第198話 あまりにも非日常
ああ、本当に馬鹿な事をした。
あのとき、一人になりたいなどと考えず、佐々木と食事にでも行っていれば、今目の前で起こっている事件に巻き込まれる事も無かったのだから。
男たちは、僅かな明かりを頼りに自身の下半身を倫子に晒す。
もう、おしまいだ。
自分の浅はかさを恨むしかない。
そんな時だった。
一番後ろにいたグループの一人が、大きな音を立てて倒れるのが、薄明かりの中でも全員が理解できた。
「なんだよ、いいところなんだぞ!」
「おい、なんだか様子がおかしい・・・・お、お前、誰だ!」
その一言で、見窄らしく晒した下半身を終い、全員が後ろを向いた。
男の一人がライトを照らす、それまで闇に目が慣れていた全員が、一瞬眩しくて視界を失う。
「なんだお前!、女・・・・、おかしな格好しやがって!、ヒーローショーかって?」
そこには、背の高い美しい女性が、コスプレでもしているかのように見たこともない服装で立っていた。
革と金属の防具で固められ、なぜか太ももから下だけが素肌を晒している。靴は丈夫そうな革のブーツ、その上からふわっとしたオーバーのような、マントのような・・・・この布地はなんだろうか、見たことのない素材、フェルト?、白地に紺のストライプが、とにかく可愛いし格好いい。
「何をしていた、お前たち」
「お前こそなんだ、こんなところで、女が一人で」
「お前たちには関係のないことだ・・・・いや、関係が無いことも無いのか・・・・私は貴様らのように、か弱き女性を蝕む輩が嫌いだ、全員眠ってもらうわ」
そう言うと、背の高い美少女は、恐ろしいほどの俊足で一瞬見えなくなると、次の瞬間先頭にいた男がバタリと音を立てて倒れる。
「なんだコイツ!、・・・・遠慮すんな、本気で行け!」
リーダー格の男が手にナイフを持っている、その他の男たちも、手には鉄パイプやバールを持ち、もはや普通の喧嘩ではなく、殺し合いと同じ状態となった。
倫子は心の中で「やめて」と叫ぶが、声にならない、その光景があまりにも非日常過ぎて、現実の事と思えないのである。
そんな状況をまるで楽しむかのように、背の高い美少女は、腰からゆっくりと短剣を抜く、倫子にはそれが短剣ではなく、普通の洋刀のように見えた。
・・・・バスターソード、刀の重さを使って叩ききる
ジャーナリストの大森が言った事が頭を過ぎる。
このままこの戦いが続けば、あの日に見た幸ちゃんのアパートの、ブルーシートの下にいた人のように、みんなされてしまう。
そう思っていた矢先に、リーダー格の男が、ナイフを突き立てて刺しにかかる。
「そんなランボーナイフ見せつけて、俺たちがビビると思ったか?、これで俺たちは正当防衛だからな、吠え面かくなよ」
刺した男のナイフは女性が後退して交わされるが、今度は大降りでナイフを振り回す。
そんな男のナイフを、まるでスローモーションのように静かに交わすと、今度は美少女の方が剣を器用に曲げながら、まるで蛇が獲物に噛みつくように男の喉元に剣先を突き立てた。
「冗談だと思うか?、私が今まで何人倒して来たと思っている」
これにはさすがの愚連隊も肝を冷やした。
「今回は見逃してやる、もうここへは来るな、次はないぞ」
低い声で、それでも美しい声は、広い室内に不気味に響いた。
倫子を襲ったグループは、捨て台詞すら言わずに、慌ててその場を去って行った。
「大丈夫?、怪我はない?」
「・・・・はい、どうもありがとうございました・・・・あの、あなたは?」
「私? ああ、私の事はあまり詮索しないで頂戴、それがお互いの為だわ」
そう言って、美少女は懐中電灯のようなランタンを着けると、顔の前に持ってきた。
やはり、かなりの美少女だ。
・・・・ん?、この顔は・・・・
「あの、もしかして・・・・あなた、幸ちゃん?」
「その声・・・・まさか、あなた、倫子ちゃん?!」
米軍キャンプ跡地で、二人は5年ぶりの再会を果たしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます