第231話 情報関係の仕事です

「これは?」


「現在の、イラク軍の動向です、右上が衛星写真、下段にはヒュミントによる内部情報です」


 ヒュミント、対人諜報活動を意味する。つまり、アメリカが握っているイラクに関する最新情報と言うことだろう。


「曽我から聞きましたよ、あなた、イラク軍がクウェートを侵攻すると言っているそうですね。それは何処からの情報ですか? 私たちが今知り得る最新情報ですら、時期の特定には至らない。貴女は未来予知能力でもあるのですか?」


「お答え出来ません。ただ、とても正しい情報を得る事が私には出来ます。そして、その情報に基づいて、私は歴史を変える必要があります。私には協力者が必要です。あなた方がそれを望むなら、私は協力する用意がある」


 半ば呆れ顔のリック。話の進み方が早すぎて、典明も少し動揺している。


「なあリック、私たちは朝食も未だだ、一息入れないか?」


「まあ、リック少佐、おはようございます。よろしければご一緒に朝食でも?」


 真理子もまた、流暢な英語でリックに話しかける。

 そう言えば、真理子は英語教師だっただろうか?。

 こうして、軍服姿の二人を含めて、曽我家の朝食が始まった。

 慣れているのか、宗明もまた何も違和感なく朝食を採っている。


「リックさん、お箸使うの上手ですね」


「はい、もう日本も長いですから」


「ずっと情報のお仕事を?」


 思わず典明がせき込んでしまった。そのド直球な質問は、誰もがそうだと知っていたとしても、口に出す者は皆無だから。


「立花さん・・・・君、なんだか凄いな」


「ハハハ、そうですね、情報関係の仕事です。主に異世界へのゲートを探すのが任務です」


 今度は幸が吹き出した。なるほど、話しが早い訳だ。目の前の男は、自分たちの事を追いかけてきたこの時代の専門家なのだ。

 

「私をいくら問いつめても、ゲートの在処は知りませんよ」


「そんな事は無いでしょう、事実、貴女は異世界から来た、違いますか?」


「違いませんけど、私の力で来たのではありませんから」


「いえね、珍しいんですよ、普通は行ったきりになるか、あちらの人が偶然こちらに来てしまうか、そのどちらかなんです。この世界には、そう言った人を元の世界に帰す専門家がいるようで、私たちの調査が進まない原因なんです」


 幸は、それがどんな人物か、会ったことはないが、そう言えばラジワットがまだ異世界に行ったばかりの頃に、そんな事を言っていたような気がする。しかし、幸ほどの異物であっても、その存在に出会った事が無かった。


「私は、かなりレアなケースだと聞いています」


「ほう、誰から?」


「私をここに連れてきてくれた人物です、私、行くときと帰る時で、方法が別でしたから」


 それまで余裕の表情を見せていたリックが、突然箸を止めた。

 そしてゆっくりと幸の顔を見る。

 にこやかな表情が作り笑顔であることは解っていたが、真剣な表情が少し怖い人物だ。 

 典明の方を見ると、やれやれ、と言う顔をしている。

 ・・・・何か地雷でも踏んだのだろうか。


「ミス・タチバナ、この後、ご予定は?」


「ご用があるのでしたら、お付き合いしますが」


「おいリック! それでは話が違う! もう少し本人の意志を尊重しなければ」


「大丈夫です典明さん、私、時間が無いんです。それに、時間が無いのはそちらも同じではないですか?」


 再びリックの表情が強ばる。図星をつかれたと言う事だろう。

 キャサリンの情報より正確なものは存在しない。時間がない、即ちイラクがクウェートに侵攻するまでの時間を指している。

 

 リックは、朝食が済んだら、一緒に来てほしいと幸を誘う。もちろん断る理由はなかった。

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