第192話 時空間転移装置 MOM

「いいの?、もう」


「ええ、これ以上は、私も辛くなりますから」


「お別れは、言えた?」


「・・・・はい」


 キャサリンの時空転移装置に入った幸は、パイロットスーツに身を包んだキャサリンと、共に座席についた。


MOMモーム、それでは行くわよ」


「ええ、キャサリン、ゲストさんも大丈夫?」


 ゲストさんと言われ、それが自分であることに気付きはしたものの、この会話の相手が誰なのかが解らなかった。


「はい・・・どうもご親切に・・・」


 すると、キャサリンが笑いながら、彼女がMOMモームという、このマシーンのメインAIであることを教えてくれた。

 当の幸自身は、メインAIと言われても、それが何を示しているのかすら、皆目見当がつかない。

 それでも、これは自分が居た1985年の日本製ではないことだけは、容易に理解できた。

 

「時空間転移を申請します」


「時空間転移、申請を受理します」


 なんとなく、手続きが始まったと思っていたその時だった。

 突然、目の前がグニャリと曲がり、幸は強い眠気と耳鳴りに襲われた。

 遠くから「クェ~」と小さくユキちゃんの声がした気がしたが、それを考える間もなく、幸は意識を失った。



 異世界のみなさん、私に良くしてくれて、本当にありがとう。

 巫女職室のみんな、お別れも言えず、ごめんなさい。

 ラジワットさん・・・・愛しています、私の事忘れても、私の気持ちは永遠に変わりません。



 どれくらいの時間が経過したのか、よく解らない。

 それでも、目覚めた幸の前には、依然MOMモームのコンソールパネルが放つ計器類の明かりが眩しいほどに輝いて見えた。


「あら、気がついたの?、早いわね、流石は巫女様ってところかしら」


「あ、キャサリンさん・・・私、どれくらい気を失っていたんですか?」


「あら、ほんの少しよ、5分くらいかしら」


「5分・・・・」


 幸は、それほど短時間だとは全く思えなかった。

 それでも、普通の目覚めとは異なり、少し気分が悪かった、なんだろう、車酔いでもしたかのような・・・・。


「クェ~」


 ん?、「くぇ~」?


「ああ、フェアリータちゃん、小さくしておいたから」


「小さく?」


 すると、幸が羽織った外套の中から、なんだか小さくて白いモフモフが顔を出した。


「・・・・ちょっ、ちょっ、・・・・ちょーーーーっ!」


「あら、ダメだったかしら、ユキちゃん」


 それは、いつか夢に見た事がある、とーっても小さいユキちゃんであった。

 普段は馬もびっくりなほどの大きさに成長していたが、幸の服に潜り込んだユキちゃんは、まるで子猫のように小さく、白くてフワフワ。


「キャーーー!!!!、なにこれ!、可愛い!!!、えー、えー、えー!、どうしたんですか、ユキちゃん、私、てっきりもう会えないのかと思っていたのに!」


「たぶん、これからのミッションに必要になると思ってね、連れてきたわ」


 幸は、目をうるうるとさせながら、ユキちゃんを抱っこしながら、何度もキャサリンにお礼を言った。

 あらためて、ユキちゃんを両腕で前に出して全体を見てみると、なんだか本当に白い子猫のように小さく、そして、デフォルメされたように可愛いいキャラクターに変化していた。


「良かったんですか?、連れてきちゃって!、でも、もう、本当ほんっとうに可愛いです!」


「そうね、本来ユキちゃんはこの世界では絶滅した生き物だから、あまり大ぴらにしてはいけないけど、フェアリータちゃんが、ユキちゃんの背中を叩いて、大きさを調整できるから、必要な時は大きくして乗る事ができるわ・・・・今回のミッションは、私たちがあまり援護できないから」


 そうだ、ユキちゃんを可愛がってばかりはいられない。

 一番大事な、このミッションの内容について、キャサリンから聞く必要があるんだ。

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