第203話 スイート
倫子は、幸のために自分の着替えを持って来ていた。
「さすがにその服装で街を歩く訳には行かないでしょ、それに、武装もしちゃダメだからね」
「・・・・でも、これは大切な形見なの、これだけは手放せないわ」
どうもこの二人の会話は噛み合っていないと佐々木は思ったが、そんな異世界感の凄まじい幸が、佐々木にはとにかく新鮮だった。
幸は、とりあえず倫子から手渡された服に着替えた。なんら変哲の無い、普通の女子の服であったが・・・・こうして見ると、幸のプロポーションが、いかに日本人離れしたものか、顕著に証明するようなものだ。
「もう、佐々木君は見ちゃダメ!」
「えっ?・・・・なんで?」
そう言う佐々木も、顔が真っ赤だ。昼に学食で、自分のために顔を真っ赤に怒ってくれた佐々木が、少しいい人だと思った自分に腹が立ってきた。
自分がこの服を着て佐々木の前に立ったって、きっとこんなリアクションはしない。
・・・・本当に幸ちゃんは、かっこいいなあ。
別に、どこもいかがわしくなんかないのに、何故か幸が着ると、とてもエロティックにさえ見えてしまう。
あの女剣士の服装では感じなかった、異様な女らしさがこの服装では強調される。
健康美?、野生のフェロモン?、現代人には無い、失われた人としての魅力を幸は持っているように見えるのである。
3人は、取り急ぎ都心の池袋へ向かった。あそこなら、ホテルは沢山選び放題だからだ。
しかし、予想外の事が起こった。ホテルに入り、前金で支払いをしようとすると、金貨を受け付けてくれないホテルが多かったのだ。
金貨だって、日本のお金だと言うのに。
「なんでだろうね?、これ、価値がないのかな?」
「違うよ、安い宿では、おつりの問題や偽物を見分ける方法が無いから、嫌がっているだけだと思うよ」
「えーと、だとすると・・・・」
それなりの、高級ホテルに宿泊するしか、方法はない。
思いがけず、3人は高級ホテルのスイートに案内されることとなる。
「うわ、僕、ここのスイートは初めてだよ」
「いい眺めね」
「やっぱり佐々木君の言うとりだったね、このホテル、金貨に動じてなかったもの」
幸が褒めると、デレる佐々木、そしてイライラする倫子。
とても眺めの良い高級ホテル。都内が一望できるほどの高さで、爽快な気持ちになれる。
「凄いね立花さん、お金沢山持っているんだね、、、、でも、なんで金貨?」
「ごめんなさい、あまり人には言えないミッションなので」
いや、今ミッションって言っていた!、ミッションって!。幸は、どこかの諜報員なんだろうか、明らかにカタギではない。
「それより、幸ちゃん、これからの話をしましょうよ、私もまだ、何がなんやら・・・・」
「そうだね、私も協力者が必要だし、色々相談したいの、でもね・・・・」
「・・・・でも?」
「先にお風呂入ってもいい?!、キャー、久々のお風呂!、広ーい!、嬉しい!!」
そう言うと、幸は佐々木が居る事も忘れて、次々と脱ぎ出す。
「ちょーっ、ダメダメ!、佐々木君、ちょっと部屋から出てて!」
ギリギリセーフで佐々木は部屋を一時退室したが・・・・それにしても、18歳の乙女が、恥ずかしくはないのだろうか?、5年前の幸なら、オドオドして人前で水着になるのも嫌がっていたはず。
「ねえ、倫子ちゃんも一緒に入らない?」
「い、いいよ、私は!、・・・・って言うかそれ、どういう?」
一つ一つが驚かされることばかりだ。それでも、ご機嫌で入浴する幸を見て、ようやく嬉しい気持ちになれる倫子であった。
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