでしまう魔法にでもかかっているのだろうかと疑いたくなるほどに贅沢な空間だ。

 二人は、その応接室でかなり待たされた。最重要人物ではないのか? 待たせるなんて、失礼な組織だと、幸は少し不機嫌になっていた。

 しかし、典明は特に何かを語るでもなく、会話に応じるでもなく、今日は随分退屈な男であった。

 ・・・・退屈な男。そう、昨日までは退屈な男では無かった。

 つまり、典明は敢えて退屈な男を演じている。そこには当然理由がある。


 見られている。


 恐らく、この待ち時間に、自分と典明が密かに何を話すのか、盗聴されている、いや、恐らく録画もされているだろう。

 結局、この在日米軍と言う組織は、自分の事など全く信用していない。いや、そもそも味方になった典明や日本政府の事すら、本当の意味で信用なんてしていない。

 アメリカと言う国家は、オルコやタタリアともまた違う、何か恐ろしい国家だと感じた。

 異世界に行く前は、あれほど格好良く憧れだった国であるが、実際に接してみて、怖いと感じるのだ。

 そうして、ようやく一人の軍人が、部屋に数名の伴を率いて入ってくる。

 一見すると優しそうで、笑顔を絶やさない。それでも解る、この男の奥底にある恐怖が、それはどんな笑顔で繕っても、溢れ出してきてしまう。

 それは丁度、アメリカに対して幸が抱いた印象そのものと言える。


「初めまして、ロナルド・フリーマン准将です」


 笑顔で右手を差し出すこの将校に、一瞬手を差し出すのが遅れてしまった。

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