第199話 一体、何から話を
倫子の顔は、見るみる泣き顔へと変化した。
動揺する幸。
倫子はそのまま幸に抱きついた。
「もう、本当に心配したんだよ!、いままで一体、どこで何をしていたの?、クラスのみんなで、毎日探したんだから!、先生も、卒業式の日まで心配して・・・・、ねえ、本当にどうしていたの?、元気にしていたの?」
倫子は、元気か、という質問は、もはやおかしいとすら感じていた、多分、さっきの男たちよりも、よほど元気だ。
「倫子ちゃん、落ち着いて、私、大丈夫だから、元気だから」
幸は、とりあえず倫子を自分の生活圏へと案内した。
生活圏、、、幸はキャサリンやMOMと別れ、今はこの米軍跡地で生活していた。
「さ、汚いところだけど、どうぞ」
汚い・・・・いや、本当に汚い。と言うより、ここは廃墟の中ではないか。
それも部屋のあった場所ではなく、格納庫か倉庫があった場所を簡易的に住めるようにしただけの・・・・要するに野宿だ。
「ねえ、女の子がこんな所、危ないよ!幸ちゃん、今、一人なんでしょ!」
「大丈夫よ、私、こう言うの慣れているから」
いや、慣れちゃダメでしょ、18歳の女子が!
そう思いつつ、幸はテキパキとランタンに火を入れ、キャンプ用の小型ガスコンロでお湯を沸かし、コーヒーの準備をしてくれた。
ランタンとコンロの火で、周囲がとても明るくなった。
キャンプ好きが見たら、一瞬で恋に落ちるほどの手際の良さ・・・・慣れる?・・・・幸は一体、今までどんな生活をしていたのだろう。
「はい、コーヒー、熱いから気をつけてね、唇、火傷するから」
なんなの、このハンサムキャンパー女子は!
インドア派の倫子は、キャンプ慣れした幸の動き全てに興味津々であった、さっきまで、男たちに襲われそうになっていた衝撃よりも、今目の前で起きている幸との時間が、よほど衝撃的である。
二人はコーヒーを飲みながら、何から話せばいいのか迷っていた。
「・・・・倫子ちゃんは、元気にしてた?」
「当たり前よ、私は大丈夫、今、都内の大学に通っているの」
「へえ!、倫子ちゃん、大学生か、もうそんなに時間が経ったんだね」
「そんな事より幸ちゃん!、あなたの事!、なんでこんな所で、いや、そもそも、どうしてそんな服装で・・・・今まで何処にいたのよ!」
「そうね・・・・一体、何から話をしたらいいのやら・・・・」
幸は、事の次第を話し始めた。
ラジワットと初めて出会い、人を傷つけてしまったこと。ラジワットに助けられたけど、大勢殺害してしまったため、日本には居られず、ラジワットの故郷へ共に旅立ったこと。その世界でのこと・・・・。
「ちょっ、っちょっと待って!、情報量多すぎ!、ちょっと整理してもいいかな?」
いやもう、幸の話は、最初からぶっ飛び過ぎていて、何か冗談にしか聞こえない。
だが、こうして目の前に居る幸は、倫子の知っている幸ではない。顔も声も、懐かしい5年前の幸ではあるが、話の内容も容姿も、まるで別人のようだ。
第一、幸はこんなに逞しくない。
ひ弱で小さくて、倫子ですら守ってあげたくなるような、薄幸の少女であったはず。
それがどうしたことか、今の幸は、おとぎ話から出てきたような、まるで女剣士かなにかだ。
・・・・変身美少女系漫画を志す倫子には、過ぎた友人である!。
「え、なに、倫子ちゃん、漫画描いてるの?」
「描いていると言っても、趣味でね、今、大学のサークルが、イラストアニメサークルなんだ」
「・・・・へー」
幸は、倫子の方も随分印象変わったな、と思った。
5年前には、まだこのオタク文化はそれほど広まってはおらず、漫画は子供のツールだと思っていたので、倫子の嗜好は少し意外に感じられた。
・・・・倫子ちゃんの将来の夢は、学校の先生だったのでは?
少し複雑な幸であった。
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