第193話 米軍キャンプ

「ねえキャサリン、本当にこのユニコーン、連れてきて大丈夫だったの?」


 ん?、あれ?、今誰かの声がした、と幸は思った。

 少なくとも、ここには今、自分とキャサリン以外はいないはず・・・。


「大丈夫よ、ほら見てごらんなさい、フェアリータちゃん、やっと笑顔になってくれたわ」


「そうね・・・ずっと寂しい顔していたもんね」


 誰?、キャサリンととても親しそうに話すのは・・・・。


「あの、貴女は誰ですか?」


 キャサリンが振り向く、しかしそこにはキャサリンしかいない。


「ああ、そうね、まだAIとしか紹介していなかったわね、あらためて」


「大丈夫よ、自分で自己紹介くらいさせて!、私はMOM、この時空間転移装置のメインAIよ、よろしくね」


「メインAI、この乗り物の?・・・・マイコンみたいなものでしょうか?、人間にしか聞こえませんが」


 キャサリンが、驚きの表情を浮かべ、MOMは絶句した。


「・・・・私、さすがにマイコンって言われたの初めてだわ」


 すると、キャサリンもMOMに問いただす。


「えっ?、マイコンって・・・なに?」


 幸は、この最新技術の塊が、マイコンを知らない事に、少々困惑した。

 多分、この人たちは宇宙人ではない、だとすると、未来人なのだろう。

 しかし、未来にマイコンは無いのだろうか。

 第一、AIとは一体なんだろうか?、サイボーグのようなものなのだろうか?、元人間の?・・・・だとしたらちょっと怖い。


「あの、MOMさんは・・・元々人間なんですか?」


 すると、キャサリンとMOMは、一瞬間を置いて笑い出した。


「いやあねえ、もう!、そんな訳無いでしょ!、MOMは生まれた時からコンピュータよ!、・・・まあ仕方が無いわね、この時代のコンピュータは、計算機とあまり機能が変わらないからね」


「あまりご先祖様の事を悪く言わないで下さい、今でもコンピュータは、日本語で電子計算機なんですからね!」


 本当に、この声がコンピュータなんだろうか?。

 どう聞いても、人間の声にしか聞こえない、いや、むしろ人間より人間らしいほどに、MOMからは感情の起伏が感じられる。

 

「そうね、フェアリータちゃんが動揺するのも無理は無いと思うけど、ごめんなさいね、実はあまり時間がないのよ、ちょっと手伝ってもらえると嬉しいんだけど」


 そう言うと、キャサリンは時空間転移装置の扉を開放し、幸と二人で外へ出た。

 

 久々の、日本の匂い。

 もう、帰ってこれないと思っていたのに。

 遠くから、車のクラクションが聞こえる、本当に日本なんだ、そう言えば、もう何年なんだろう。

 それにしても、寂しい場所だ、ここは一体どこなんだろう。


「ねえフェアリータちゃん、このMOMを、格納庫へ手で押してくれないかしら」


「え?、手で・・・押せるんですか?」


「大丈夫よ、基本的に宙に浮いているから。機体と格納庫の大きさが合っていないから、手で押して中に入れる必要があるのよ」


 見た目に反して、随分アナログな所もあるのだと感じる。

 たしかに、まるで古びた廃工場のような建物、ギリギリの大きさだろう。

 周囲は草に覆われていて、使われていない施設のようだった。

 幸は、キャサリンの作業を手伝いながら、ここが何処だか聞いてみた、すると


「あら、フェアリータちゃんも知っているかと思ったわ、ここ、あなたのお家からそう遠くはないわよ。ここは元米軍が駐屯していたキャンプ・ドレイクよ、埼玉県だけど、すぐ北側がもう練馬区だし」


 幸は、ようやく土地勘を取り戻しつつあった。

 そう言えば、練馬の直ぐ南あたりに、米軍キャンプ跡地があった事は記憶していた。

 ・・・まさか、自分がそんなところに入る事になるなんて、夢にも思わなかった。

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