第202話 キャンプ・ドレイク

「えええ?、本当に?、立花 幸さんが見つかった???」


「ちょっと、声が大きいよ佐々木君!・・・・私、ショックであまり寝れてないの」


「ちょっ、だって、おめでたい事でしょ、見つかったんだから」


「それだけじゃないのよ、昨日は色々あって・・・・」


 倫子は、もう誰かに話してしまわなければ、正気を保っていられなかった。そして、昨日起こった事を、概ね隠すことなく佐々木に打ち明けた。

 すると、佐々木は顔を真っ赤にして、下を向いてしまった。


「・・・・僕のせいだね、僕が君を一人にしなければ、そんな危ない目に会わせなくて済んだのに」


 泣いている?、佐々木は自分のために、泣いてくれているのだろうか?

 この時、倫子は佐々木が善人なんだと思ったが、それ以上の感情は持っていなかった。

 ただ、真剣に話をきいてくれる人の存在が、これほど有り難いものかと感じていた。

 学食では話が外部に漏れると考え、二人はお互いの午後の予定を確認すると、エスケイプを決め込んだ。

 授業をサボるなんて、倫子の人生ではこれまで考えられないような事件であったが、昨日の一大事件を考えれば、もはやこれくらいは平常にすら感じられる。

 あの忌まわしい米軍キャンプ跡地の外柵を、再び歩く倫子。それでも今日は佐々木が一緒だし、まだ明るいうちなので昨日とは大分雰囲気が違う。

 倫子は、昨日のキャンプ跡地の入口にある管理人室に声をかけた。

 ・・・・考えてみれば、どうして大蔵省の管理地の人が、幸の側の人なんだろう。

 もしかして、幸は今、政府の重要任務を背負っているのでは?・・・・いや、まさか・・・・ね。


「ねえ、こんな所に立花さんがいるの?」


「うん・・・・今更自分でも信じられないんだけど、何かよほどの事情があるみたい」


 管理人は、予想外に解っています、といった風に、二人を中に入れた。


「おーい!、倫子ちゃん・・・・っと、・・・・誰?!」


「ああ、こちらは佐々木君、色々相談に乗ってもらっているんだ」


「・・・・へー、そうなの、こんにちは、初めまして、立花 幸です」


 佐々木は顔と耳を真っ赤にして、しばらく嬉しそうに立ち尽くしていた。

 倫子は未だ知らない、佐々木が真正のオタクであることを!。


「あ、初めまして、ボク、佐々木 芳成と言います、遠藤さんとは同じ大学で同じサークルなんです、よろしく」


「ごめんなさいね、びっくりしたでしょ、今の日本で、こんな格好の人、居ないもんね」


「いえ!、僕は個人的に、とても似合っていると思います!」


 ・・・・え?、なんで敬語?、と倫子は思った。佐々木君って、もしかして、結構アレな感じの人?・・・・まあ、自分もそっち側の人間ではあるけど、ここまであからさまだと、ちょっと引くわ。

 それでも、似合っていると言われて笑顔になった幸は、本当に魅力的に輝いていると倫子は思った。

 なんだろう、日本の大学生や同年代に、こんな輝いている人っているだろうか。

 きっと、何かに一所懸命な人の輝きなんだろうな、と倫子は感じた。

 しかし、佐々木はそうは思っていないようだ。多分、キラキラした女性だと認識したんだろうな、こいつめ。


「ここでは人目があるから、奥へ行きましょう」


 幸は、昨日と同じ格納庫へ二人を案内する。

 佐々木は見るもの全てが珍しそうで、終始キョロキョロしている。

 昨日は真っ暗闇で不気味であったが、昼間に見る米軍キャンプ跡地は、その廃墟ぶりが顕著で・・・・結局かなり不気味だ。

 佐々木は、このような廃墟が意外と好きらしく、終始笑顔だ。倫子は何故かそれが少し気に食わない。

 

「さ、狭くて汚いけど、入って!」


 いや、昨日は暗くて解らなかったけど、これは本格的にアウトなロケーションだった。

 屋根も一部崩落し、空気も悪い。それに、春先のこの時期、まだまだ寒い、こんな毛布で寝泊り?、ここで?、女の子が?。

 あー、これはもう、強制送還しかない。倫子は今日と言う今日は、なにがなんでもここから幸を連れ出す決意を固めた。

 

「ねえ幸ちゃん、ここはダメだよ、あなた、女の子なんだよ、襲われちゃうよ、昨日みたいに」


「いやだな、襲われたのは倫子ちゃんでしょ、私は大丈夫、それに、ここはある意味世界でも一番安全なエリアなんだから」


「そう言う問題じゃない、ねえ、今日はホテルに泊まって!、マンションはその後に考えよう!、私も探すから!」


 幸は、自分の事を心から心配してくれる誰かが、まだ日本に居てくれた事が有り難くて仕方が無かった。

 そしてふと、異世界に残してきたセシルやエレシー、アシェーラと言った女友達の事を思い出していた。

 みんな、元気にしているだろうか、と。

 その時、自分の異世界での記憶は、どのタイミングで消失するのだろうと思ったが、あまり深く考えないようにしていた。気持ちに迷いが生じれば、自分は立っていられなくなる、そう感じたからだ。

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