第190話 女性同士

「ああ、フェアリータ!、本当にあなたってば、もう!」


 エレシーが、帰還した幸に思いっきり抱きつく。

 フェアリータとセシルは、久々にカウセルマン家に戻って来た。

 半年以上、前線に出ていた二人は、久しく敵のいない安全な地域でゆっくりと足を延ばす事が出来たかに見えた。

 再会したエレシーとヨヨは、本当にフェアリータを歓喜で出迎えた、それは英雄の凱旋と同じように。

 

「エレシー、ヨヨ、ただいま・・・・長らく留守にしてたけど、変わりはない?」


「当たり前でしょ、ここは帝都オルコアよ!、あなたの方がよほど心配だったわよ、まったく無茶して!、あなたにもしもの事があったら私、もう、本当に・・・」


 エレシーにとって、幸はもはや心の支えである。

 今の幸福があるのは、全て幸のお陰だと思っている。

 幸は、エレシーと言い、サナリアと言い、みんな本当に親切な人だなあと思っていた。

 それを横目で見ているセシルは、幸は女性からもモテモテなんだと、あらめて痛感する。

 他ならぬセシル自身も、幸のファンの一人だ。

 幸の持つ、この重力圏に引き込まれた男女を思うと、幸を失いたくないと強く思う。

 エレシーは、この事実を受け入れる事が出来るだろうか。

 一度この世界を離れてしまえば、もう会う事は出来なくなる、ミッションに成功すれば、幸と過ごした記憶すら無くなる。

 一度幸の重力圏に引き込まれた人間は、彼女を失うことに恐怖する。

 それでも幸は言わなければならない、大切な人達へ、お別れの言葉を。


「フェアリータ様・・・例の事は、いつ皆さんにお話しを?」


「そうね、出来るだけ早くしなければいけないわ」


「キャサリンさんの迎えは、いつなんですか?」


「・・・・・・」


 キャサリンは、時空間転移装置を使って、隠密にオルコ帝国まで幸を迎えに来ることになっていた。

 早くしないと、世界線を戻せなくなるリスクもあったが、辛い時間は、出来るだけ短くしてあげたいというキャサリンの思いもあった。

  

 幸は、お風呂に入りたいと申し出た。

 周囲は、きっと長い戦場生活を洗い流したいのだろうと、思っていた。

 しかし、日本に戻る最に、出来るだけこの世界の種子などを持ち込まないよう、身体を清めておくようキャサリンに言われていた。

 そんな事情とは知らず、カウセルマン家では幸のために昼間から入浴と晩餐の準備をしてくれてた。

 幸とセシルは、二人で先に入浴を勧められた。

 そう言えば、二人で入浴なんて、山賊村でもてなしを受けて以来だ。


「失礼、いいかしら!」


 幸とセシルは、その美しい裸体に、一瞬驚いてしまった。

 同じ女性同士ではあるが、幸とエレシーが一緒に入浴するのは初めてのことである。

 

「失礼しましたエレシー様、私、外します」


「なーに言っているのよセシル、貴女も一緒に入るのよ!」


 異様にご機嫌なエレシー。

 透き通るように色白で細い身体、それでいて出るところはしっかりと出ている、まるで彫像のように美しい裸体に、二人は思わず見惚れてしまうほどだった。

 それに引き換え、幸とセシルの身体は、美しいボディーラインに反して、生傷と痣が随所に見られた。


「本当に激しい戦いだったのね、私もお兄様に付いて行ければいいのに」


「エレシー、貴女は帝都に居て欲しいわ、きっとヨワイドも同じ想いだと思う。私達が戦っているのは、きっと貴方たちの笑顔を守るためなんだわ」


 随分、男前の事を言うんだな、とセシルは思った。

 ああ、やはりフェアリータを失いたくない、そう思う。

 

 満面の笑みを浮かべて幸の身体を洗おうとするエレシーを、ただ切なく見つめるセシルであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る